vol.105 花粉症の予防と根治に注目される治療法

健康・医療トピックス
いよいよ花粉症のシーズン。例年、九州では2月下旬、中国・四国・近畿・東海・北陸・関東南部では3月上旬、関東北部では3月中旬、東北地方では3月下旬頃にピークを迎えるといわれています。日本人の4人に1人が花粉症といわれ、マスクが手放せない人が増える時期。しっかり予防策をとるとともに、早めの治療で重症化を防ぎ、つらい症状を乗り切りたいものです。
vol.105 花粉症の予防と根治に注目される治療法

花粉症とは

花粉症は、私たちの体を守る免疫機能が異物である花粉に対して過剰に反応することが原因です。くしゃみや鼻みずは、体内に侵入した異物を体の外に早く排除しようとする生体反応ですが、花粉症では花粉の刺激によって体内にあるヒスタミンなどの炎症物質が放出し、神経などにあるヒスタミン受容体と結合することによってくしゃみ、鼻みずなどのアレルギー症状が起こります。

早い段階で症状を防ぐ「初期療法」

花粉の飛散が始まり、1~2週間にわたって花粉を浴び続けていると鼻の粘膜では炎症が起こります。我慢しきれないほど症状が重くなってから治療を開始したのでは、炎症が進んで回復するまでに時間がかかります。そこで、近年は花粉が飛散する前から治療を始めて症状の進行を防ぐ「初期療法」(または初期治療)が定着してきています。症状のない早い段階から薬で治療し、重症化を防ごうというものです。
初期療法で用いる薬は、「第2世代抗ヒスタミン薬」「ケミカルメディエーター遊離抑制薬」「抗ロイコトリエン薬」「Th2サイトカイン阻害薬」「抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンチンA2薬」の5種類。このうち1種類が選択され、花粉の飛散が終わる時期まで治療を続けることで、くしゃみや鼻みずなどのアレルギー症状に効果が得られます。
症状が中等症から最重症になった場合では、第2世代抗ヒスタミン薬か抗ロイコトリエン薬に「鼻噴霧用ステロイド薬」を併用する治療が一般的です。鼻詰まりの症状が重いときは、必要に応じて「点鼻用血管収縮薬」が用いられます。

根治に期待される新しい治療法

花粉症の治療には、薬物療法、免疫療法、手術療法があります。花粉症は薬による治療が中心ですが、対症療法のため、一時的に症状がなくなっても花粉が飛散する時期になると再び治療が必要になります。そこで、根治の治療法に注目が集まっています。そのひとつとして、現在、臨床試験が進められているのが「舌下免疫療法」です。スギ花粉の抗原エキスを浸み込ませた小さなパンを舌の下に入れ、約2分保持した後、飲み込みます。1日1回または週1回行う方法などがあり、2年継続することで効果があることがわかっています。
花粉症の免疫療法には、皮下に注射する方法もありますが、副作用の問題から対象は小学生以上に限られています。舌下免疫療法のメリットは、スギ花粉に特異的に反応を起こす人であれば、幼児から高齢者まで年齢を問わず治療できること、ショックを起こしにくいこと、通院回数が減らせることなどとされています。2014年には一般的な治療になると期待されています。
また、スギ花粉以外の花粉にも反応し、1年を通してアレルギー症状がある難治性のアレルギー性鼻炎には、内視鏡を使った「後鼻神経切断術」という新しい手術が行われています。鼻の中に内視鏡を入れ、粘膜を焼きながら後鼻神経を切断するもので、重症のくしゃみや鼻みず、鼻詰まりが改善します。鼻の手術といえば、以前は歯茎を切開して術具を入れていましたが、内視鏡による手術が進歩したことで患者の負担が軽くなり、手術時間も短縮されています。

QOLを視野に入れて、治療法の選択を

患者数が最も多いスギ花粉による花粉症は、スギ花粉が飛散する2月から5月頃まで続き、花粉の飛散が終了する6月頃には症状が治まるため、急性疾患のように思われがちです。しかし、一度かかると毎年繰り返す慢性疾患です。くしゃみ、鼻みず、鼻詰まりは、軽微な症状ですが、何度も繰り返されると生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼし、大人では仕事上の損失、成長期の子どもでは勉強などに集中できず、学校生活や成績にも関わってきます。
最近は、患者の低年齢化が進む傾向が見られます。幼児期に花粉症になると大人になってから発症した人より、長い期間治療を続けなくてはなりません。ですから、若い世代の人ほど、薬による対症療法をずっと続けていくのか、それとも根治を目指すのか、将来の生活の質を視野に入れて、医師と相談しながら納得する治療法を選ぶことが大切です。
また、薬局やドラッグストアでは、医療用から一般向けの薬に切り替わって手軽に購入できる花粉症の市販薬も増えています。昨年10月には、1日1回の服用でくしゃみ、鼻みず、鼻詰まりに効いて、眠くならない薬も登場しています。市販薬は忙しいときなどに使いやすいものですが、長く服用しても症状が改善しない人や症状が悪化する人は、早めに耳鼻咽喉科を受診して適切な治療を受けた方がよいでしょう。

監修 日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科 部長 大久保 公裕先生

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