2012.09.10

vol.111 「運動」で交通事故を予防する

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50歳を超えたら交通事故に注意

Vol.111 「運動」で交通事故を予防する 世界でも屈指の長寿国である日本では、50歳代や60歳代は「まだまだ若い」と思われています。実際に仕事や家事をばりばりこなし、見た目も若い方が多いのですが、その一方で「50歳を超えたら交通事故に注意」といわれていることをご存知でしょうか。
交通事故による死亡者数は、全体では10年以上にわたり減少傾向が続いています。ところが中高年層、とくに50歳以上が占める割合は増加していて、全体の67.7%、つまり3人に2人にも及んでいるのです(※1)。
交通事故というと、車を運転中の事故と思われる方もいるかもしれませんが、中高年に非常に多いのが歩行中の事故です。道路や横断歩道を歩いているときに、車やバイクなどにはねられて死亡する事故のうち、じつに83%が50歳以上の世代です。しかも、歩行者側にも責任があるケース(不注意、無理な横断など)が増えています。
その背景には、「加齢による身体機能の低下」が指摘されています。具体的には、判断力や注意力、運動能力、視覚・聴覚機能などの低下で、いずれも50歳頃からだれにでも起こることです。
その一方で最近、短時間であっても運動をすることが判断力や認知力の向上につながることが報告され、中高年の交通事故防止にも役立つものとして期待されています。
そこでまず、中高年の交通事故の特徴について知っておきましょう。

(※1)内閣府「交通安全白書(平成24年版)」による。とくに65歳以上では49%と、全体の死亡者数の半数を占めています。

中高年の交通事故の特徴

歩行中の交通事故のなかでも、とくに目立つのが道路を横断するときの事故です。中高年の場合、「①横断禁止場所での横断、②信号無視、③信号点滅時の横断開始」などが主な事故原因になっています(※2)。
 ①横断禁止場所での横断とは、横断してはいけない道路で標識を見落とし(あるいは軽視し)、自己判断で渡ろうとして事故にあうケースです。自宅近くの道路では、慣れなどから横断歩道以外の場所を渡っている方は多いのではないでしょうか。
 ②信号無視とは、歩行者用信号が赤なのに車が来ないと判断して横断歩道を渡ったり、信号を確認せずに渡ろうとして事故にあうケースです。その大半(約70%)が、道路幅13メートル以上の長い横断歩道で起こっていて、不注意や不確認が原因とされています。
 ③信号点滅時の横断開始とは、歩行者用信号が点滅しているのに渡り始め、渡りきれずに事故にあうケースです。一般に、高齢になるほど歩行速度が遅くなります。東京都老人総合研究所の調査(65歳以上が対象)では、高齢者の場合、いつもより早く歩かないと横断歩道を渡りきれない人が多いと報告されています。それだけに、点滅時に横断を始めることは非常に危険な行為だといえます。
一般に、中高年の身体機能の低下は、全体的に起こりやすいことが知られています。たとえば、立ち上がる、歩くなどの運動能力が低下したときには、判断力や注意力なども低下している可能性が高いのです。
その指標(サイン)となるのが、歩行速度です。家族や友人と歩いているとき、自分だけが遅れがちになってきた場合には、身体機能全体の低下を自覚し、道路の横断にはとくに注意しましょう。

(※2)東京都の交通事故事例などを対象とした警視庁の分析。

短時間の運動で判断力アップ

中高年の歩行中の交通事故には、多くの場合、「判断ミスや不注意、不確認」などが関係しています。たとえば道路を横断するとき、車との距離を見誤ったり、信号を見落としたりするケースです。
判断力や注意力の低下は、加齢にともなう現象としてあきらめがちですが、筑波大学・征矢(そや)英昭教授らのチームによる実験から、短時間の軽い運動に改善効果があることが分かっています。
実験では、若者と高齢者の2グループを対象に、判断力などに関するテストをおこない、10分間の軽い運動(50%の力で自転車をこぐ)をした後、再度テストを実施しました(※3)。その結果、若者グループでは判断力をになう左脳が活性化され、判断速度が50%向上。それに対して高齢者グループでは興味深いことに、衰えた左脳の機能をバックアップして右脳の一部が活性化され、判断速度が16%向上しました。
このことから高齢者であっても、短時間の一時的な軽い運動によって、右脳の代償機能が働き、判断速度や認知力が高まることが判明したのです。
運動のポイントは、軽いジョギングやウォーキングに相当する「低強度」の運動を「10分間」おこなうこと。その一方で、ストレスを感じる運動(自分にとって強い運動や長時間の運動)は、疲労をともない、逆効果になりやすいので注意が必要とされています。
また、征矢教授は、楽しみながらだれもができる「フリフリグッパー」という体操を提案しています。かかとを交互にあげて足踏みし、腰を軽くふりながら、両手を開いたり閉じたりする簡単な運動ですが、10分間続けると脳が活性化され、判断力の向上だけでなく、積極的な気分になることが証明されています(体操の詳細を知りたい方は、“フリフリグッパー”で検索してみてください)。
出かける前(朝)や昼休みなどに、低強度の運動を10分間おこなうことで、判断力や注意力を高め、交通事故の防止や日常生活の活性化につなげましょう。

(※3)若者グループは平均年齢21.5歳、高齢者グループは69.3歳。

歩行速度を早めることも大切

中高年層の歩行中の交通事故には、もう1つ、「歩行速度が遅い」という問題があります。道路や横断歩道を渡りきれずに起こる事故は、その典型ですし、踏切などでも同様の事故が起こりやすくなります。
加齢にともなう歩行速度の低下は、一般に足の筋肉量が減少し、筋力が低下することが原因とされています。しかし、歩行には、大腰筋、膝関節伸展筋群、足関節底屈筋群など多くの筋肉群が関係しているため、どこの筋肉量を増やすと効果的に歩行速度が向上するのかは、まだ厳密には解明されていません。
その一方で、筋肉量とは別に、適度の運動をすることで筋機能が改善され、早く歩けるようになるという報告もみられます。中高年の場合、加齢や運動不足などで筋肉が本来もっている機能が停滞し、筋肉に支えられている関節なども動きにくくなっています。運動をすることで筋機能が改善されると、膝や足首がよく伸展するようになり、歩幅が広がりやすくなります。
加齢にともなう歩行速度の低下は、歩幅が小さくなることが最大の原因です。したがって、運動によって歩幅が広がるようになると、歩行速度をアップすることができるのです(※4)。
通勤の行き帰りや散歩、買い物などのときに、いつもより少し大股で歩くことを心がけ、それを習慣にしましょう。手を大きくふると、歩幅を広げやすくなります。また同時に、自宅でも軽い屈伸運動をおこない、足の筋肉を刺激することで、筋機能の停滞を防ぐようにしましょう(ただし、膝や腰への負担を軽減するため、歩くときの靴はウォーキング用などを用意し、また膝痛や腰痛のある方は医師と相談のうえで始めてください)。

(※4)西澤哲編「高齢者歩行の決定要因」東京大学出版会、眞竹昭宏ほか「中高年女性の下肢筋群の筋量および筋力と歩行速度の関係」山口県立大学看護学部紀要などより。

ミニコラム

中高年の交通事故予防には、次の点にも気をつけましょう。
・横断禁止標識について知っておく。
・歩き慣れた自宅近くの道路でも、横断するときは油断せずにかならず左右を確認する。
・交差点では、歩行者用信号が青でも、右左折車に注意する。
・歩行者用信号が点滅したら横断せずに、次の青信号まで待つ。
・夕暮れから夜間の外出時には、明るい色、目立つ色の服装をする。

  • このコラムは、掲載日現在の内容となります。
    掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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