vol.106 過活動膀胱(OAB)の新しい治療薬と薬物治療

健康・医療トピックス

ふだんの生活で感じる尿のトラブル。困っていても「年だから仕方ない」とあきらめたりしていませんか。日本人の40歳以上の男女を対象にした下部尿路症状の調査によると、全体の12.4%に「過活動膀胱(OAB)」の症状があり、810万人の患者がいると推定されています。過活動膀胱の特徴的な症状は「急に抑えきれない尿意が起こり、我慢できない」「日中や夜間も頻尿がある」「我慢しきれず、尿が漏れてしまう」などです。これらは適切な治療を行うことで改善できます。2018年9月には幅広い年齢層に使用可能な新しい薬が登場し、治療の選択肢も広がってきました。

vol.106 過活動膀胱(OAB)の新しい治療薬と薬物治療

過活動膀胱とは

過活動膀胱とは、急激に尿意をもよおして我慢できなくなる(尿意切迫感)症状がみられる病気です。通常では、膀胱と尿道の働きは、脳によってコントロールされています。尿を溜めるとき、交感神経の末端からノルアドレナリンという神経伝達物質が放出されることで、膀胱内は緩み、尿道は収縮して尿が溜まります。一方、排尿するときは副交感神経の末端からアセチルコリンが放出され、膀胱内はしぼむように収縮し、尿道は緩んで尿が排出されます。

過活動膀胱は、このような膀胱の働きにエラーが生じた状態です。尿を溜めるタイミングで膀胱内に異常な収縮が起こるため、尿が少量しか溜まっていないのに勝手に強い尿意を感じたり、頻尿になったりして、尿が漏れることもあります。

過活動膀胱の原因はさまざまです。脳梗塞や脳出血、パーキンソン病などの脳や脊髄の病気によって起きるものが20%、そのほかに、加齢、骨盤底の筋力低下、尿道の通りが悪くなる下部尿路閉塞などが挙げられ、原因がはっきりしない特発性タイプもあります。

副作用の少ない治療薬が登場

過活動膀胱の治療法には、尿意を数分ずつ我慢する「膀胱訓練」や骨盤底の筋力低下を防ぐ「骨盤底訓練」などの行動療法もありますが、過活動膀胱と診断された場合、女性では「抗コリン薬」が第一選択薬として使用されてきました。これは過活動膀胱に用いる代表的な薬で、膀胱にあるムスカリン受容体と結合してアセチルコリンの神経伝達を阻止することで膀胱の異常な収縮が起きないように作用するものです。しかし、高い効果が期待できる一方で、服用すると口の渇きや便秘、目の調節障害などの副作用が起きることが問題となっていました。

こうした背景から、2011年以降に新たなOAB治療薬として「β3アドレナリン受容体作動薬」(一般名ミラベグロン)が使用されるようになりました。口の渇きや便秘などの副作用はなく、強い尿意や頻尿、尿もれの症状に対しては、抗コリン薬と同等の効果があります。ただし「生殖可能な年齢の患者には投与をできる限り避ける」という注意喚起があり、治療対象は中高年以降の女性が中心になっていました。

そこで、2018年に新しく登場したのが、同じくβ3アドレナリン受容体作動薬の「ビベグロン(商品名ベオーバ)」です。基本的な作用はミラベグロンとほとんど同じですが、生殖可能な年齢でも使いやすく、禁忌、相互作用薬が少ないため、より使いやすくなっています。

男性に多い前立腺肥大症による過活動膀胱

男性の場合、過活動膀胱の原因の一つは前立腺肥大症です。主な症状は「おしっこの勢いが悪い」「尿が途中でとぎれる」「出しにくい」というもので、尿道の通りが悪くなることで起こります。それに加えて約半数の人に「急に尿意をもよおして、我慢ができない」などの過活動膀胱の症状がみられます。

このような場合、まず「α1アドレナリン受容体阻害薬」が治療に用いられます。前立腺や尿道の平滑筋を緩ませて、尿道の通りをよくすることによって過活動膀胱の症状を抑えていく薬です。しかし、尿は出やすくなっても、過活動膀胱の症状が改善しない人もいます。そのときは、男性ホルモンが前立腺組織に作用するのを抑える「5α還元酵素阻害薬」を使って、膀胱の異常な収縮を抑制し、尿道の圧迫を軽減します。

尿のトラブルは泌尿器科で治療を

尿の悩みや症状は、人によってさまざま。過活動膀胱で治療を受けるかどうかは、日常生活で自分が困っているかが目安になります。抑えられない尿意や頻尿、尿もれなどは、明らかな症状です。生活に支障をきたしているなら、我慢を続けないで治療を始めることをおすすめします。

また、尿にかかわることは、泌尿器科が専門領域です。内科でも治療を受けることは可能ですが、泌尿器科ではさらに詳細な検査を行っています。内科で薬を処方されているがなかなか症状が改善されないというときは、泌尿器科を受診しましょう。

監修 東京女子医科大学東医療センター
骨盤底機能再建診療部・泌尿器科教授 巴ひかる先生

(参考)
『新規過活動膀胱治療薬について』鹿児島市医報
https://www.city.kagoshima.med.or.jp/kasiihp/wordpress/wp-content/uploads/2019/02/2019-07.pdf
『生殖可能年齢でも使いやすい過活動膀胱治療薬』日経メディカル
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/201810/558138.html
『前立腺肥大症の治療法のいろいろ』旭化成ファーマ株式会社
https://www.asahikasei-pharma.co.jp/health/prostate/etc.html

更新日:2021.05.21

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