ニュースリリース

「住まいと健康」に関する共同研究
室温が家庭血圧に与える影響についての実証調査を実施

-足元付近の室温が10℃低下することにより、血圧は平均9mmHg上昇-
調査

オムロン ヘルスケア株式会社(本社所在地:京都府向日市、代表取締役社長:荻野 勲)と慶應義塾大学 理工学部(伊香賀俊治教授)、自治医科大学 循環器内科学部門(苅尾七臣教授)、住宅や建築物の省エネルギーシステムの開発・販売を行うOMソーラー株式会社(本社所在地:静岡県浜松市、代表取締役社長:飯田祥久)は、「住まいと健康」についての共同研究を実施し、足元付近の室温が家庭血圧に与える影響についての実証調査の結果をまとめました。

脳卒中や心筋梗塞など、高血圧を主な危険因子とする循環器疾患による住宅内での死亡者数は、冬季は夏季の2倍になることが明らかにされています*1。気温の変化が血圧上昇のリスクを高めることから、近年、住宅内温熱環境と血圧についての研究が行われていますが、従来の調査では床から1m付近の室温が家庭血圧に与える影響についての検証が中心となっていました。
本研究では、床からの高さによる室温の違いに着目し、冬季の実生活場面での床から0.1m(足元)、1.1m(着席時の頭の高さ)、1.7m(起立時の頭の高さ)の室温と家庭血圧の実測調査を実施しました。その結果、断熱性能の高い住宅では床上1.1mと床上0.1mの温度差が1℃程度と小さいのに対して、断熱性能が低い住宅では暖房器具(床暖房を除く)によって床上1.1mの室温を20℃に暖めても、足元付近の室温は10℃と低温の住宅があるなど、平均では15℃と低温であり、5℃の温度差が見られました。
また、断熱性能が低い住宅の居住者(50歳以上)の平均血圧は128.8mmHgであったのに対し、断熱性能が高い住宅の居住者(50歳以上)では、平均血圧は121.0mmHgと低くなっており、住環境による健康への影響が示唆される結果を得ることができました。

これにより、血圧の上昇を抑えるためには、部屋全体の温度管理よりも足元を冷やさないための温度管理の工夫が大切であることがわかります。

今後、断熱性能が低い住宅から高い住宅に転居した人を対象とした追跡調査の実施など共同研究を進め、特に足元付近の温度に着目して室温と血圧をはじめとする健康への影響度を調べ、より安心して健康に住まうことができる住環境の検証を続けていきます。

  • *1羽山広文ら、住環境の変化が身体へ与える影響の実態把握 その1 全国の疾患発生と住宅の建築時期・構造解析、日本建築学会北海道支部研究報告集、No.84, pp.539-542, 2011

今回ご報告する調査の概要、結果の詳細は次のとおりです。

実証調査の概要

調査対象: 首都圏に在住の35~74歳の男女180名(100世帯*)
*断熱性能が低い住宅への居住世帯43世帯+高断熱住宅への居住世帯28世帯
調査期間: 2014年11月~2015年2月のうち、各世帯2週間
測定項目:
  • 温湿度
     居間(高さ0.1m/1.1m/1.7m)において10分間隔の連続測定
  • 家庭血圧(最高血圧/最低血圧)
     居間において起床後/就寝前の1日2回測定
  • 床表面温度(2015年2月のみ実施、調査対象:男女29名・17世帯)
     居間、トイレ、脱衣所において、10分間隔の連続測定
有効サンプル: 137名(86世帯)

本実証調査から得られた結果

1. 断熱性能の低い住宅では、室内の上下温度差が大きい

床からの高さが1.1m(着席時の頭の高さ)と10cm(足元付近)の朝(起床後の血圧測定時)の平均室温を比較すると、断熱性能の高い住宅では温度差は0.5~2℃程度でしたが、断熱性能の低い住宅では1.1mでの室温が20℃でも足元付近の室温は約10℃の住宅が存在するなど、平均では約15℃となり、5℃の温度差が見られました。

図1 居間での、床からの高さ0.1m/1.1mの室温の関係

2. 足元付近の室温が10℃低下すると、最高血圧は平均9mmHg上昇

断熱性能が低い家での、朝、起床後に測定した最高血圧値と、測定時の室温の関係を分析したところ、床からの高さが1.1mの室温が10℃低下すると血圧は平均5mmHg上昇するのに対し、床から10cmの足元付近の室温が10℃低下したときには血圧は平均9mmHg上昇。着席時の頭の高さの室温が冷えるよりも、足元が冷える方がより血圧が上昇する傾向が見られました。

図2 居間室温と収縮期血圧(起床後)の関係
(50歳以上, 断熱性能が低い住宅の居住者)

<床からの高さ1.1mの室温と血圧の関係>

<足元付近の室温と血圧の関係>

3. 断熱性能が低い家の居住者の方が、断熱性能が高い家の居住者よりも平均血圧が高い傾向

朝、起床後に測定した最高血圧の値を比較すると、断熱性能が低い家の居住者(50歳以上)の平均値が128.8mmHgであったのに対し、断熱性能が高い家の居住者(50歳以上)の平均値は121.0mmHgと、7.8mmHgの差が見られました。このことから、断熱性能を向上させて室温を高く維持することで、血圧の上昇を抑制することができると考えられます。

図3 収縮期血圧(起床後)の平均値(50歳以上の対象者)

■慶應義塾大学 伊香賀俊治先生のコメント

全国5,200万戸の住宅のうち、省エネルギー法で定められた断熱性能を満たす住宅は5%に過ぎません(2012年、国土交通省調べ)。今回の共同調査の測定対象住宅の多くも断熱性能は充分ではなく、冬の朝の室温が3℃まで低下している住宅もありました。また、暖房によって床上1.1mの室温が20℃程度となっていても、足元の室温は平均でも15℃にしかなっていないということがわかりました。しかし、断熱性能が良く、足元から暖める床暖房を採用している住宅では、上下温度差のない良好な住環境が実現されていること、そしてそれによって断熱性能が低い家に比べて血圧の上昇を抑制することができているという貴重なデータが得られました。
今後、共同研究を進める中で、断熱性能が低い住宅から良い住宅に転居したことによる"転居前後比較"を行い、さらに貴重な知見を提示できる予定です。

■自治医科大学 苅尾七臣先生のコメント

冬季には、脳卒中や心筋梗塞などの循環器疾患の発症数が約2倍に増加します。その要因の一つは気温の変化の影響であり、私たちは10℃の気温変化で血圧が10mmHg以上変動する病態を「気温感受性高血圧」と名付けました(Kario. Hypertension 2015)。気温感受性高血圧は、冬季の循環器疾患の増大だけでなく、夏季の過度の血圧低下のリスクとなります。
今回、建築・住居の専門家を含んだ産学共同研究によって、室内の高さによる室温の違いと血圧の変化の関係が初めて明らかにされました。今回明らかになった「足元付近の温度が10℃下がると、血圧は約9mmHg上昇する」という結果は、言い換えると「足元付近の温度管理に気をつけると、気温感受性高血圧の発症リスクを抑えることができる」ということであり、より的確な住まい環境の改善により、より有効に循環器リスクが予防できることを示す貴重なエビデンスとなります。