vol.131 高齢期に増加する「便秘」。腸の老化をくい止めよう

健康・医療トピックス

便秘といえば若い女性に多いイメージですが、年を重ねると男性にも増えてきます。日本人の便秘有症者の年齢・性別の調査(厚生労働省 平成22年国民生活基礎調査)によると男性の便秘は50代から増え始め、75歳以降では男女でほぼ同じ人数になります。高齢になると便秘は男女ともに共通の悩みといえるでしょう。

便秘とは、3日以上排便がない状態で、諸説ありますが1日の便の量が35g以下の場合といわれています。単なるおなかの不調と軽く考えがちですが、便秘の患者に対して日常生活への影響を調査した海外のデータによると、便秘は身体的・精神的なQOL(生活の質)を低下させることが認められ、日常生活の活動に支障をきたし、労働生産性も大きく阻害されることが報告されています。

便秘外来で数多くの患者を診察している順天堂大学医学部総合診療科の小林弘幸教授は、「便秘がここまでQOLに影響することは、日本ではあまり知られていません。便秘になるとまず精神的にダメージを受けます。たかが便秘、腸を動かせば治るといえるほど甘くありません」と現状を話します。

vol.131 高齢期に増加する「便秘」。腸の老化をくい止めよう

高齢者の便秘は、副交感神経の低下が一因

一言で便秘といってもさまざまな症状・原因がありますが、大きく「器質性便秘」と「機能性便秘」に分類されます。腸の働きに問題がある機能性便秘はさらに3つに分けられ、大腸の緊張がゆるんで蠕動(ぜんどう)運動が弱くなっている「弛緩(しかん)性便秘」、直腸の反射が悪く、便が下に降りてきていても便意が感じにくくなっている「直腸性便秘」、ストレスなどによって大腸の動きが過剰になっている「けいれん性便秘」があります。

高齢者に多いのは、大腸の動きが弱い弛緩性の便秘です。この原因として、最近注目されているのが、自律神経の働きです。自律神経には交感神経と副交感神経があり、アクセルとブレーキの役割をして全身を調整しています。たとえば、血管で交感神経が働くとキュッと収縮し、副交感神経が働くとゆるんで拡張します。一方、腸では交感神経が働くとゆるんで動きが弱くなり、リラックスして副交感神経に切り替わると腸が収縮し、よく動くようになります。ところが、腸を動かす副交感神経の働きは、男性では30代、女性は40代をピークに、加齢とともに低下することがわかってきました。
腸に便が長く停滞すると有害物質の侵入を防ぐ「腸管バリア機能」が低下して免疫力が下がります。すると炎症を起こすサイトカイン(生理活性物質)が増えて、腸の炎症や感染症などに対するリスクが上昇し、全身にさまざまな悪影響を与えてしまうのです。このような腸の老化の一因に自律神経が関わっているのではないかと考えられています。

「食物繊維の不足」、「朝食抜き」にも要注意

腸を動かすには食事による刺激も必要で「食物繊維の不足」も便秘の原因といわれています。かつて日本人は根菜、乾物、イモ類など、食物繊維を多く含む食品をたくさん食べていました。しかし、食生活の変化に伴って、現在の日本人の便の量は、第二次世界大戦前の半分以下になったといわれています。つまり、便のカサを増やす内容物が減ったことによって、腸に便が停滞しやすい状態にあるのです。

特に高齢になると腸の機能低下に加えて、食事や水分の摂取量が減ることから、便秘になりやすくなります。食物繊維を多く含む食品を積極的にとるようにしましょう。食物繊維が豊富な食材には固いものも多いので、細かくカットする、煮込むなど、調理法を工夫してみてください。食物繊維には「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維」がありますが、便秘の人が不溶性の食物繊維をとりすぎると、腸内の水分を吸収して、かえって便秘を悪化させることもあります。便秘になりやすい人は水溶性食物繊維を多めに摂取し、不溶性食物繊維をとるときは水分も多めにとることを心がけましょう。

また、便秘解消には「朝食」が重要な鍵を握っているといわれています。全身の60兆の細胞には時計遺伝子が入っていて、朝、太陽の光を浴びて、朝食を食べることによって腸が目覚めて動き出します。朝食には、眠った胃腸を起こすスイッチの役目もあるため、朝食を抜くと便秘をもたらすきっかけとなります。朝食を食べる食習慣は、腸の動きをよくして健康に保つためにとても重要なのです。

「毎日排便しないと便秘」は誤解

ところで、食べた物が胃や十二指腸を通って消化吸収され、便になるまでどのくらいの時間がかかるかご存知でしょうか。小腸の長さは約6m。約6時間かけて小腸を通り、その後、大腸で18時間から66時間かけて水分が吸収されて便の形になります。1日1回、毎日排便しないと「自分は便秘だ」と思い込んでいる人が多いですが、それは誤解です。小林教授によると、1週間に2、3回排便があれば腸は動いており、問題はないということです。

大腸がんのリスクを高める下剤の乱用

便秘になると、早くすっきり出したいと、下剤を用いる人が多いのではないでしょうか。医師の診察を受け、適量を規則正しく服用している場合は問題ありませんが、勝手に大量の下剤を服用したり、常用したりすることは、腸の機能を低下させます。
腸管粘膜にある絨毛(じゅうもう)は、有害物質から体を守る「腸管バリア機能」と、食べた物から栄養素を取り込む働きをあわせ持ちます。ところが、この絨毛は下剤を使うほど炎症が起きて短くなり、蠕動運動ができなくなるのです。腸の炎症は便秘などによって起きますが、下剤の刺激によっても生じ、下剤を多く使用するほど大腸がんのリスクが高まるといわれています。小林教授は、「便秘で最も怖いのは、大腸がんです。以前は20~30代でがんを疑うことはありませんでしたが、いまは若年化しています。便秘の女性で貧血が伴う場合、鉄欠乏性貧血がほとんどですが、鉄剤を飲んでもなかなか貧血が改善しないときは、がんを疑って調べた方がいいでしょう」と注意を呼びかけています。

加齢や便秘などによって、ボヤのような弱い炎症が長く続くと、腸の老化が進んでいきます。食生活や生活習慣の改善によって腸の老化をくい止め、若く保つライフスタイルを心がけたいものです。

監修
順天堂大学医学部総合診療科教授 小林弘幸先生

(参考)
『便秘を解消するには?便秘になりにくくなるためにできること』株式会社明治
https://www.meiji.co.jp/karadakaizen/know/entry006.html

更新日:2021.04.23

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