vol.87 注目される食道がんの治療

健康・医療トピックス
有名人が病気を公表すると注目を集めます。それがサザンオールスターズの桑田佳祐さんという超スーパースターとあって、食道がんの注目度は高く、食道がんの内視鏡検査を受ける人が急増しているというのです。
食道がんは食道にできるがん。食道はのど(咽頭)と胃をつなぐ長さ約25cm、太さ約2~3cm、壁の厚さは約4mm程度の管状の臓器で、ピーンと張った状態になっています。
2008年の調べでは年間1万1746人が食道がんで亡くなっています。食道がんは比較的リンパ節転移の早いことで知られています。それは食道の周辺に多くのリンパ節が集まり、周辺臓器も多いからです。
食道がんの症状は「物が飲み込みにくい」「飲み物を飲むとむせる」「しみる感じがする」「胸の上部に異物感がある」「声がかすれる」などいろいろありますが、症状があると進行がん以上のケースがほとんどです。初期・早期の段階で発見するには検診しか方法はありません。
他の臓器と同様に、食道がんも病期によって選択される治療は異なります。だから、まずは正確に病期を知ることから治療は始まります。食道がんの病期は0期からⅣ期の5段階に分類されています。
vol.87 注目される食道がんの治療

《0期》

がんが食道壁の最も内側の粘膜内にとどまっており、リンパ節転移がない。

《Ⅰ期》

がんが粘膜内にとどまっているもののリンパ節に転移。
また、がんが粘膜下層に達しているがリンパ節などへの転移がない。

《Ⅱ期》

がんが外膜の外、食道壁の外にわずかに出ている。
転移は周囲のリンパ節のみ。

《Ⅲ期》

がんが食道壁の外に明らかに出ている。
転移は周囲のリンパ節のみならず、少し離れたリンパ節にまでいたっている。

《Ⅳ期》

がんが周囲の臓器に広がっている。
また、がんが遠くのリンパ節、臓器、胸膜、腹膜に転移している。

どのがんでもそうですが、より早く発見すると、体に負担の少ない“体にやさしい治療”が受けられます。
食道がんが0期で発見されると、基本は「内視鏡治療」。開胸・開腹などの手術をすることなく食道のがんを内側から内視鏡で切除する方法です。3泊4日程度で退院できます。ただし、がんの直径が大きいと手術を選択せざるを得ないこともあります。
Ⅰ期になると標準治療は「手術」。最近は「内視鏡治療」を行い、がんの深さを確認して状況によって「化学放射線療法」を追加する方法も施設によっては行われています。また、手術も開胸、開腹をせず、小さな穴を数カ所あけてモニターを見ながら行う「胸腔鏡手術」や「腹腔鏡手術」も、施設によっては行われ始めています。
Ⅱ期、Ⅲ期の標準治療は「術前化学療法」。術前化学療法は手術と抗がん剤の組み合わせ。手術を行う前に抗がん剤で病巣を小さくして手術する方法です。その一方で、食道をそのまま残す治療の「化学放射線療法」も大きな選択肢としてあります。抗がん剤と放射線療法を組み合わせる方法です。「術前化学療法」にしても「化学放射線療法」にしても、手術だけ、放射線だけよりも抗がん剤を組み合わせたほうが効果的ということが分かってきました。
術前化学療法と化学放射線療法を比較した臨床試験は、今、行われているところで、まだ結果はでていません。専門家の間でいわれている5年生存率は、術前化学療法が約55~60%、化学放射線療法が約40~45%。まだ手術が有利ですが、化学放射線療法が飛躍的に成績を伸ばしてきています。 手術は患者さんの体に大きな負担をかけ、切除された食道のかわりに胃を吊りあげるので胃の働きが損なわれます。その点、化学放射線療法は食道をそのまま残せます。ただ、副作用はあります。治療後半年以上たってでてくる晩期障害です。放射線の照射は肺や心臓といった周辺臓器にも影響を及ぼすため、生命にかかわるケースもあります。
どちらの方法が患者さんにベストか――。その診断法の開発が急がれます。
また、Ⅳ期の場合は化学放射線療法が最も一般的です。
主治医と十分に話し合い、場合によってはセカンドオピニオンをとって、最善の治療法を選択するのが重要です。
食道がんのリスクファクターは「男性」「60歳以上」「喫煙」「お酒」です。とりわけ注目されているのは“お酒と食道がんの関係”。アルコールは体に入るとアセトアルデヒドに分解され、最終的には水と二酸化炭素に分解されて排出されます。そのアセトアルデヒドに発がん性があります。お酒を飲むと顔が赤くなるタイプは、実はアセトアルデヒドを分解する酵素の働きが弱いのです。日本人の約45%がこのタイプ。アセトアルデヒドを体内に長くとどめるので食道がんのリスクが高くなります。お酒を飲んでいる人、これからも飲みたい人は年に1回は食道の内視鏡検査を受けましょう。

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