vol.171 歯周病予防は、糖尿病予防にも有効なのでしょうか?
生活習慣病Q&A
- 歯周病予防は、糖尿病予防にも有効なのでしょうか?
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有効性を示す研究結果は出ていませんが、糖尿病を持つ人が歯周病の治療を行うと血糖コントロールが改善する可能性があります。糖尿病を持つ人は歯周病になりやすいことが知られています。さらに、血糖コントロールが悪くなると、歯周病が悪化しやすいことも知られています。血糖コントロールのレベルからみると、HbA1cが6.5~7.0%あたりから歯周病が悪化するリスクが高くなり、HbA1cが9%を超えるとさらに悪化しやすくなります。
また、重症の歯周病を放置しておくと、2型糖尿病を発症するリスクが高くなります。その理由として、慢性炎症が考えられています。肺炎やインフルエンザは急性の炎症性疾患ですが、歯周病は慢性的な炎症を引き起こします。この慢性的な炎症がおこると、血糖を下げるインスリンというホルモンの働きが悪くなります。これをインスリン抵抗性と言います。その結果、血糖が上がりやすくなる理由と考えられています。
重症の歯周病を放置しておくと、インスリン抵抗性や慢性的な炎症を介して、狭心症や心筋梗塞を引き起こしたり、腎臓が悪くなるリスクが高まります。逆に、糖尿病で血糖コントロールが不良になると、抵抗力が低下し、歯周病菌に感染しやすくなります。
つまり、歯周病があると高血糖になりやすく、糖尿病があると小歯周病になりやすく、双方向性な病態と考えられています。それでは、歯周病予防をすれば、糖尿病予防につながるのでしょうか? 残念ながら、その答えにつながる研究はまだ行われていません。しかし、糖尿病を持っている人が歯周病の治療をすると血糖コントロールは良くなる可能性があります。
基本は正しい歯磨きです。1日に1回以下の人に比べ、2回以上の人はメタボリックシンドロームや慢性炎症が起こりにくくなります。朝だけでなく、昼と夜にも歯磨きができるといいですね。歯磨きだけでは取り除くことができない歯石については、歯科医院でスケーリングやルートプレーニングという歯周病の治療があります。スケーリングとは、スケーラーという器具を用いて歯にこびりついた歯石を除去する歯周病の治療法です。ルートプレーニングとは、キュレットという器具を用いて歯茎の内部に入り込んだ歯石を除去する歯周病の治療法です。
皆さんも歯周病になっていないかどうか、かかりつけの歯科医院で相談してみては、いかが。
<文献>
1.Saengtipbovorn S, Taneepanichskul S: Effectiveness of lifestyle change plus dental care program in improving glycemic and periodontal status in aging patients with diabetes: a cluster, randomized, controlled trial. J Periodontol. 2015;86(4):507-15.
2.特定非営利活動法人日本歯周病学会編:糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン改訂第2版、医歯薬出版、2015年
先生のプロフィール

坂根 直樹 先生
独立行政法人国立病院機構京都医療センター
臨床研究センター 予防医学研究室室長
臨床研究センター 予防医学研究室室長
- 略歴
- 昭和64年 自治医科大学医学部卒業
昭和64年 京都府立医科大学附属病院(第1内科)研修医
平成3年 大江町国保大江病院内科
平成5年 弥栄町国保病院内科
平成6年 京都府保健福祉部医療・国保課
平成7年 綾部市立病院(内分泌科)
平成10年 大宮町国保直営大宮診療所
平成11年 京都府立医科大学附属病院修練医(第1内科)
平成13年 神戸大学大学院医学系研究科分子疫学分野(旧衛生学)助手
平成15年 独立行政法人国立病院機構京都医療センター(旧国立京都病院)
臨床研究センター 予防医学研究室室長 - ご専門
- 糖尿病、糖尿病教育、内分泌