vol.108 タバコは薬で治療できる! 増えてきた保険適用の「禁煙外来」

健康・医療トピックス
今度こそ禁煙しよう!と心に決めたのに、「1本だけ……」と手が伸びる。こんなタバコとのつき合い、長く続けていませんか。世界の喫煙者数を比べてみると日本はワースト6位。喫煙者が最も多いのは中国で、次いでインド、インドネシア、ロシア、アメリカ、日本の順になっています(世界のタバコの流行に関する報告 WHO 2008)。このように日本は世界の国々と比べてまだ喫煙者は多いのですが、平成22年の国民健康・栄養調査によると「禁煙したい」と思っている人は、男性は35.9%、女性は43.6%であり、その割合は年々増加しています。どうやら日本の喫煙者の3分の1は、タバコをやめたいと思いながらやめられない状況にある、といえそうです。
vol.108 タバコは薬で治療できる! 増えてきた保険適用の「禁煙外来」

タバコがやめられないのは、脳の病気

タバコは健康によくないから禁煙したい。頭ではよくわかっているのに、なぜやめられないのでしょうか。これは脳の働きと関係があります。タバコは嗜好品、吸うことは文化や風習、個人の趣味と一般的に思われがちです。しかし、タバコがやめられないのは「脳の病気」。医学的にはそのようにとらえられています。
タバコの煙にはニコチンという有害物質が含まれています。脳の中にはニコチンを感知する場所(受容体)があり、タバコの煙を吸い込むとそこにニコチンがくっついて、ドパミンという物質が分泌され、気持ちがよくなったり、おいしいと感じたりします。私たちの脳にはこのような「脳内報酬回路」と呼ばれるしくみがあるため、なかなかタバコをやめられないのです。

もうひとつの理由は、ニコチンの依存性です。次のようなことは、ありませんか?
・「朝起きるとすぐにタバコを吸いたくなる」
・「禁煙の飛行機から降りるとすぐにタバコが吸いたくなる」
・「タバコが切れるとすぐに買いに行く」
・「職場が禁煙になると困る」
・「高熱で寝込んでもタバコは吸う」 

上記の項目のうち、ひとつでも当てはまっているという方は、ニコチン依存症かもしれません。ニコチンの依存度は、喫煙開始年齢が若い人ほど、また、1日に吸うタバコの本数が1~2本より20~30本の人ほど高いといわれています。このようなケースは、気持ちだけで依存に打ち勝とうとしても難しいことがあります。医療のサポートを受けて適切な指導を受けた方が、禁煙そして健康への近道です。
近年は健康保険で禁煙治療ができる医療機関が増えており、現在、禁煙外来を開設している医療機関は、1万3521件(2012年4月27日現在)。禁煙したいのにできないという人は、身近な医療機関を探してみるのも方法です。

禁煙は薬で治療できる

健康保険で禁煙治療を受けるには、条件があり、問診でこれを満たすと健康保険を用いた治療を受けることができます。治療は禁煙の指導と禁煙補助薬を用いた薬物治療が一般的です。薬は経口薬のバレニクリン(一般名)と皮膚に貼るニコチンパッチがあり、現在、主流となっているのはバレニクリンです。この薬は脳のニコチン受容体に結合して作用するもので、飲んでいると「タバコをやめたらつらい」「タバコが吸いたい」「タバコがないとイラつく」という症状が緩和され、タバコを吸わなくてもある程度満足感があります。また、ニコチン受容体にニコチンが結合するのを阻止するため、服用中にタバコを吸ってもおいしいとは感じません。この2つの効果で禁煙成功率が高いとされています。健康保険が適用になる服用期間は12週間、治療にかかる費用は1日1箱吸う人の場合、タバコ代にして約2か月分です。

病院で禁煙治療というとぐっと肩に力が入りがちですが、1回の治療ですべての人が禁煙に成功するわけではありません。ですから、失敗しても諦めないこと。禁煙治療は気張らず、何度でも再チャレンジする姿勢が大切です。
なお、バレニクリンは、日本ではすでに130万人以上の人に使われている薬ですが、まれに吐き気や意識を失うなどの副作用が現れることがあります。使用する際は日常生活での注意点を医師によく聞いて、必ず食後に服用し、服用したら運転は控えましょう。

受動喫煙による肺がんが増えている

タバコの煙に含まれる化学物質は、4000種類以上といわれ、あらゆる病気を引き起こすことがわかっています。喫煙が原因となる代表的な病気は、がん、心臓病、脳卒中、肺炎、肺気腫など。がんでは、肺がん、胃がん、肝がん、膵がんなどが多くなっています。
この中でいま、タバコを吸わない人にも肺がんが増えていることが問題となっています。夫の喫煙によって喫煙しない妻が肺がんになるリスクは、喫煙しない夫を持つ妻の約2倍。つまり、受動喫煙の影響によって、肺がんのリスクがぐっと高まることがわかってきました。また、喫煙しない人が受動喫煙で糖尿病になるリスクは、約1.8倍と報告されています。タバコの煙は動脈硬化を促進する最大の因子でもあります。
全面禁煙のスペースが増えるなど禁煙の意識は高まりつつありますが、屋外でタバコを吸ったとしても煙の有害物質は衣服にしみつき、吐いた息からも放出されます。家庭や職場などにタバコを吸う人がいたら、周りの人はすべて影響を受けることになります。タバコを吸う人は自分の体だけでなく、周囲の人の健康にも十分に気を配りたいもの。それが大人のマナーでしょう。

監修 北里大学北里研究所病院 呼吸器内科部長 鈴木幸男先生

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

商品を見る