vol.121 健康寿命を延ばし、認知症のリスクを下げる身体活動

健康・医療トピックス
体を動かさないと死亡に対するリスクが高くなる。こんなデータがあることをご存じですか? 世界の全死亡者数の9.4%は、「身体活動不足」が原因です。また、WHO(世界保健機関)は身体活動不足を、高血圧、喫煙、高血糖に次ぐ第4位の死亡に対する危険因子に挙げています。これを受けて、世界各国では身体活動に関する研究が行われていますが、日本でも今年3月、厚生労働省から「健康づくりのための身体活動基準2013」が公表されました。平成18年に策定された「健康づくりのための運動基準2006」を見直したもので、急激に進む高齢化に向けた介護予防、生活習慣病やがんの予防など、国民の現状をふまえた新しい身体活動の方向性が示されています。今回の改定の大きなポイントをご紹介しましょう。
vol.121 健康寿命を延ばし、認知症のリスクを下げる身体活動

新基準のポイント

1.「高齢者」の目標を設定
65歳の人に対して「1日40分」、歩数にして「6000歩」の身体活動が目標になりました。旧基準は生活習慣病の予防を目的にしていたため、高齢者の目標はありませんでした。
この科学的な根拠となったのは、65歳以上を対象とした世界の疫学研究です。高齢になると認知症、骨粗鬆症、寝たきりなどのリスクが高くなりますが、体をよく動かす人は、家の中でじっとしている人より認知症になるリスクが低く、身体活動によって骨折、膝痛、腰痛などのロコモティブシンドローム(運動器症候群)になりにくいことがわかってきました。
現在、日本では、65歳以上で認知症の人が約462万人(2012年時点)。認知症の予備軍ともいえる軽度認知障害(MCI)も約400万人いることが厚生労働省研究班の調査で報告されています。東日本大震災の被災地では、仮設住宅の高齢者に「生活不活発病」が増加。介護認定者が急増しました。
体を動かさないと運動機能が低下して、認知症が進行したり、寝たきりになったりします。脳梗塞や心筋梗塞などを起こすリスクも高まることから、高齢期の身体活動を重要視しています。

2.「プラス10(テン)」を目指す
「いまより10分長く、体を動かしましょう」という目標です。身体活動は人によってさまざまです。スポーツが好きな人、まめに動いて体を動かす人、家にいてほとんど動かない人などいろいろですが、世界の研究を分析した結果、いまの生活に身体活動を10分プラスすることで病気を予防する効果が証明されました。何歳の人でも、病気のある人やない人も、体力のある人やない人も、誰でも活用できる目標という点が大きな特長です。

3.運動から「身体活動」に変更
これまで健康のためには、有酸素運動や筋力運動などがいいといわれてきました。しかし、消費されるエネルギー量は、それほど多くありません。むしろ電車に乗って通勤したり、家事をしたり、日々の低い身体活動の方が1日の総エネルギー消費量に大きく関わっていることがわかってきました。肥満の研究では、テニスやサッカーなどの運動より、運動以外の家事といった強度の低い身体活動と関連が強いという報告もあります。そこで、運動も含めたすべての身体活動という概念を基準の名称に採用しました。

今後、問題になる「不活動」

世界で身体活動の有効性が注目されるなか、それと同じくらい大きな問題になりつつあるのが「不活動」です。パソコンの前に座って朝から夜までデスクワーク、スマホでゲームやメール。1日の大半をこのように過ごしていませんか? 当てはまる人は不活動時間が長い可能性があります。日本では、これからますます増えてくると予想されています。
体を動かすことは、肥満、生活習慣病、がん、ロコモティブシンドローム、認知症などのリスクを下げるだけではありません。気分をリフレッシュして、ストレスを解消する効果もあり、増加傾向にあるうつや気分障害の改善にも大いに注目されています。さらに、身体活動は人や社会ともつながっています。行動することで人と会い、あいさつをして、会話をします。人と関わって、社会の中でなんらかの役割を担うことが健康を支える大事な鍵になります。
病気予防のための身体活動は、何歳からでも始められます。18~64歳は1日60分。歩数にして8000歩。65歳以上は1日40分、6000歩が目標です。1日1000歩足りないということは、身体活動が10分足りない状態。まずは、プラス10から始めてみましょう。
また、身体活動の前には、自分の現状を知っておくことが大切です。そのときに役立つのが活動量計や歩数計などです。「身体活動は足りているか?」「5000歩しか歩いていなかった」など気づくことで行動が変化し、よりよい方向が目指せます。健康チェックのための測定機は、自分がいまどの位置にいるかを客観的に教えてくれる先生のようなもの。上手に活用しましょう。

監修 独立行政法人 国立健康・栄養研究所 健康増進研究部長 宮地元彦先生

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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