vol.124 膝軟骨の再生医療と「変形性膝関節症」
日本整形外科学会の「整形外科新患調査2012」によると、部位別の新患件数で最も多いのは腰椎で、次いで膝関節となっています。下肢では膝関節が最多で、約半数を占めています。受療率を年齢別に見ると男女ともに10代が高く、20~30代では減るものの、以降は加齢とともに増加し、男性では80~84歳、女性では75~79歳が一番高くなっています。
高齢化社会を迎えて注目が集まる骨、関節、筋肉など運動器の健康。2013年4月には整形外科の分野では日本で初めて、膝軟骨の再生医療が保険適用になりました。
今回、保険適用になったのは、患者の膝軟骨の一部を採取して、コラーゲンが入ったゲル状の物質の中で約1か月培養し、欠損した膝軟骨に移植するという治療法。対象となる病気は、スポーツや事故などによる「外傷性の軟骨欠損症」と「離断性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)」です。
ただ、軟骨を再生させる治療が最も期待されている「変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)」については、治療範囲が広いなどの理由で残念ながら適用外となっています。

保険適用になった膝軟骨の病気とは
離断性骨軟骨炎とは、一般には聞き慣れないと思いますが、10代のスポーツ選手に発症しやすい膝の病気です。骨がその表面を覆っている軟骨とともに剥がれたために、ひっかかりやずれを感じ、進行すると痛みが強くなります。炎症が起きると腫れて水が溜まり、膝の正常な曲げ伸ばしができなくなります。原因はスポーツによる膝の使い過ぎなどによって、軟骨下の骨に負担がかかるためと考えられています。
膝の外傷性の軟骨欠損症と離断性骨軟骨炎の治療は、軟骨が壊れていない場合は再接着することで治すことができます。軟骨がバラバラに砕けてしまったときは、モザイクプラスティー(自家骨軟骨柱移植術(じかこつなんこうつちゅういしょくじゅつ))という治療が行われます。これは膝の骨と軟骨を円柱状にくり抜き、欠損したところに移植する治療法です。しかし、このような治療法で治癒が難しく、さらに欠損した軟骨の面積が4㎝²以上の欠損部位に適用する場合に限って、保険適用が認められたわけです。
■加齢とともに増加する「変形性膝関節症」
膝関節は、体の中で最も大きい関節です。変形性膝関節症は、その骨の表面を覆っている軟骨が徐々に擦り減り、なくなってしまう病気です。原因はわかっておらず、加齢による関節軟骨の老化、肥満、筋力の低下などがリスクファクターといわれています。女性に多いことも特徴で、患者は1000万人とも推測されています。初期の症状は、立ち上がるときや歩き始めに痛みがあります。中期になると痛みが強くなって歩行や階段の上り下り、正座がしにくくなり、末期では軟骨がなくなるため、O脚が進行して歩行が困難になります。
変形性膝関節症を起こす「半月板損傷」
日本人の患者の多くは、原因がはっきりしない一次性の変形性膝関節症ですが、膝の既往歴やリウマチなどの病気がある場合は、原因がはっきりした二次性が疑われます。
中でも、半月板損傷(はんげつばんそんしょう)は、気をつけたい病気の一つです。スポーツをする人にとって、半月板損傷や前十字靱帯損傷(ぜんじゅうじじんたいそんしょう)は深刻なケガです。半月板は、太ももの骨とすねの骨の間にあるC字型の軟骨で、内側と外側に一対あり、クッションの役割をしています。前十字靱帯は、太ももの骨の後方からすねの骨の前方をつなぐ靱帯。膝の機能を安定させています。半月板損傷は体重がかかった状態で膝に強い衝撃が加わったときなどに生じます。前十字靱帯損傷は、スポーツ中に急に膝を横にひねったときやジャンプで着地したときに起こります。
手術で治療後、スポーツに復帰するまでの期間を比べると前十字靱帯損傷は半年以上かかりますが、半月板損傷は術後リハビリを行うと2~3か月で復帰できます。そのため、半月板損傷のほうが軽症のイメージがあります。ところが、長期的に診ると手術で半月板を取り除いてしまうと治療後に骨の表面を覆っている軟骨に負担がかかり、二次性の変形性膝関節症を起こすことがわかっています。
膝を酷使するスポーツ選手では、それによって引退に追い込まれることもあり、軽視は禁物です。
検査を受けたときや痛みがあるときの注意点
膝の病気は、MRI検査による画像診断が進み、早期に治療できるようになってきました。しかし、「半月板が傷んでいる」と指摘され、すぐに治したいと手術で取り除いてしまうと、加齢とともに二次性の変形性膝関節症のリスクが生じます。痛みがある場合は、半月板と骨の表面を覆っている軟骨のどちらに痛みの原因があるのか、しっかり鑑別診断を受けて適切な治療法を選択することが大事です。
また、中学生や高校生では膝の痛みを成長痛と安易に判断し、受診の機会を逃して重症化してしまうことがあります。「放課後3時間、週末4~5時間の練習」をしているスポーツ系のクラブも多いと思いますが、これでは膝の使い過ぎになります。このように、指導者や周囲の大人が熱心なあまり、「スポーツ障害」の原因をつくっていることがあるのです。10代では「これくらい平気」という無理が治療の遅れにつながります。膝の痛みが続くときは早めに診察を受け、長い目で膝の健康を守っていきましょう。
監修 順天堂大学医学部附属順天堂医院
整形外科・スポーツ診療科 先任准教授 池田 浩 先生
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