vol.68 うつ病改善のポイントになる認知療法(認知行動療法)

健康・医療トピックス
“心のカゼ”と表現される『うつ病』とあって患者は多く、日本では有病率8%といわれています。治療には「薬物療法」「精神療法」「休養」「運動療法」「光療法」など数多くあります。その中で、一定の治療効果が報告され、さらなる期待を寄せられているのが精神療法のひとつ、『認知療法(認知行動療法)』です。その成果は抗うつ薬並みと評価されており、最近では、「自分でできるストレス対策法」としても注目を集め始めています。
うつ病治療のひとつとして行われる認知療法の「認知」とは、「現実の受けとり方」や「ものの見方」のこと、「自分の考え方・感じ方」ともいえます。その認知のゆがみを発見して心理的ストレスを軽くしていこうとするのが認知療法です。つまり、自分自身の心のくせを客観的にとらえ、ものの見方や考え方、さらには行動を変えることによって、不安や落ち込みを減らそうというのです。うつ病になる人の「認知のゆがみ」には、ある種のパターンがあります。
vol.68 うつ病改善のポイントになる認知療法(認知行動療法)

(1) 二分割思考

何でも白黒をつける見方をしてしまう。白か黒、100か0といった具合です。

(2) 拡大解釈

自分の失敗が客観的にみて大したことではないのに、それを過大に考えてしまう。

(3) 過度の一般化

良くないことが起きてしまうと、「いつもこうなってしまう」と考えてしまう。

(4) マイナス思考

物事をいつの間にか悪いふうに考えてしまう。

(5) 自己関連づけ

問題が起こった要因はさまざま考えられるのに自分が原因と考えてしまう。

このほかにも数多くの認知のゆがみがあります。
そこで治療として重要なのは、自分自身の「スキーマ(考え方のくせ)」を知ることです。
例えばAさんのケース。
AさんがあいさつしたのにBさんは返事をしてくれなかった場合。Aさんは「Bさんは私を嫌っている」「私は嫌われるタイプ」「私は友人をつくれない」「私は嫌な人間なのだ」と考えてしまいました。
この考え方を修正していくのです。BさんはAさんに気付かなかったかもしれないし、何か考えごとをしていたかもしれません。それから、人間は誰からも愛される、好かれることはないのです。自分自身でも好きな人に順番がつけられるはずです。

自分自身の考え方で判断するのではなく、その逆の考え方、もっと別な考え方があることに気付くために、まずは、自分の考え方や感じ方を自分の行動とともに正確に日記につけます。そして、その日記を読み返すことで、自分自身の心のくせを発見し、気持ちのあり方や行動のパターンを変えていきます。
基本的に認知療法(認知行動療法)は単独で行われることはなく、薬物療法、運動療法などと併用されます。
認知療法の有効性は高いのですが、導入実践している精神科・心療内科はまだまだ少ないのが実情で、日本でももっと増やすことが急務となっています。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

執筆者プロフィール

松井 宏夫

松井 宏夫

医学ジャーナリスト
略歴
1951年生まれ。
医療最前線の社会的問題に取り組み、高い評価を受けている。
名医本のパイオニアであるとともに、分かりやすい医療解説でも定評がある。
テレビは出演すると共に、『最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学』(テレビ朝日)に協力、『ブロードキャスター』(TBS)医療企画担当・出演、『これが世界のスーパードクター』(TBS)監修など。
ラジオは『笑顔でおは天!!』のコーナー『松井宏夫の健康百科』(文化放送)に出演のほか、新聞、週刊誌など幅広く活躍し、NPO日本医学ジャーナリスト協会副理事長を務めている。
主な著書は『全国名医・病院徹底ガイド』『この病気にこの名医PART1・2・3』『ガンにならない人の法則』(主婦と生活社)、『高くても受けたい最新の検査ガイド-最先端の検査ができる病院・クリニック47』(楽書ブックス)など著書は35冊を超える。

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