vol.112 高齢者に増えている糖尿病と認知症の併発
健康・医療トピックス
夏の暑さが去り、そろそろ食欲の秋。思いっきり食べたいけれど体重と血糖値が気になるという人、多いのではないでしょうか。
血糖値とともに、糖尿病の診断に用いられる「HbA1c」(ヘモグロビンエーワンシー)をご存じですか。この数値が今年4月から改められています。HbA1cは、血液の成分であるヘモグロビンに糖が結びついた物質。過去1、2カ月間の平均的な血糖値を反映するもので、血糖コントロールの重要な指標です。これまで日本では、独自の基準値を用いてきましたが、アメリカを中心とする海外の標準値との間にずれがありました。そこで、2010年から検討が進められ、従来の日本の基準値に約0.4%を加えた「HbA1c(NGSP値)」に統一されました。現在は変更から間もないことから、新しいHbA1c(NGSP値)と従来用いられてきたHbA1c(JDS値)の両方の数値を併記する医療機関がほとんどですが、数年以内には完全にHbA1c(NGSP値)に移行される予定です。数値だけを見ると急に血糖値が悪くなったと勘違いしがちですが、基準値が変わっただけですから心配する必要はありません。
血糖値とともに、糖尿病の診断に用いられる「HbA1c」(ヘモグロビンエーワンシー)をご存じですか。この数値が今年4月から改められています。HbA1cは、血液の成分であるヘモグロビンに糖が結びついた物質。過去1、2カ月間の平均的な血糖値を反映するもので、血糖コントロールの重要な指標です。これまで日本では、独自の基準値を用いてきましたが、アメリカを中心とする海外の標準値との間にずれがありました。そこで、2010年から検討が進められ、従来の日本の基準値に約0.4%を加えた「HbA1c(NGSP値)」に統一されました。現在は変更から間もないことから、新しいHbA1c(NGSP値)と従来用いられてきたHbA1c(JDS値)の両方の数値を併記する医療機関がほとんどですが、数年以内には完全にHbA1c(NGSP値)に移行される予定です。数値だけを見ると急に血糖値が悪くなったと勘違いしがちですが、基準値が変わっただけですから心配する必要はありません。
糖尿病の合併症として注目される「認知症」
ところで、平成19年(2007年)の国民健康・栄養調査によると「糖尿病が強く疑われる人」※1と「糖尿病の可能性を否定できない人」※2を合わせた有病者数は、約2210万人。糖尿病は増加しており、男女ともに高齢になるほど糖尿病の割合が増えています。平成22年(2010年)の同調査では、70歳以上の男性は22.4%、女性は16.5%。70歳以上の5人に1人は、糖尿病が強く疑われるという結果になっています。
糖尿病の三大合併症といえば、網膜症、腎症、神経障害ですが、近年は「認知症」もその一つとして注目され始めています。認知症は「アルツハイマー型」と「脳血管型」に大きく分けられますが、糖尿病の高齢者は糖尿病ではない高齢者と比べて、どちらの認知症でも約2倍に増えます。認知症の発症率は、糖尿病の期間が長いほど高く、動脈硬化や腎症などが進んでいる人にリスクが高いことがわかっています。さらに、認知症があると糖尿病になりやすいことも明らかになっています。
糖尿病の三大合併症といえば、網膜症、腎症、神経障害ですが、近年は「認知症」もその一つとして注目され始めています。認知症は「アルツハイマー型」と「脳血管型」に大きく分けられますが、糖尿病の高齢者は糖尿病ではない高齢者と比べて、どちらの認知症でも約2倍に増えます。認知症の発症率は、糖尿病の期間が長いほど高く、動脈硬化や腎症などが進んでいる人にリスクが高いことがわかっています。さらに、認知症があると糖尿病になりやすいことも明らかになっています。
浸透しつつある「個別医療」
糖尿病の治療は、科学的な根拠に基づいて行うことが大切です。しかし、最近は「個別医療」の考え方も浸透しつつあります。同じ糖尿病の人でも、認知症を発症している人とそうでない人とでは、治療の状況がかなり異なるからです。たとえば、糖尿病では患者への教育が欠かせません。ところが、認知症になると自己管理そのものが難しいため、食事療法や運動療法の効果は乏しくなり、食事をしたか薬を飲んでいるかどうかもわからなくなります。また、糖尿病は血糖値が常に不安定です。上がったり下がったりしても、体の不調や症状を訴えることもできません。さらに糖尿病の高齢者は薬物療法によって低血糖を起こしやすいため、認知症を併発すると危険な状態といえます。
個別医療は、こうするべきと一律に治療を決めるのではなく、患者本人がどのような治療を望んでいるかを重要視します。認知症であってもどうしたいかを聞き取り、その人の社会的な状況や置かれている状態などを総合的に考慮して治療法を提案しようというものです。場合によっては目標値を少しゆるめに設定し、その人に適した治療法を示します。
今後、高齢化がすすむと認知症は避けて通れない問題です。糖尿病と認知症を併発した人に対しては、家族が協力したり、介護保険や在宅医療を活用したりして社会全体でバックアップしていくことが求められるでしょう。認知症を発症すると糖尿病の治療がなかなかうまくいかないケースがあります。そのような場合は、糖尿病の専門医に相談するのも一つの選択です。治療経験を積んでいる専門医なら、その人に合った治療法を提示できる可能性が高いからです。
個別医療は、こうするべきと一律に治療を決めるのではなく、患者本人がどのような治療を望んでいるかを重要視します。認知症であってもどうしたいかを聞き取り、その人の社会的な状況や置かれている状態などを総合的に考慮して治療法を提案しようというものです。場合によっては目標値を少しゆるめに設定し、その人に適した治療法を示します。
今後、高齢化がすすむと認知症は避けて通れない問題です。糖尿病と認知症を併発した人に対しては、家族が協力したり、介護保険や在宅医療を活用したりして社会全体でバックアップしていくことが求められるでしょう。認知症を発症すると糖尿病の治療がなかなかうまくいかないケースがあります。そのような場合は、糖尿病の専門医に相談するのも一つの選択です。治療経験を積んでいる専門医なら、その人に合った治療法を提示できる可能性が高いからです。
糖尿病は予防と早期からの治療が大事
糖尿病の初期は、ほとんど自覚症状がありません。健康診断で血糖値が高めだったにもかかわらず、たいしたことはないと思い込んでいる人も多いのではないでしょうか。糖尿病を悪化させるのは、そのまま放置したり、治療を途中で中断したりするケースです。自覚症状がなにもなくても、糖尿病は体内で進行していきます。そして、体に異変を感じたときには、合併症が相当に進んでいます。糖尿病は生活習慣病。食事や運動などで、まずはならないように予防することが第一です。健康診断で糖尿病の疑いや可能性が見つかったときは、放っておかずに医療機関を受診しましょう。早めに適切な治療を開始し、血糖を良好にコントロールすることが合併症の進行を防ぎ、認知症の予防にもつながります。
※1 HbA1cの値が6.1%以上、または、質問票で「現在糖尿病の治療を受けている」と答えた人
※2 HbA1cの値が5.6%以上、6.1%未満で、※1以外の人
・脚注の判定基準は HbA1c(JDS値)による
監修 東京女子医科大学 東医療センター内科 教授 佐倉 宏先生
※このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。