vol.107 最新の治療と予防を知って、骨粗鬆症を防ごう

健康・医療トピックス
一生のうちで最も骨折しやすいのは、体のどの部位だと思いますか? 答えは脊椎。背骨です。骨折というとポキッと折れるイメージがありますが、骨がつぶれる骨折もあります。脊椎で起こりやすいのは、骨がもろくなってつぶれる圧迫骨折です。

骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は、骨の量が減って骨の中がすかすかになり、骨折しやすかったり、骨折したりする状態です。歳をとって背中や腰が曲がってくると姿勢が悪くなっただけと思いがちですが、骨の中では骨粗鬆症が進んでいる可能性があります。また、症状がなく、背中や腰が曲がっていないケースでも身長が2㎝低くなっていたら要注意です。脊椎骨折の疑いがあります。
vol.107 最新の治療と予防を知って、骨粗鬆症を防ごう

高齢化で増える骨粗鬆症

いま日本では、高齢化の加速に伴って骨粗鬆症が増えています。2011年12月に改訂された「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」によると、骨粗鬆症の患者は1280万人。男性は300万人、女性は980万人で、このうち治療を受けている人は350万人。約70%の人が治療を受けていないという現状が浮き彫りになっています。
骨粗鬆症は寝たきりや要介護になる原因疾患の一つで、脳血管疾患に次いで多い病気です。さらに怖いのは、発症すると死亡リスクも高くなるということです。骨粗鬆症によって脊椎の椎体(円柱状の骨)で骨折が1箇所起こると、隣接する椎体が連鎖して骨折し、次は大腿骨が骨折するなど、多発するとともに骨折部位が変わっていく傾向があります。こうなると全身のバランスが変化して内臓が圧迫されます。心臓や肺、胃腸などに負担がかかると体が正常に機能できなくなるため、健康が維持できず生活の質は極端に悪化します。それによって死亡するリスクは脊椎骨折で8.6倍、大腿骨のつけ根の骨折では6.7倍とされています。
軽く見られがちな骨粗鬆症ですが、死につながるということをもっと知っておくべきでしょう。

進んできた骨粗鬆症の薬物治療

骨粗鬆症は、診断、治療、予防に関する各種の研究が進んでおり、診断された場合は、年齢や骨折リスクに応じた薬で骨折の発生を防ぐことができます。治療で最も多く用いられている薬は、ビスホスホネート製剤のアレンドロネートです。骨は新陳代謝を繰り返し、破骨(はこつ)細胞が古い骨を壊し、骨芽(こつが)細胞が新しい骨をつくって、絶えずつくり替えられています。この薬は破骨細胞に働きかけて骨の破壊を抑制します。これまでは1日1回や週1回服用するものが主流でしたが、今年5月には、4週に1回点滴で投与する新しいタイプの薬が登場します。いままでの経口薬とは異なり、点滴で投与するため胃腸障害の副作用がなく、飲み忘れも起きないことから十分な量が体内に入り、その効果が期待されています。
また、2010年に登場した副甲状腺ホルモンのテリパラチドは、骨の形成を促進する治療薬です。こちらはアレンドロネートとは作用が異なり、骨をつくる骨芽細胞の方に働いて骨の量を増やし、骨の質をよくする効果があるとされています。

発症予防に必要なビタミンDとビタミンB群

骨粗鬆症は進行すると治療の効率が上がりにくいため、早くから発症を予防していくことが重要です。「人生90年」の時代を迎え、長く健やかに生きるには積極的に骨を守っていく必要があります。
一生のうちで骨が最も増えるのは、1~4歳と10~14歳。18歳をピークに骨の量は少しずつ減っていくので、成長期はよい生活習慣を身につけて骨の貯えを増やしましょう。女性は、女性ホルモンのエストロゲンによってさまざまな病気から守られていますが、更年期以降はとくに注意が必要です。エストロゲンの分泌が減ることで生活習慣病にかかりやすくなったり、壊される骨の方が多くなったりして骨粗鬆症のリスクが高まります。
また、骨の減少というと、原因としてはカルシウム不足が思い浮かびますが、最近、世界で注目されているは潜在的なビタミンDの不足です。ビタミンDは腸管でカルシウムの吸収を助ける栄養素。血液中に不足していると治療でアレンドロネートを用いても効果がなく、骨折を防ぐことができないことがわかってきたのです。ビタミンDは紫外線を浴びることで体の中でつくられますが、食事からも摂取する必要があるものです。食生活では、骨の材料となるカルシウムだけでなく、吸収を助けるビタミンDとともに、しなやかで折れにくい骨をつくるビタミンB6、ビタミンB12、葉酸なども補っていくことが大切です。

骨の細胞は、血管や脂肪の細胞と同じ幹細胞が起源とされ、体内ではお互いに影響し合っています。動脈硬化の人は骨の量が減りやすく、骨の量が少ない人は動脈硬化になりやすいこと、さらに、2型の糖尿病では大腿骨のつけ根の骨折が約1.4~1.7倍に増えることなども最近の研究からわかっています。体の柱である骨をまず丈夫に支えてこそ、ゆるぎのない健康が得られ、自立した老後が可能になります。

監修 国際医療福祉大学 臨床医学研究センター教授・
山王メディカルセンター 女性医療センター長 太田博明先生

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