vol.48 「耳鳴り」が教えてくれる難聴対策

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耳鳴りは大切なサイン

中高年の人なら、一度や二度は耳鳴りを経験したことがあるでしょう。キーンという高音やザァーという騒音のような音…こうした耳鳴りは、耳の奥(内耳)にある蝸牛(かぎゅう)という聴覚器官の細胞に、なんらかの異常が起こったことを知らせるサインです(※1)。
耳鳴りの多くは一過性のもので、すぐに治まってしまいます。でも耳鳴りが起こる背景には、自分でも気付かないような疲労やストレスなどが隠れていることが少なくありません(※2)。
それだけに、すぐに治まった場合でも、「耳鳴りはからだが教えてくれるサイン」と受け止め、休養をとる、気分転換をする、睡眠時間に気を付けるなど、生活全般を見直すきっかけにしましょう。
耳鳴りにはいろいろなタイプがありますが、とくに気を付けたいのは難聴を伴ったり、慢性化するようなケースです。こうした耳鳴りの場合、「トシのせいで仕方ない」とか「治療してもよくならない」と思っている人が少なくありません。
でも放置していると、耳が聴こえにくい状態が固定化したり、悪化したりしかねません。耳鳴りそのものがストレスとなり、仕事や家事に支障をきたし、体調をくずすこともあります。
また次に紹介する「突発性難聴」のように、早期に治療するかどうかで改善の程度が大きく違ってくるものもあります。
耳鳴りくらいと放置せず、まず自分の耳鳴りの特徴を知り、適切な対処を心がけることが大切です。

(※1)内耳の蝸牛には、音を感知する細かい毛をもつ有毛細胞があります。なんらかの理由で、有毛細胞の毛が折れたり、抜け落ちたりすることから、耳鳴りや難聴が生じると考えられています。

(※2)疲労やストレスがたまると、有毛細胞の毛が折れたり、落ちたりし、耳鳴りや難聴を起こしやすいとされています。

vol.48 「耳鳴り」が教えてくれる難聴対策

突発性難聴は早めの治療を

朝起きたら耳が聴こえにくかった、だれかが自分を呼んでいるのに気付かなかった、電話の相手の声が聴こえにくかった…突発性難聴はそんなふうになんの予兆もなく、ある時突然起こります。
一般に耳鳴りや難聴は50歳前後から起こる人が多く、高齢になるほど頻度も高くなります。ところが突発性難聴は、若者や30~40歳代の働き盛りの人にもみられ、患者数が増えていることから注目されています(※3)。
突発性難聴の場合、難聴の程度は人によってさまざまですが、ほとんどの場合、片方の耳が聴こえにくくなります。難聴の前後に耳鳴りを生じる人が多く、めまいや吐き気を感じる人もいます。
原因については、ウイルス感染によるとする説と、内耳の血液循環の悪化によるという説とがありますが、まだはっきりしていません。
ただし、患者さんの多くが発症前に疲労を感じていたことが判明しています。また、なんらかの病気(風邪、おたふくかぜ、はしか、胃腸炎、高血圧、糖尿病、心疾患など)にかかっている人も発症しやすい傾向がみられます。疲れている時やこうした病気のある人が、耳に少しでも異常を感じたら注意が必要です。
突発性難聴が起こった場合には、早めに治療を受けることが大切です。聴こえにくい症状を放置していると、1~2ヵ月で固定化され、治らなくなってしまうからです。病院で検査を受けることで、メニエール病などほかの病気(※4)との区別もできるので、急に耳が聴こえにくくなった場合はすぐに受診しましょう。

(※3)厚生労働省研究班の調査では、突発性難聴により治療を受けた患者数は、1993年の24,000人から2001年には35,000人に増加しています。軽度の突発性難聴の場合は受診しない人も多いので、潜在的な患者数はかなり多いと考えられます。

(※4)メニエール病は内耳の障害によりめまいや耳鳴りを生じる病気で、女性に多くみられます。そのほか少数ですが聴神経の腫瘍などによる耳鳴り・難聴もあります。

最も多い老人性難聴

耳鳴りの原因で最も多いのが、加齢によるものです。内耳の蝸牛にある有毛細胞が、老化によって壊れ、耳鳴りや難聴といった症状が起こります。耳鳴りだけの場合や難聴だけの場合など、人によってさまざまなケースがあります。
難聴を伴う場合は、一般に老人性難聴と呼ばれます。老人性とはいっても、聴覚細胞の老化には個人差があるので、40歳代からは耳の状態にも気を付けたほうがいいでしょう。また、慢性の中耳炎にかかっている人も老人性難聴を起こしやすいので、予防のためにはきちんと治療する必要があります。
老人性難聴は両方の耳に起こることが多く、人の声などがこもったように小さく聴こえ、とくに周囲に音楽や雑音があると相手の声が聴き取りにくくなります。まただれかと話をしている時、ほかの人に話しかけられても聴き取りにくいため、大勢での会話が苦手になる人もいます。
蝸牛の有毛細胞は、一度壊れると修復できません。そのため老人性難聴は根本的な治療が難しく、日常生活に支障をきたすレベルになると、補聴器が必要となります。
補聴器を使う場合は、自分に合うものを選ぶことが大切です。事前に耳鼻咽喉科を受診し、音や言葉をどの程度聴き取ることができるのか、きちんと検査してもらい、補聴器についてもアドバイスを受けるといいでしょう。ほかの耳の病気があると、補聴器の効果が出にくいので、その点からも事前の検査は大切です。
難聴が進んでいる場合は、補聴器の試聴を行い、音質などの調整をしてもらいながら、自分に合ったものを選ぶようにします。購入後のメンテナンスなども含め、認定補聴器技術者のいる認定補聴器専門店で相談しながら選ぶと安心です(※5)。

(※5)認定補聴器技術者は、厚生労働省が指定する(財)テクノエイド協会が認定する補聴器技術者です。経験や知識など一定基準をクリアした技術者が認定されます。また専門店については、インターネットで「認定補聴器専門店」を検索し、探すことができます。

耳鳴りを改善する治療法

老人性難聴と同じように、耳鳴りも「トシのせい」とあきらめている人は多いでしょう。しかし耳鳴りについては最近、治療や改善の方法がかなり進展し、人によって差はありますが、効果がみられることも少なくありません。
耳鳴り治療の代表的なものに、「音響療法」と「カウンセリング療法」があります。
音響療法は、補聴器のような器具をつけ、小さな音を流しながら耳鳴りの音を気にならないようにする方法です。私たちは日常生活のなかで、冷蔵庫やエアコンのモーター音などが聴こえていても、ほとんど気にしていません。それと同様に、ほかの音などにまぎれて、耳鳴りの音をあまり意識せずにすむようにします。
カウンセリング療法は、悩みやストレスなど心因性の耳鳴りを対象に、医師が患者さんの話を聞いて原因を調べ、メンタル・ケアをしながら耳鳴りを軽減する方法です。耳鳴りそのものがストレスとなり、さらに症状を悪化させているケースもあり、その場合にもカウンセリングが適しています。
最近は2つの療法を併用する「TRT(耳鳴り順応)療法」を取り入れている病院もあります(※6)。また、ストレスの緩和や血行の改善に薬物を取り入れているところもあります。
人によってかなりの改善効果がみられますが、治療には1~2年かかることもあるので、医師とのコミュニケーションや信頼関係を大切にして治療を続ける必要があります。
また、療法によって保険の適応外であったり、TRT療法の場合には採用している病院がまだ少ないなど、注意すべき点もあるので、事前に病院などに確認してから治療を受けるようにしてください。
耳鳴りは、疲労やストレスの影響を受けやすいので、病院で治療を受けるかどうかとは別に、自分でも積極的に休養や気分転換を図る生活を心がけましょう。

(※6)TRT療法は1990年代にアメリカで始まり、ここ数年で日本でも採用する病院が増えています。この療法の場合でも、効果がみられるまでには数ヵ月~1年程度は必要とされます。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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