vol.43 パニック障害って、どんな病気?
ヘルシーライフ
パニック障害の原因は
最近、こうした発作を起こし、病院で「パニック障害」と診断される人が増えています。かつては心臓神経症や不安神経症のひとつとされていましたが、違う病気であることが判明し、日本でも病名が知られるようになったのは10年ほど前からです(※1)。そのためパニック障害のことをまだ知らず、つらい症状にひとりで悩んでいる人が少なくありません。
そこでまず、パニック障害について知っておきましょう。
パニック障害は、ストレス性の不安症や神経症、あるいは心の病気とも違います。最近の研究などから、パニック障害の原因は、脳内神経伝達物質(脳内ホルモン)のバランスの乱れであることがわかってきています。
とくにセロトニンとノルアドレナリンが関係していると考えられています。セロトニンは、ほかの脳内神経伝達物質の情報をコントロールし、精神状態を安定させる働きがあります。またノルアドレナリンは、不安や恐怖感を引き起こし、血圧や心拍数を上げる働きをします。
脳内神経伝達物質の乱れと聞くと、特殊な病気と思われるかもしれませんが、100人に3人程度の比率で、だれにでも起こりうる病気です。ただ、働き盛りの年齢の人が、ある日突然強い発作におそわれ、ショックを受けることが少なくありません。心臓疾患を心配したり、再発の不安から外出できなくなるなど、日常生活に支障をきたすこともあります。
そのため発作を経験したら、早めに病院(心療内科や神経科、精神科)を受診し、適切な治療と生活指導を受けることが大切です。
(※1)パニック障害という病名は、1980年にアメリカ精神医学会で初めて発表されました。1990年代にWHO(世界保健機関)に登録され、ようやく一般にも知られるようになりました。
パニック障害の発作とは
1.パニック発作
発症のきっかけとなるのが、パニック発作です。なんの前ぶれもなく、いきなり次のような症状が起こります。
- 心臓のドキドキがはっきり感じられるほど強くなる。
- 呼吸が速まり、息ができない感じがする。
- 胸に痛みを感じる。
- 冷や汗が出たり、からだがふるえたりする。
- めまいやふらつきが起こる。
- からだがふわふわしたり、頭がぼんやりする。
- 吐き気や腹部などに不快な感じがする。
発作はかなり強く、死ぬのではないかと不安になる人が少なくありませんが、たいていは30分~1時間程度でおさまります。しかし、繰り返し発作が起こります。当初は月に1回程度だったのが、進行するにつれ2回、3回と増える傾向があります。
パニック発作は一般に、女性に多いといわれます。しかし、男性には恥ずかしがって受診しない人が多いため、実際には男性の患者さんもかなり多いと推定されています。
2.予期不安
パニック発作を繰り返すと、また起こるのではないかという恐怖感をもつようになります。それが「予期不安」です。
予期不安には、死への恐怖だけでなく、ほかの病気(心臓疾患など)の心配、発作を起こしたときの不安(恥ずかしい、助けてもらえない、他人に迷惑をかける)など、さまざまな感情が入り混じっています。パニック障害の人の多くが、予期不安を感じています。
3.広場恐怖
予期不安がエスカレートし、自分が発作を起こした場所に恐怖感をもつようになる…それが「広場恐怖」です。広場というのは、人が大勢いる場所といった意味で、実際には患者さんごとに恐怖感をもつ場所は異なります。
例えば、電車やバスの車内で発作を起こしたために、乗り物を避けるようになったり、デパートで発作を起こし、デパートに買い物に行けなくなる症状の人もいます。
広場恐怖がさらに進行すると、外出ができなくなり、仕事や日常の買い物にも行けず、家に引きこもるケースもみられます。また精神的にも落ち込み、うつ状態になる人もいます。
このようにパニック障害は、発作にはじまり、放っておくと、発作の繰り返し→予期不安→広場恐怖へと、重症化するのが一般的な傾向です。
パニック障害は治る
病院では、パニック障害と診断されると、発作を抑え、不安を軽減・解消するための治療が行われます。
かつてはパニック障害の治療薬がなかったため、抗不安薬や抗うつ薬を組み合わせて使われていました。最近になって、セロトニンに作用する薬が効果的であることがわかり、副作用の少ない治療薬として使用されるようになりました(※2)。
パニック障害の治療の目標は、ふつうの人と同じように日常生活ができるようになることです。そのため予期不安や広場恐怖がある患者さんには、薬による治療だけでなく、発作が起きたときの心構えを身に付けたり(精神療法)、苦手としている場所を克服する練習(行動療法)が行われます。
<精神療法とは>
パニック発作を経験すると、不安感から、ちょっとした症状にも過剰に反応しがちです。軽い症状がみられたとき、冷静に対処する方法(呼吸法など)を知っておくと、発作を抑えることができます。
<行動療法とは>
電車に乗れない人を例にすると、薬を使いながら、まず駅まで行ってみる、次に電車を眺めてみる、というように少しずつ克服し、最終的には電車に乗れるようにします。
こうした最新の治療薬や治療法を受けるためにも、専門医がいる心療内科や神経科、精神科、あるいはパニック障害に詳しい医師のいる内科を受診するようにしましょう。
(※2)SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という、セロトニンのバランスを調整する薬で、世界中でよく使われている抗うつ薬のひとつ。セロトニンにだけ作用するので、パニック障害に適していて副作用が少ないとされています。ただし人によって、疲労感やだるさなどを感じることもあります。
日常生活で注意したいこと
1.治療方針を守る
自宅での薬の服用など、治療方針を守ることが大切です。自己判断で薬を中断すると、かえって症状を悪化させかねません。副作用などが心配な場合は、医師とよく相談するようにしましょう。
2.ストレスや疲労をためない
ストレスや環境の変化は、パニック障害の直接の原因ではありません。しかしストレスがたまったり、仕事や生活上の大きな変化があると、発作を誘発することがあります。
また疲労がたまっていると、発作を起こしやすい傾向がみられます。これは疲労物質の乳酸の濃度が高くなるためと考えられています。
睡眠を十分にとる、積極的に気分転換を図るなどの方法で、発作を予防しましょう。
3.食事に気を付ける
睡眠と並んで、規則正しい時間に食事をとる生活も大切です。生活時間が不規則になると、自律神経にも影響を与え、症状がひどくなるからです。またコーヒーや紅茶など、カフェインを多く含む飲み物が、発作を誘発することがあります。飲みすぎないようにしましょう。
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