vol.114 家庭での「筋トレ」で血糖値を改善

はじめよう!
ヘルシーライフ

筋肉と2型糖尿病

外で運動をしたくても、天気の悪い日や寒さ暑さの厳しいときには、できないことも少なくありません。そんな日が続くと、どうしても運動不足気味に。そういうときは、家庭で簡単にできる「筋トレ(筋肉トレーニング)」に挑戦してみませんか。
筋トレは運動不足の解消に役立つだけでなく、血糖値を改善し、2型糖尿病の予防にも効果があることがわかってきました。
私たちの体内で、ブドウ糖をもっとも多く取り込む器官は筋肉です。ところが筋肉量は20歳代がピークで、その後は少しずつ減少し、80歳代では30歳代の頃の60%程度に。そのため中高年になると、筋肉量の減少につれブドウ糖の消費量も減少し、それが血液中のブドウ糖を増やす(血糖値を上げる)原因の1つになっています。
それに加えて最近の研究から、肥満があると、筋肉中の毛細血管にあるインスリン受容体の働きが低下し、インスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性)が生じ、ブドウ糖の取り込み障害を起こしやすいこともわかってきました(※1)。
筋トレには、筋肉量を増やすことで基礎代謝量を高め、肥満しにくいからだをつくる効果もあります。
実際にどの程度の筋トレをすると、糖尿病の予防につながるのか…それを知った上で、家庭での筋トレに取り組んでみましょう。

(※1)東京大学大学院医学系研究科門脇孝教授らによる研究報告。肥満になると、筋肉中の血管内皮細胞のインスリン受容体基質(IRS2)の活性が低下し、血管が十分に拡張せず、ブドウ糖取り込み障害が起こるというメカニズムが解明されました。

vol.114 家庭での「筋トレ」で血糖値を改善

筋トレと糖尿病予防

糖尿病患者が多いアメリカでは、筋肉と糖尿病との関係をめぐるいくつかの調査が実施されています。
たとえばカリフォルニア大学ロサンゼルス校の調査報告では、体重に対する筋肉量の比率が10%増加するごとに、インスリン抵抗性の指標値(HOMA-IR)が14%、プレ糖尿病(糖尿病予備軍)の発症リスクが23%低下するとされています(※2)。
また、ハーバード大学公衆衛生学部の長期調査では、筋トレをおこなっていない人と比較すると、筋トレを週1~59分おこなうと糖尿病発症リスクが12%減、週60~149分では25%減、週150分以上では34%減になるとされています。平均すると、筋トレの時間が1週間当たりで60分増えるごとに、発症リスクは約13%の減少になります。
従来、有酸素運動(ウォーキング、ジョギングなど)の糖尿病予防効果は知られていましたが、これらの調査から、筋トレにもかなりの予防効果があることが判明したのです。ちなみにハーバード大学の調査では、筋トレと有酸素運動を併用して週150分以上おこなった場合には、糖尿病発症リスクが59%減少したとの報告もみられます。
筋トレの効果がわかったところで、筋トレを始めるにあたって「自分の筋肉量や筋肉率を知りたい」と思う方も多いでしょう。
私たちのからだの筋肉のうち、運動で増やすことができるのは骨格筋(からだを動かすときに使う筋肉)です。アメリカの調査にある筋肉も、骨格筋のことをさしています。
自分の骨格筋の比率や量は、骨格筋率を測定できる体重体組成計で知ることができます。また、体脂肪率がわかれば、次の計算から目安を知ることもできます(体重70kg、体脂肪率20%の例で計算)。

①体重(70kg)×体脂肪率(0.2)=体脂肪量(14kg)
②体重(70kg)-体脂肪量(14kg)=骨・内臓・筋肉量(56kg)
③骨・内臓・筋肉量(56kg)÷2=筋肉量(28kg)
④筋肉量(28kg)÷体重(70kg)×100=筋肉率(40%)

(※2)HOMA-IRは、インスリンの効き方(感受性)から糖尿病を調べるための指標で、病院での検査(空腹時の血中インスリン値や血糖値など)により算出されます。

家庭で筋トレを楽しもう

家庭でできる筋トレはたくさんありますが、どんな年齢の方にも対応できるのが屈伸運動です。

<屈伸運動(スクワット運動)>
①両足を肩幅くらいに開いて立ち、両手を前に水平に伸ばします。
②両足(両膝)をゆっくり曲げ、その姿勢を1秒程度キープしたら、ゆっくり両足を伸ばします。その間、両手は水平を保つようにします(前かがみになることを防ぐため)。
③両膝を深く曲げるほど負荷も大きいので、高齢の方は浅めの屈伸を。屈伸回数も当初は20~30回にし、無理をせず(筋肉痛を起こさない程度)に少しずつ回数を増やし、50~100回を目標に。
④屈伸は、呼吸をしながらゆっくりおこなうのがコツ。速くやると、弾みがついて負荷が少なくなり、また転倒の危険もあります。
⑤慣れてきて少し強い負荷をかけたいときは、両足をもう少し広げ、膝が直角になるくらいまで腰を落とします。両手は水平を維持します。その姿勢を数秒キープしてから膝を伸ばすという運動をくり返します。

<足上げ運動>
①力を抜いて立ち、片足ずつ交互にゆっくり膝を上げ下ろしします。膝を上げるときに息をはくようにします。
②足だけでなく腹筋の運動にもなるので、膝が直角になる高さまで上げるのが理想的。ただし、腰に負担がきやすいので、腰痛のある方は軽く上げる程度に。足元が不安な方は、壁や机に手を添えましょう。当初は20~30回程度にし、慣れてきたら50~100回を目標に。
③少し強い負荷をかけたいときは、上体のひねりを加えます。上げた右膝に、左手の肘がつくように(上げた左膝には、右手の肘がつくように)します。ゆっくりやることで、運動効果が高まります。ただし、腰への負担も大きくなるので、やりすぎないこと。

<段踏み運動>
筋トレに有酸素運動を加えると、糖尿病予防効果がより高くなります。その典型が、段踏み運動です。
①段差(1段)を上り下りするだけですが、筋トレと有酸素運動を兼ね備えています。運動用のステップ(台)も販売されていますが、雑誌や新聞紙を重ねて15cmほどの高さにし、紐やガムテープでしっかり固定(ずれないように)したものでもかまいません。
②靴下は滑りにくいものにし、1、2、3、4と調子をとりながら、ゆっくり段差を上り下りします。右足、左足の順序で上ったら、右足、左足の順序で後ろ向きに下ります。転倒しないように、壁や手すりに手を添えてやりましょう。上ったあと、そのまま前へ下りる方法もありますが、その場合は下りたら向きを変えて、前向きに段差を上りましょう(後ろ向きで段差を上ると非常に転倒しやすく危険です)。
③上る足をときどき左右入れ替えながら、上り下りを1回として当初は50~70回程度、慣れたら3~5分の音楽(スローバラードや演歌のテンポ)に合わせ、軽く息がはずむくらいまで続けることがポイントです。

上体の筋トレと注意したいこと

カバンや荷物を重く感じるようになったら、上体(腕や胸など)の筋肉も衰えているサインです。上体の筋トレも、取り入れましょう。

<四つんばい腕立て伏せ>
腕立て伏せが苦手な方でも、やりやすい運動です。
①四つんばいになります。
②その姿勢のまま、息を吐きながらゆっくり両腕を曲げて、腕立て伏せをします。胸を開くようなイメージで、おこないます。
③体重を前(腕のほう)にかけるほど、腕への負荷が大きくなります。最初は無理をせず、お尻のほうに体重をのせ、腕だけを曲げるようにしてコツをつかみましょう。

<タオルしぼり>
もっとも簡単な腕の筋トレが、タオルしぼりです。
①ハンドタオル程度の持ちやすいタオルを用意し、胸の前で軽くしぼった状態で持ちます。
②息を吐きながら、腕を前にゆっくり突き出しつつ、タオルをしぼっていきます。手先だけでなく、腕全体に力を入れてしぼります。その状態を3秒ほどキープしたら、力を抜いて元へ戻します。そのくり返しを、20~30回おこないましょう。
③乾いたタオルは滑りやすいので、それを上手にしぼることで筋トレ効果がアップします。

関連リンク:動画で紹介するかんたん・健康エクササイズ

ミニコラム

「筋トレを続けるために」
筋トレをすると、そのつど筋線維(細い細胞)がダメージを受けるので、やりすぎると炎症や痛みが起こりやすくなります。1日やったら1日休む程度のゆっくりペースで、長く続けることが大切です。1つだけでなく、いくつかの筋トレを組み合わせてバランスをとりましょう。また、筋肉をつくる栄養素の必須アミノ酸を多く含む、動物性タンパク質(肉、魚、乳製品など)をきちんと取ることも忘れずに。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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