vol.122 夏山シーズン到来!活躍が期待される山岳ドクター

LINEで送る 一覧に戻る
Vol.122 夏山シーズン到来!活躍が期待される山岳ドクター 80歳で世界最高峰のエベレスト登頂に成功されたプロスキーヤー三浦雄一郎さんのニュースに、人生まだまだこれからと、刺激を受けた人も多いのではないでしょうか。年齢や体力の壁を超えたチャレンジ。快挙を成し遂げ、無事に生還した背景には、さまざまな専門家によるサポートがあったといわれています。遠征隊に同行し、医療面から三浦さんを支えた大城和恵医師もその一人。日本で初めて国際山岳医に認定された女性医師です。国際山岳医は、いわば世界が認めた山岳医療のスペシャリスト。国内で国際山岳医に認定されている医師は、現在では20人となり、山で活躍する医師や山岳医を目指す医師たちが増えています。

単独でも山に登り、医療活動ができる国際山岳医

国際山岳医は、1997年に国際山岳連盟医療部会によって制定されました。山岳医学の臨床、および研究をあらゆる面において実践できる医師の養成を目的としたものです。オーストリア、ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、スイス、スペインの7カ国が導入。日本では、2010年に日本登山医学会のプログラムが認定条件を満たしていると判断され、国際山岳医の資格取得が可能になりました。その後、アメリカ、カナダでも導入されています。
同学会の国際山岳医の理念には、「高所医学、山岳医学、旅行医学等に関する高度な医療知識のみならず、山岳環境でのサバイバルやレスキューに関する十分な技術があり、山岳救助関係者と共に活動ができ、万一の場合には、単独で下山できるレベルの登山技術が求められる」とあります。山で病気やけがの治療ができるだけでなく、夏山や冬山における登山技術や山で余裕を持って行動できる体力も必要とされ、国内山岳医より一段高いレベルが求められています。認定には、125時間を超える講義とクライミングなど現地での実技・実習を5年以内に受講し、合格することが要件です。現在は、山梨県、長野県、富山県、群馬県など山岳地帯で救命救急を担当する中核病院の医師たちが多く受講しています。
また、最近では長野県が「信州型総合臨床医」という概念を打ち出し、山岳医の講習内容の一部が活用される予定です。信州型とは、フィールド(野外)や山の事故などに対応できる専門知識と技術をもった医師のこと。地域に根差して救命救急に貢献できる、新しい総合診療医の育成に取り組み始めているのです。

山岳医療から「災害医療」に広がる活動

日本における救急医療は、都会で発生した事故や病気、災害に対しては、医療機関とうまくリンクして確実な治療が行われています。誰かが倒れたらどうしたらいいか。科学的根拠に基づいたライフサポートが標準化され、多くの命が救われています。
しかし、それ以外の地域や山などで発生した事故、病気、災害などについては、個人的な経験などで済まされ、科学的な根拠による救助法は積み上げられてきませんでした。また、2011年の東日本大震災では尊い命が失われました。救助活動から、死因の多くはクラッシュシンドローム(体の一部が長時間圧迫をうけ、その後起こるさまざまな症候)や低体温症だったことがわかっています。そこで同学会では、科学的な根拠に基づいた山岳医療の構築とともに、大災害で都市機能やシステムが壊れてしまったとき、医療をどうするかを考える「災害医療」まで活動の範囲を広げたいとしています。

気をつけたい高山病。原因は低酸素

さて、そろそろ夏山のシーズン。今年は富士山が世界文化遺産に登録され、その効果もあって登山者の増加が見込まれています。旅行会社のツアーに申し込めば、高い山も簡単に登れそうですが、過信は禁物。ふだんの生活環境とは、大きく異なります。
山で最も起こりやすいのは、高山病です。これは酸素が少ないことが原因。山などの高所では大気中の酸素が少なく、標高が3000mでは平地の2/3、エベレストのように8000mを超える山の頂上では、1/3に減るといわれています。体内に取り込まれる酸素が減ると血液中のヘモグロビンも減少。全身に血液が行き渡らなくなります。元気なつもりでも、山ではそこにいるだけで低酸素という負担がかかっているのです。
急性高山病の症状は、頭痛が最も多く、そのほかには、食欲不振、嘔吐、下痢などの消化器症状、倦怠感または虚脱感、めまいまたはもうろう感、睡眠障害などの症状がみられます。頭痛とこれらの症状のうち、1つ以上当てはまったら急性高山病と国際的に定められています。標高2500mの山に急激に登った場合、25%の人に3個以上の症状が現れ、3500mではほとんどの人が症状を経験し、10%は重症化するとされています。注意が必要です。
高山病のリスクが高いのは、過去に急性高山病や高地肺水腫、高地脳浮腫になったことがある人や、高齢者、慢性疾患のある人、肥満者など。1日で標高2800m~3500m以上という急激な高度変化があることに加え、脱水や過労も危険な条件です。急性高山病は気をつけることで症状が軽くなり、予防できます。出発前からきちんと準備しておくことが重要です。急性高山病にならないためには、まず日頃から有酸素運動で体力を高めておきましょう。登山はゆっくりと高度を上げ、少しずつ高所に馴れる計画を立てましょう。また、山での体調管理は自己責任。体調不良を引き起こす暴飲暴食は避け、適切な水分摂取を心がけたいものです。高齢者や持病のある人、体調が心配な人は、出発前に主治医に相談し、緊急時の対応を確認しておくとよいでしょう。

監修 東京医科大学病院 渡航者医療センター 教授 
    一般社団法人 日本登山医学会 副会長  増山 茂先生
  • このコラムは、掲載日現在の内容となります。
    掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

この記事をシェアする

LINEで送る
blank 商品のご購入はこちら
このページの先頭へ戻る