vol.15 乳房を傷つけない画期的な乳がん治療「FUS」

健康・医療トピックス
日本人女性の身体はどんどん米国並みに近づいています。「初潮が早く」「閉経が遅い」、「出産歴がない」もしくは「初産年齢が高い」女性が増え、女性ホルモン(エストロゲン)の影響を受ける期間が長くなったことで乳がんのリスクが高くなり、日本では現在乳がんにかかる女性が年間約4万人もいます。米国の18万人と比べると、まだまだ差はあるものの、それでも日本人女性の30人に1人に乳がんが発見されているのです。

乳がん患者の方は手術に「乳房を傷つけず、変形することなく残したい!」という希望をもっています。現在、乳がん治療の約40%が乳房の形や乳頭をできるだけ残す乳房温存手術がとられていますが、それでも実際には大きく乳房が変形するケースも多く見られます。

そこで、乳房にメスを入れることなく、元のままで乳房を残し、がん細胞を凝固壊死させるという世界で初めてのがん治療法『MRガイド下集束超音波手術(FUS=ファス)』が開発されました。
FUSは米国ハーバード大学医学部のヨーレス教授を中心として開発された最新の治療装置を用いた乳がん手術で、治療に使われるのは集束超音波です。子どもの頃に虫メガネで太陽光線を黒い紙の一点に集めて焼くという実験をした人も多いと思いますが、それと同じ原理だと思ってください。
超音波も1本1本では弱い力しかありませんが、数百本を1点に集中させると大きな力を発揮します。この場合のパワーは焦点で60~80度の熱を発生し、その熱でがん細胞だけを死滅させることができます。これは、がん細胞が42度で死滅することを利用した温熱療法のひとつです。

照射は1カ所に約20秒、続いて冷却を約90秒。それを30~40回繰り返してがん細胞を焼灼してしまいます。局所麻酔も必要なく、患者は鎮痛薬を服用するだけ。手術は約2時間。術後1時間程度の安静ですみますので、当然日帰り手術となります。 2001年から世界の7施設(ハーバード大学ブリガム女性病院、メーヨークリニック、MDアンダーソンがんセンター、モントリオール大学etc.)で臨床試験の第1・第2段階が行われてきました。この臨床試験の第3段階(造影剤を使用したFUS治療後に確認のための外科手術を実施)から日本で唯一、宮崎市にあるブレストピアなんば病院が2004年4月から参加しています。11例に治療を行い、すべてにがんの消失をみました。FUS治療は、現時点では直径 2.5センチ以内の早期乳がんが対象ですが、3センチであっても「術前化学療法」により乳がんが縮小すれば治療が可能となります。
また、今秋からは臨床試験の第4段階(最終段階)に入ります。FUS治療後に外科手術でのがん細胞消失の確認は行わず、経過観察で効果を検討するというものです。
乳房を傷つけない治療が一般的になる日も近いでしょう。
vol.15 乳房を傷つけない画期的な乳がん治療「FUS」

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執筆者プロフィール

松井 宏夫

松井 宏夫

医学ジャーナリスト
略歴
1951年生まれ。
医療最前線の社会的問題に取り組み、高い評価を受けている。
名医本のパイオニアであるとともに、分かりやすい医療解説でも定評がある。
テレビは出演すると共に、『最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学』(テレビ朝日)に協力、『ブロードキャスター』(TBS)医療企画担当・出演、『これが世界のスーパードクター』(TBS)監修など。
ラジオは『笑顔でおは天!!』のコーナー『松井宏夫の健康百科』(文化放送)に出演のほか、新聞、週刊誌など幅広く活躍し、NPO日本医学ジャーナリスト協会副理事長を務めている。
主な著書は『全国名医・病院徹底ガイド』『この病気にこの名医PART1・2・3』『ガンにならない人の法則』(主婦と生活社)、『高くても受けたい最新の検査ガイド-最先端の検査ができる病院・クリニック47』(楽書ブックス)など著書は35冊を超える。

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