vol.95 40歳をすぎたら「正常眼圧緑内障」にご注意を

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気づきにくい正常眼圧緑内障

紫外線が多く、目の病気に気をつけたい季節です。
中高年の方が注意すべき目の病気はいろいろありますが、従来の常識が大きく変わりつつあるのが緑内障です。
緑内障は、視野の一部が欠けて見えにくくなる目の病気です。進行性なので次第に見えにくい部分が増え、そのまま放置していると失明にいたることもあります(※1)。かつてはお年寄りの病気と考えられていましたが、近年のさまざまな調査から、40歳頃からはだれにでも発症の可能性があることがわかってきました。
その背景にあるのが、正常眼圧緑内障です。以前は、眼圧の上昇が緑内障の最大の原因とされてきました。ところが実際には、正常眼圧であっても緑内障になるケースが多いことがわかり、現在では緑内障全体の70%以上を正常眼圧緑内障が占めるほどになっています。
その一方で、正常眼圧緑内障は進行がゆるやかで、よほど悪化しないと自覚症状もほとんどないので、自分ではなかなか気がつきません。なんとなく見えにくい、見え方がおかしいと感じて、受診したときにはかなり進行しているというケースが多いのです。
それだけに最近は「40歳をすぎたら」、あるいは「老眼が入ってきたら」、緑内障の検査をしたほうがいい、といわれるようになっています。
早期発見のためにも、正常眼圧緑内障について知っておきましょう。

(※1) 厚生労働省による研究報告(2009年)によると、中途失明(成人)の原因として第1位が緑内障(26%)、第2位が糖尿病性網膜症(21%)、第3位が網膜色素変性症(9%)となっています。

vol.95 40歳をすぎたら「正常眼圧緑内障」にご注意を

正常眼圧と緑内障

そもそも、正常眼圧とは何でしょうか。
私たちの目の内部には、房水(ぼうすい)という液が循環していて、ボールのように常に内側から圧力がかかっています。それが眼圧で、健康診断などによる眼圧検査では10~21mmHgの範囲なら正常とされます。
一般に眼圧が高くなると、視神経が圧迫されて、障害を起こしやすくなります。緑内障にはいくつかのタイプがありますが、目のなかの隅角という部分がふさがったり、房水の排出路が詰まったりして、眼圧が上昇することで発症するタイプがあります。このことからも、眼圧が要因の1つであることがわかります(※2)。
では、正常眼圧の場合は、どうなのでしょうか。
じつは、正常眼圧緑内障のくわしい発症メカニズムは、まだよくわかっていません。しかし、正常とはいっても常に一定の圧力がかかっていること、また、視神経の状態には個人差があり、眼圧や周辺の血液循環の悪化などが影響して、発症すると推測されています。
つまり、眼圧が正常の範囲であっても、なんらかの理由から視神経が傷ついたり、萎縮したりして、緑内障の症状(視野狭窄)が起こるのです。それが正常眼圧緑内障であり、しかも40歳以上では20人に1人という高い割合で起こることもわかっています(※3)。
また、正常眼圧緑内障の場合、90%の方は自分が緑内障であることに気づいていません。視野狭窄がかなり進んでいても、ほかの部分(見える部分)がフォローするため、気づきにくいのです。それだけに、早期発見のための検査が重視されるようになっています(※4)

(※2) 隅角は目の虹彩と角膜の間の部分。また、房水は役目を終えると線維柱帯という排出路から排出されます。こうした部分が詰まると、眼圧が上昇します。前者が原因の緑内障は全体の約10%、後者は6%程度。そのほか、他の目の病気(糖尿病性網膜症など)が関係しているタイプが約10%と推定されています。なお正常眼圧緑内障は、全体の約70%を占めます。

(※3) 岐阜県多治見市で実施された、日本緑内障学会による多治見緑内障疫学調査(多治見スタディ)による(2000~2001年に実施)。

(※4) 簡単な自己チェック法として、「テレビの砂嵐画面(ノイズフィールド)の中心を片目ずつ見つめ、まわりの砂嵐画面に欠けた部分(見えない部分)がないかどうかチェックする方法」があります。ただし、この方法で気づいた時点では、視野狭窄が半分以上に広がっている可能性があります。できればもっと早い時点から、定期的に眼底検査などを受けることが大切です。

緑内障の検査と治療

正常眼圧緑内障の早期発見には、眼科での検査が欠かせません。ただし、眼圧検査だけでは発見はむずかしく、眼底検査や視野検査を受ける必要があります。
眼底検査は、眼底部の網膜や視神経を調べるもので、緑内障だけでなく、眼底出血や網膜はく離、動脈硬化などの発見にも役立ちます。もう一つの視野検査は、視野狭窄の進行程度を調べるものです。
緑内障の場合、障害を受けた視神経は元にはもどりません。
そのため治療法がないと思っていたり、老化現象の1つなので仕方がない、と考えている方も多いのですが、現在は進行をおさえる効果をもつ薬(点眼薬)が数種類あります。それだけにできるだけ初期段階で発見し、早めに治療を受けることが大切になっています。
治療には主に、房水の生成をおさえたり、排出をうながすための点眼薬が使用されます。どちらも眼圧を下げる目的があります。
「正常眼圧でも、眼圧を下げる必要があるの?」 と思われるかもしれません。ところが正常眼圧緑内障の場合、眼圧を30%程度下げると、約80%の方に進行抑制の効果がみられます。
ただし、点眼薬によっては、心臓病や喘息などに影響を与えるものがあるので、医師とよく話し合っておくことも必要です。
また、点眼薬でどうしても効果がみられない場合には、レーザー治療や手術といった方法もあります。どちらの場合も、合併症などのリスクをともなうので、その点についても医師から十分に話を聞いておきましょう。

「目の主治医」をつくる

正常眼圧緑内障になりやすいタイプとして、「親や兄弟に正常眼圧緑内障の人がいる」、「強い近視がある」といった点が指摘されています。ただし、眼圧の影響や視神経の強度などには、人によってかなり違いがあるので、40歳をすぎたらだれでも一度は緑内障の検査を受けるようにしましょう。
また、高齢になるほど発症率も高くなるので、近所や通いやすい場所に「目の主治医」をつくり、定期的にチェックしてもらうようにすると安心です。
眼圧は、血圧と似た面があります。ストレスを受けたり、疲労(眼圧の場合は目の疲れ)がたまると、一時的に上昇しやすいのです。そうした生活をくり返していると、視神経も傷つきやすくなります。
ストレスと目の疲労をためないように心がけ、睡眠をきちんととり、ときどき気分転換すること。また、パソコン画面などを長時間見つめ続けることも、眼圧上昇につながるので注意しましょう。
正常眼圧緑内障の治療を始めると、点眼薬を毎日使用します。長期間に及ぶので、ついさぼって点眼をやめてしまう方も少なくありません。
点眼薬による治療の目的は、発症時の眼圧を20~30%下げた状態を維持し、緑内障が悪化しないようにすることです。点眼薬を数日さぼっただけで、眼圧が元にもどってしまうこともあるので、面倒かもしれませんがきちんと続けることが大切です。
なお、点眼薬を使用した当初は、心臓病や喘息などに影響が出ないかどうか注意し、もしおかしいと感じた場合は早めに医師に相談し、薬の種類を替えてもらうなどの対応をとるようにしてください。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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