vol.158 夏バテを防ぐにはどうすればいい?

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毎年、暑い時期になると悩まされる夏バテ。「食欲がなくなる」「体がだるい」「疲れがたまる」といった体調不良が深刻な人も少なくありません。では、どういった場合に夏バテになるのでしょうか。また、夏バテにならないようにするにはどうしたらいいのでしょうか。普段の生活を見直す方法も含めてお伝えします。

vol.158 夏バテを防ぐにはどうすればいい?

なぜ「夏バテ」が起こるのか?

夏バテというのは、正式な病名ではありません。しかし毎年夏になると「なんとなく食欲がない」「体がだるくて元気が出ない」「夜寝苦しいため、疲れがたまってしまう」といった体調の悪化を訴える人が増えるのも事実です。
ではどうして夏バテになるのでしょうか。その要因の一つとしてよく挙げられるのは、水分とビタミン、ミネラルの不足です。
暑いときに私たちの体は、汗をかいてそれが蒸発することで体温を下げようとします。汗には水分だけでなくビタミンやミネラルも含まれており、それらが排出されることで脱水状態になってしまいます。そんなときに冷蔵庫で冷やされた清涼飲料水ばかりを飲んでいると、胃腸が冷やされて消化能力が落ち、必要な栄養素が吸収できなくなることがあります。また、さっぱりした食事を選んでそうめんなど冷たい麺類ばかりを食べていると、ビタミンやミネラルが不足しがちです。こういった状態が夏バテの主な原因と、数十年前からいわれてきました。

しかし、ほかの理由も大きく影響しているといわれています。その代表的なものが、室内外の温度差です。
暑い屋外と冷房の効いた室内を行き来することで、自律神経のバランスに乱れが生じるといいます。自律神経のなかでも副交感神経は、体温の維持や内臓の働きを調節します。特に脳の温度は、暑い屋外でも涼しい室内でも約37度になるよう、自律神経によって一定に保たれます。それだけ夏は、体温調節のために自律神経が働いているわけです。自律神経を管理しているのは脳自体です。そのため、脳がエネルギーを使いすぎ、疲労してしまうことも夏バテの原因だといわれています。

このように、室内外の温度差は夏バテの原因の一つとなりますが、近年、それ以外の温度差が原因となる場合が増えていることを指摘する専門家も少なくありません。それは、「体内の温度差」です。

夏バテの新事実。それは「体内の温度差」

もともと私たちの体の中には、温度差があります。皮膚の表面と深部体温でも差があります。深部体温が下がるタイミングで眠りにつきやすくなることは、専門家の多くが認めていることです。
そんな温度差のなかでも一番注意したいのが、下半身だけ冷えがちの場合です。冷え性の70%以上が「下半身型冷え性」だといわれていますが、運動不足や加齢、室内で座ってばかりいる生活が続くと、お尻の周囲の筋肉が固まってしまうことがあります。すると、下半身の血管が収縮してしまい、温かい血液が下半身に行き届きにくくなってしまうといわれています。その場合に足の指先は、深部体温や脳に比べて10度以上も低い状態になってしまうこともあるといいます。
そんな状態になると、温かい血液は上半身ばかりに届きがちです。すると、下半身は冷えているのに上半身だけは熱がたまってしまう「うつ熱」になる場合があるのです。うつ熱は、高温・多湿・無風という状態で起きがちで、病気などによる発熱とは異なり、放熱がうまく行われないことなどによって起こります。うつ熱になるとボーッとしたり、だるさを感じるなど、夏バテの典型的な状態に陥ってしまうのです。

うつ熱を解消する方法は、汗をかくことです。私たちの体は暑いと汗腺から汗が出て、それが蒸発することで体温を調節しています。そのときに汗腺は、血液中から塩分を吸い上げ、その塩分に水分が集められて汗となって吹き出します。通常はほとんどの塩分は血液に戻され、塩分量の少ない汗が送り出されるのですが、普段から汗をあまりかかないでいると汗腺の働きが悪い状態になってしまい、塩分を血液に戻すことなく汗として出してしまいます。よく「体調の悪い時の汗は臭い」といわれるのも、塩分などの濃度が高い状態だからかもしれません。
また、塩分濃度が高い汗は蒸発しにくいので、皮膚表面の温度が下がりにくくなります。さらに塩分濃度が高くない場合でも、汗が蒸発する前に拭き取ってしまうと、気化熱によって体の中にたまった熱を放出する機会を失います。そんな場合に、体内に熱がたまるうつ熱となってしまうのです。ちなみに赤ちゃんの場合には、生まれてから2~3年で汗腺の働きが決まるといわれており、すぐに汗をかくことができない場合があります。そのため、赤ちゃんにうつ熱の心配があるときには、まず涼しくて風のある場所に移動することが第一です。
うつ熱は、熱中症の原因の一つともいわれています。汗をしっかりかくことと、血流をよくして体内の温度差を少なくすることは重要なのです。

暑さにあまり慣れていない初夏の場合は、汗腺の機能が十分ではありません。冬から春にかけては汗をかく必要がないため、汗腺もあまり働かなくていいからです。ゆっくりと暑くなってきた場合には、汗腺も次第に活動量を増やしてくれますが、急に暑くなってエアコンをフル稼働させたりした場合、汗腺の働きが向上しないことも考えられるのです。

疲労回復物質と夏バテの関係

疲労の原因が乳酸であるということが、長い間信じられてきました。激しい運動をすると乳酸がたまるから、というのがその理由でしたが、現在ではその説は否定されており、それどころか乳酸は、疲労を回復させる働きを持つことがわかってきています。

では、疲労を引き起こす原因となるものは何でしょうか。それは、2008年に東京慈恵医科大学 近藤一博教授らの研究グループによって発見されたFF(Fatigue Factor=疲労因子)というたんぱく質の一種です。運動をしたりして体が疲れてくると、体内で大量の酸素を消費し活性酸素も生まれてきます。この活性酸素が細胞を酸化させてしまい、そのときにFFが発生することで脳が疲労を起こしていると受け止めます。そして筋肉や細胞の活動も落ち込むことで、疲労を感じる状態となってしまうのです。
その状態から回復するために、全身の細胞から分泌される物質がFR(Fatigue Recovery)で、これも2011年に近藤教授らの研究グループによって明らかにされたたんぱく質の一種です。この疲労回復物質FRは、生活習慣によってその働きが強くなったり弱くなったりします。そのためFRの働きが弱い人が、夏バテを起こしやすいとされています。

では、どうしたらFRが多く分泌され、働きを強くすることができるのでしょうか。その方法の一つが「リラックスタイム」を取ることだといわれています。
肉体的疲労と同時に精神的疲労を起こすと、FFが発生すると考えられています。活発に活動する交感神経が優位に働くからです。しかし、副交感神経が優位な状態ではFRの働きが強く、疲れにくいとされています。つまり、自律神経のバランスが悪く交感神経が優位な時には疲労の原因となるFFが発生し、自律神経のバランスがいいと、FRが有効に働いてくれると考えられているのです。例えば入浴後や食事後、ゆったりしてリラックスできる時間を設ければ、自律神経のバランスを取り戻すことが可能なのです。
また、夏は睡眠時間が短くなりがちです。しかも寝苦しい夜が続いて睡眠不足が続いてしまう心配があります。睡眠不足を補うことも、夏バテ対策の基本といえるでしょう。

FRを増やすと考えられている食べ物もあります。それが「イミダゾールペプチド」です。イミダゾールペプチドは、いくつかあるアミノ酸結合体の総称で、カルノシン、アンセリンの2種類がよく知られています。
何日も休まず飛び続ける渡り鳥。なかには7000~1万㎞を休まずに、しかも滑空はほとんどなしに羽ばたき続ける鳥もいるといいます。また、マグロやカツオといった回遊魚は休むことなく常に泳ぎ回っています。ちなみに寝ているときも泳ぎ続けているといわれますが、それは、常に泳いで前に進むことで、口から酸素を含んだ水を取り込み呼吸しているからです。そんな渡り鳥や回遊魚のスタミナの秘密がイミダゾールペプチドといわれているのです。
大阪市立大学大学院の梶本修身教授らの研究によると、イミダゾールペプチドを摂取すると血中で消費されることなく骨格筋に移行し、疲労の発生を抑制すると考えられるとされています。疲労回復につながる成分として、今注目を集めているのです。

マグロやカツオはともかく、「渡り鳥を食べることは難しい」と考える人もいるでしょう。でも心配はありません。鶏のむね肉にもイミダゾールペプチドは多く含まれています。なぜ「もも肉」ではなく「むね肉」なのでしょうか。
そもそも鳥は、空を羽ばたくために生まれてきました。ニワトリの祖先はキジの仲間の野鶏(ヤケイ)と考えられており、もともと飛ぶことが得意ではありませんでした。その肉や卵を食用としたところ、美味だったために重宝され、飼育されてきました。その過程で、あまり飛ばない種類が多く交配されたとも考えられています。飼育されているため飛んでエサを探す必要もなく、外敵に襲われ逃げる必要もない状態となったため、いっそう飛ぶ能力が必要のない状態に進化(退化)してしまったといわれています。しかしそれでも「鳥としてのDNA」が残っており、走り回るためのもも肉より、むね肉のほうにイミダゾールペプチドが多く含まれているのだとする専門家もいます。

鶏むね肉はパサつくから苦手、という人もいるでしょう。しかし最近では、酵素の作用で鶏むね肉などをやわらかくてジューシーにする調味料が発売されていますので、試してみてはいかがでしょうか。
また、軽めの運動もFRを増やすといわれています。しかし、過度の運動は逆効果です。加齢によってFRが作り出されにくくなるため、余計に注意が必要です。

汗によって失われる栄養素を補給

熱中症予防のために、塩分入りの清涼飲料水を摂取する人は多いでしょう。汗によってミネラルが失われることは知られていますが、同時に水溶性ビタミンであるビタミンB群とビタミンCが失われている点にも注意が必要です。

冒頭に書いたように、そうめんなどのあっさりした食事を選ぶと、糖質がメインとなってしまいます。パンと清涼飲料水だけですませても同様です。糖質は人間にとって重要なエネルギー源ですが、炭水化物に含まれる糖質をエネルギーに変えるためにはビタミンB1が必要となります。しかし糖質を摂りすぎたりした状態で、夏の暑さで汗によってビタミンB1が失われていると、糖質をエネルギーに変えることができなくなってしまい、疲れやすい状態、つまり夏バテに結びついてしまう危険性があるのです。また、糖質が代謝されずに体に残ってしまえば、中性脂肪として蓄積されてしまいます。
また、ビタミンCも夏に必要なビタミンです。睡眠不足や酸化ストレスによってビタミンCは消費されやすいといわれており、汗をかいても水溶性であるために失われがちです。これらのビタミンを摂取することを忘れないようにしましょう。

あっさりした食事は、体を温める食材が少ない点にも注意を払う必要があります。 カラシやコショウ、ショウガ、唐辛子といった香辛料は体を温めます。また、野菜類ではカボチャ、玉ねぎ、ニラ、ネギなどです。イワシやマグロ、羊肉、鶏肉も同様です。
反対に、キュウリやニガウリ、レタス、大根、ナスは体を冷やす食材です。果物類ではスイカ、キウイ、メロンも体を冷やすといわれています。
また、体を温めるのでも冷やすのでもない中間的食材は白米、玄米、キャベツ、ニンジン、ピーマン、牛肉、豚肉などです。これらは毎日摂取しても、注意する必要がない食材といわれているため、ある意味“便利”とも言えます。

毎日の食生活で、体を冷やす食品ばかりを食べていないかどうか、チェックしてみるのも一つの方法です。同時に毎回の食事で、冷蔵庫から出したばかりのような冷たい食品ばかり食べていないかどうかも確認する必要があります。1回の食事で、1品(味噌汁でもOK)は温かいものを食べるようにしましょう。ざるそばで済ませた場合、そば湯を忘れずに飲むようにして、薬味もたっぷり摂るようにするといいのではないでしょうか。

抗酸化作用の高い食品を摂ることにも気を配りましょう。例えばトマトにはリコピンが含まれていて、活性酸素を除去してくれます。クエン酸は疲労回復にも役立ちます。ナスに含まれているアントシアニンに高い抗酸化作用があります。これらの野菜は、太陽の紫外線から身を守るために抗酸化作用のある成分が産生されるといわれています。そのため、実より皮にそういった成分が多く含まれているのです。 また、大葉(青ジソ)は漢方では、解熱に用いられるとされています。自律神経の乱れを整える働きもあり、香り成分「ぺリルアルデヒド」には胃液を分泌する作用もあるといいます。こういった食材を毎日の食事に加えることで、夏バテに備えましょう。

食事だけでなく質のいい睡眠も、夏バテを予防するための基本です。そして、寝汗をかくことも必要です。
夏の寝汗を嫌う人も多いでしょう。しかし、私たちの体は、深部体温が下がることで寝つきがよくなります。寝つく直前に寝汗をかき、体温を下げることで深い眠りに結びつくのです。就寝の1時間前に入浴をすませ、体温が下がるようにすることが、熟睡への第一歩です。また、夏は特に肌触りのいい寝具を選ぶことも大切です。
食事や睡眠など、自分に効果的と思われることを実践して、夏バテに対抗してみてはいかがでしょうか。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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