vol.58 "職場うつ"が増えている

健康・医療トピックス
職場が原因のうつを“職場うつ”。近年こんな名称ができてきました。それほど、職場に原因があるうつ病が増えているのです。
事実、社会経済生産性本部が全国の上場企業を対象に「メンタルヘルスの取り組み」に関するアンケート調査を実施したところ、2006年には有効回答数 218社中6割を超える企業が「過去3年間で、心の病は増加傾向にある」と答えています。そして、7割強の企業で「心の病で1カ月以上休んでいる社員が社内にいる」というデータも出ています。
成果主義と呼ばれるシステムによる、“協調”よりも“競争”を重視する企業の変化が職場うつの背景にある、という指摘もあります。
さて、その職場うつは大別すると4つのタイプに分けられます。
vol.58 "職場うつ"が増えている

(1)「燃えつき型」

学生時代は大変優秀で、自分自身の能力に自信があり、責任感も強い、そして、きちょうめん。このようなタイプの人がなりやすいのが燃えつき型です。 自分自身の納得のいく水準で仕事をやりとげたいので、ついつい頑張ってしまい、疲労、ストレスが限界に高まったとき、うつ病を発症してしまうのです。

(2)「陥没型」

上司から無理難題を押しつけられ、理解できない理由で叱責されてしまう。そのことで心が深く傷つき、うつ病を発症してしまいます。

(3)「喪失型」

家族、友人、ペットなど、愛情を注いできた大切な存在を亡くした場合に起こります。突然にふりかかってくるので、アクシデント型ともいいます。職場で起きるときは、突然の組織変更で自分の部署がなくなったり、今進めている最中の大きな仕事が突然打ち切りになったりする場合です。

(4)「逃亡型」

男性管理職にみられます。新しい役職にうまく適応できず、しかし、その不適応を自分自身認めようとしない。“降格”された場合にも起こり得ます。過去の栄光にとらわれすぎて押しつぶされてしまうのです。抑うつ気分を払おうと、アルコール、ギャンブル、暴力、異性などに向かうケースがあります。

以上の4タイプのうち、「燃えつき型」は約50%、「陥没型」は約25%、「喪失型」は約20%、残り約5%が「逃亡型」です。
このような職場うつの治療では、再び仕事の現場に戻ることを最終目標と考えましょう。ただし、うつ病を発症したときと同じ職場に戻ることにこだわる必要はありません。
復帰の仕方はさまざまです。ただ守らなければならないのは、決してあせらず、再発しないように確実に治すことを目指しましょう。
そのためには、「社会復帰プログラム」を実行している精神科を受診すべきと思われます。外来診察と精神科のデイケアの組み立てです。
例えば、「適切で実践的な食生活指導」「復職・就労トレーニング」「認知行動療法の解説と実践」「適度な運動とリラクゼーション」といった具合です。
デイケアの目的は再発を予防し、社会生活を健全に送っていける能力と意欲を取り戻すことです。そのために、心とからだのリハビリテーションを効果的に行うのです。
そして、デイケアの終了については、本人と面談のうえで、医師とデイケアスタッフが総合的に判断します。もちろん、デイケア終了後も社会復帰のためのサポートはあります。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

執筆者プロフィール

松井 宏夫

松井 宏夫

医学ジャーナリスト
略歴
1951年生まれ。
医療最前線の社会的問題に取り組み、高い評価を受けている。
名医本のパイオニアであるとともに、分かりやすい医療解説でも定評がある。
テレビは出演すると共に、『最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学』(テレビ朝日)に協力、『ブロードキャスター』(TBS)医療企画担当・出演、『これが世界のスーパードクター』(TBS)監修など。
ラジオは『笑顔でおは天!!』のコーナー『松井宏夫の健康百科』(文化放送)に出演のほか、新聞、週刊誌など幅広く活躍し、NPO日本医学ジャーナリスト協会副理事長を務めている。
主な著書は『全国名医・病院徹底ガイド』『この病気にこの名医PART1・2・3』『ガンにならない人の法則』(主婦と生活社)、『高くても受けたい最新の検査ガイド-最先端の検査ができる病院・クリニック47』(楽書ブックス)など著書は35冊を超える。

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