vol.14 太陽光不足は「うつ病」を招く

健康・医療トピックス

デジタル社会となり、在宅勤務やリモートワークの普及によって働き方のスタイルも多様化した今、外に出る機会が以前より減ったという方は多いのではないでしょうか。一日中室内で過ごしていると、ストレスが溜まるだけでなく、憂鬱な気分にもなりがちです。この状態が続くと次第に、「意欲がない」「アイデアがわかない」「面白いテレビも面白いと思わない」「夜中に目覚めて朝まで眠れない」「熟睡感がない」「イライラ・ソワソワして集中力がない」など、心身に不調が出てきます。

不調の原因は太陽光の不足かもしれません

1日中太陽の光を浴びず、運動もしない。休日も普段の疲れから、太陽光を浴びることなく眠ってばかり。このような生活を送っていると、体内時計が狂ってしまい、体に変調をきたします。ヒトの体内時計は、1日24時間よりも若干長い周期です。ところが生活リズムは24時間ですから、そのまま進むと体と生活リズムの間に狂いが生じてしまうのです。そこで、朝目覚めたときに太陽光を浴びて、体内時計をリセットする(朝の強い光で体内時計を早める)必要があります1)
また、太陽光不足になると体内のセロトニンという物質が不足します。セロトニンは、ドパミン(喜び、快楽など)やノルアドレナリン(恐怖、驚きなど)の情報をコントロールして精神を安定させる働きをする神経伝達物質ですので2)、セロトニンが不足することで、意欲が低下したり、ストレスを感じやすくなったり、悪化すると不眠やうつ病を引き起こす恐れがあります。太陽光を浴びることは、体内時計を狂わせないためにも、セロトニンの分泌を増やすためにもとても重要なのです。

〈こぼれ話:日光浴の代わりに人工的な光が使われることも〉

季節性のうつ病3)※や一部の睡眠障害に対しては、生体リズムを整える効果が期待できるとされ、日光浴の代わりに『光療法』を取り入れている医療機関もあります。光の量や頻度、照射時間については医療機関によってさまざまですが、高照度光照射という人工照明を利用した治療が用いられています4)
ちなみに、緯度の高いヨーロッパ諸国や北欧などの日照時間が少ない地域では、精神疾患を抱える患者さんが多く、その治療のために光療法を生活に取り入れている人が多いようです5)

※季節性うつ病:うつ状態が、心理社会的ストレスと関係なく、秋から冬にかけて発症し、春や夏になると症状が軽快する病態のこと。

vol.14 太陽光不足は「うつ病」を招く

太陽光を浴びない職業の人はご注意を

一日中太陽光の入らない室内でモニターに向かってひたすらプログラムを打ち込み続けることが多いシステムエンジニア(以下SE)の人は、メンタルヘルスの不調で休職する人が多い職業の一つだとされています6)7)。この原因として、納期の切迫や仕事量の多さ、チームの人間関係、技術の急速な変化への対応などから様々なストレスが多いことが指摘されていますが6)、業務の特性上、日々の太陽光不足もその原因のひとつかもしれません。
SEの方々に限らず、在宅勤務の方や日照のないオフィスで働く方などは、生活の中で意識的に外に出て日光を浴びるように心掛け、勤務中もできるだけリラックスした状態で過ごしましょう。

<参考資料>

  1. 厚生労働省「e-ヘルスネット」休養・こころの健康>体内時計
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionaries/heart
  2. 厚生労働省「e-ヘルスネット」休養・こころの健康>セロトニン
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-074.html
  3. 厚生労働省「こころの耳」業務要因よりも季節性の要因により再燃するうつ病の事例
    https://kokoro.mhlw.go.jp/case/649/
  4. 日本うつ病学会「日本うつ病学会治療ガイドラインⅡ.うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 2016」
    https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/kibun.html
  5. 小西正良ほか. Journal of Osaka Kawasaki Rehabilitation University 2011(5): 11-20
  6. 下山満理ほか. 医療看護研究2017; 14(1): 20−29
  7. 厚生労働省「令和4年版過労死等防止対策白書」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/karoushi/22/index.html

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

執筆者プロフィール

松井 宏夫

松井 宏夫

医学ジャーナリスト
略歴
1951年生まれ。
医療最前線の社会的問題に取り組み、高い評価を受けている。
名医本のパイオニアであるとともに、分かりやすい医療解説でも定評がある。
テレビは出演すると共に、『最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学』(テレビ朝日)に協力、『ブロードキャスター』(TBS)医療企画担当・出演、『これが世界のスーパードクター』(TBS)監修など。
ラジオは『笑顔でおは天!!』のコーナー『松井宏夫の健康百科』(文化放送)に出演のほか、新聞、週刊誌など幅広く活躍し、NPO日本医学ジャーナリスト協会副理事長を務めている。
主な著書は『全国名医・病院徹底ガイド』『この病気にこの名医PART1・2・3』『ガンにならない人の法則』(主婦と生活社)、『高くても受けたい最新の検査ガイド-最先端の検査ができる病院・クリニック47』(楽書ブックス)など著書は35冊を超える。

商品を見る