vol.81 脊椎圧迫骨折に人気の"セメント治療"

健康・医療トピックス
「術後早期に劇的な症状改善が認められ、背中の曲がりも軽減されます」と、患者ではなく、治療をした医師がその驚きを話します。その驚きからすると、患者さんの喜びはどれほど大きいか、容易に想像ができます。
この治療は脊椎の圧迫骨折に対して行われている“セメント治療”です。正しくは『経皮的椎体形成術(けいひてきついたいせいけいせいじゅつ)』といいます。
背骨(脊椎)の圧迫骨折は高齢化と大きく関係しています。高齢になればなるほど骨がもろくなる『骨粗鬆症』の人が増えます。骨粗鬆症による圧迫骨折は、転倒したり、尻もちをついたりしたときに起きることが多いものの、中にはまったく原因が分からないうちに圧迫骨折が起きていたり、ぎっくり腰同様にクシャミをしただけで圧迫骨折するケースもあります。
患者さんは背中や腰の痛みを訴えるので、整形外科を受診。レントゲンを撮るものの原因が分からないことがあります。なぜなら、圧迫骨折といっても起こったばかりのころは、骨自体が見てすぐ分かるほどに変形していないからです。今はMRI(磁気共鳴断層撮影)のある施設も増えましたが、それでも分からないときもあるそうです。
もちろん、急性期(病気が急に発症した時期)を過ぎて数週間もすると、圧迫骨折は確実に画像診断できます。急性期に画像診断できないケースでは、痛みの状態によって診断され、他の病気が隠れていないかもチェックされます。
今までは、圧迫骨折と診断されると、からだにギプスを巻く方法や硬性コルセットをつける方法が主流で、安静状態が数週間続きました。
高齢者の場合、数週間の安静がさらに骨粗鬆症を進行させるばかりか、背中が曲がり、うつを合併したり、中には認知症になる人も――。なによりQOL(生活の質)が格段に悪くなってしまいます。
セメント治療の登場後、このような状況から一転、1泊入院もしくは日帰りで治療ができ、背中の曲がりにも有効とあってこの治療が人気となってきたのです。
治療は、まず患者さんがX線透視装置のテーブルにうつぶせになります。次に患者さんの皮膚に局所麻酔をします。そして、直径3mm程度の針を患部の椎体に挿入し、骨セメントを注入します。骨セメントは10分で固まり、治療自体は30分くらいで終了します。
治療後30分はうつぶせ状態での安静で、それ以降1時間30分は横になって安静を保ち、終了となります。
治療成績は80~90%で痛みが軽減し、骨が元の形に近いものになります。残り10~20%に痛みの残るケースが報告されています。
ヨーロッパでは1980年代後半から、米国では1990年代後半から行われ、有効性が認められている治療です。日本では健康保険の適用外のため、自費診療となっているので、医療機関によって費用が異なり、約28万円から50万円程度となっています。まだ健康保険の適用になっていない治療なので、治療を希望する場合はセメント治療の手術数が多く、インフォームド・コンセント(説明と同意)がしっかり行われている医療機関を選択しましょう。
vol.81 脊椎圧迫骨折に人気の"セメント治療"

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執筆者プロフィール

松井 宏夫

松井 宏夫

医学ジャーナリスト
略歴
1951年生まれ。
医療最前線の社会的問題に取り組み、高い評価を受けている。
名医本のパイオニアであるとともに、分かりやすい医療解説でも定評がある。
テレビは出演すると共に、『最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学』(テレビ朝日)に協力、『ブロードキャスター』(TBS)医療企画担当・出演、『これが世界のスーパードクター』(TBS)監修など。
ラジオは『笑顔でおは天!!』のコーナー『松井宏夫の健康百科』(文化放送)に出演のほか、新聞、週刊誌など幅広く活躍し、NPO日本医学ジャーナリスト協会副理事長を務めている。
主な著書は『全国名医・病院徹底ガイド』『この病気にこの名医PART1・2・3』『ガンにならない人の法則』(主婦と生活社)、『高くても受けたい最新の検査ガイド-最先端の検査ができる病院・クリニック47』(楽書ブックス)など著書は35冊を超える。

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