2016.02.10

vol.152 「やせホルモン」と呼ばれる「アディポネクチン」って何?

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Vol.152 「やせホルモン」と呼ばれる「アディポネクチン」って何?

あるときは「やせホルモン」、またあるときは「長寿ホルモン」と呼ばれ、話題になっているものがあります。その正体は「アディポネクチン」といい、脂肪細胞から分泌されるホルモンの一種です。生活習慣病の対策としても期待されるこのホルモンには、いったいどんな働きがあるのでしょうか。

なぜ「やせホルモン」と呼ばれるのか?

ホルモンというと、内臓などから分泌されるものと考えている人が多いと思いますが、実は脂肪細胞からも分泌されます。脂肪細胞からはホルモンだけでなく多くの生理活性物質が分泌されていますが、そのなかで善玉物質として注目されているのがアディポネクチンです。

なぜ注目されているのかというと、アディポネクチンには脂肪を燃焼させる働きがあるからです。そのためテレビ番組などでは「やせホルモン」と呼ばれたりして、しばしば取り上げられているのです。
体を動かしてエネルギーが必要になると、脂肪を分解する酵素「リパーゼ」が活性化されて、体内の脂肪をエネルギーとして消費します。また、筋肉にある酵素「AMPキナーゼ」も活性化されて、糖や脂肪をエネルギーとして活用しようとします。つまり、運動することで酵素が活躍して、脂肪が蓄積されるのを防いでくれるのです。 これに対してアディポネクチンには、運動を行わなくてもAMPキナーゼを活性化する働きがあります。運動をすればもちろん、しなくても糖や脂肪の消費をサポートしてくれるのです。アディポネクチンが分泌されていれば、脂肪を燃焼しやすく、太りにくいカラダになることが可能というわけです。

アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されているため、脂肪が多く太った人のほうがたくさん分泌されるのでは? と考えるかもしれませんが、事実はその逆です。脂肪、なかでも内臓脂肪が多くなればなるほど、アディポネクチンの分泌量が減ってしまうことがわかっています。
そのメカニズムに関しては、すべてが明らかになっているわけではありません。しかし、その理由として考えられているのは悪玉物質との関連です。脂肪が多く太っている状態は、狭い密室に脂肪細胞が詰め込まれていることを意味します。詰め込まれた脂肪細胞は炎症を起こし、炎症細胞であるマクロファージがそこに近づいてきます。すると悪玉物質が分泌されてしまい、代わりに善玉物質であるアディポネクチンの分泌が減ってしまうと考えられています。アディポネクチンが分泌されるためには、脂肪をため込むことを防がなくてはいけないのです。

動脈硬化や糖尿病の予防にも役立つってホント?

アディポネクチンが注目される理由は、脂肪燃焼の働きだけではありません。今、最も注目されている点は、動脈硬化を予防し、改善する働きです。
血管は加齢によって弾力が失われるだけでなく、糖や脂質などを摂取することで常に損傷していきます。そうすると血管壁にコレステロールがプラークとして付着しやすくなり、血管を詰まりやすくしてしまいます。動脈硬化は高血圧や心筋梗塞、脳卒中を引き起こす大きな原因となってしまうのです。 アディポネクチンには血管内の傷を修復するだけでなく、血管を拡張する働きがあります。そのためアディポネクチンがちゃんと分泌されていれば、動脈硬化を予防することが可能となり、高血圧や心筋梗塞、脳卒中のリスクを低減できることになります。

アディポネクチンにはインスリンの効果を高める働きもあります。膵臓から分泌されるインスリンは、私たちの体の中で唯一、血糖値を下げてくれる働きを持っています。しかしアディポネクチンの値が低いとインスリンの働きが悪くなってしまい、血糖値が上昇してしまう危険性があります。つまりアディポネクチンには、2型糖尿病の予防に対しても大きな期待がかけられているのです。
また、脂肪を燃焼する働きがあるアディポネクチンの分泌が十分でなければ、脂質の代謝が悪くなってしまいます。このため太りやすくなるだけでなく、中性脂肪の数値が悪くなったり、善玉といわれるHDLコレステロールの数値が低くなったりします。すると、脂質異常症にもつながってしまいます。
高血圧糖尿病脂質異常症といった病気は「生活習慣病」と呼ばれる病気です。アディポネクチンが正常に分泌されていれば、これらの生活習慣病を防いでくれる可能性があります。そのためアディポネクチンは「長寿ホルモン」とも呼ばれているのです。

また、アディポネクチンにはがん細胞が増殖するのを抑制する働きがあるのでは、ともいわれています。すべてのがんに対してではありませんが、胃がん、大腸がん、乳がん、子宮体がん、前立腺がんなどに対して、アディポネクチンの予防効果が期待されています。
さらに、アディポネクチンが心臓などの臓器にも作用しているのではないかという研究報告もあります。心筋梗塞のあるマウスによる実験では、心筋のアディポネクチンの量が一時的に増加するのに対して、血中のアディポネクチン濃度が一時的に低下するという様子が見られたといいます。これは、血液中を巡回していたアディポネクチンが障害された臓器に集まり、臓器保護作用を発揮している可能性が示唆されているというのです※。

※ 基礎研究【アディポネクチン】前田法一 下村伊一郎 医学のあゆみ Vol.250 No.9 2014.8.30より

アディポネクチンと似た働きが期待されている「オスモチン」って?

アディポネクチンは大阪大学医学部の松澤佑次教授(当時)によって、1996年に発見されました。そして東京大学大学院医学研究科糖尿病・代謝内科の研究室によって、2003年にホルモンであることが明らかにされました。
ホルモンとは、体の中で産生されて血液で運ばれ、特定の組織・器官にあるホルモン受容体と結びつくことで作用する物質のことです。例えばコレステロールは、体内で作られ血液によって運ばれ、ホルモンの原料となったり細胞膜を作る材料となったりしますが、受容体で特定の組織と結びついて働くわけではありません。したがって、コレステロールはホルモンではありません。これに対してアディポネクチンは、脂肪細胞で作られ血液で運ばれ、骨格筋や肝臓、脂肪組織にあるアディポネクチン受容体と結びついて作用します。この受容体を発見したことによって、アディポネクチンがホルモンであると証明されたのです。

受容体というのは、いわば「鍵穴」のようなもの。ホルモンはその鍵穴にピッタリはまる「鍵」といえます。
そこで今、注目されているのが「オスモチン」という物質です。アディポネクチンと構造が非常に似ているため、オスモチンがこの鍵穴にピッタリと結びつくことができるといわれているからです。オスモチンがアディポネクチンと同じ働きをするのかどうかは研究段階ですが、筋肉にある酵素、AMPキナーゼを活性化することは解明されており、糖や脂肪の代謝をアップさせてくれます。今後、オスモチンのさらなる作用が明らかになれば、もっと注目されることは間違いありません。
その理由の一つは、日本人は遺伝的にアディポネクチンの分泌が少ない人が存在しているからです。太っていないのにアディポネクチンの少ない人が、30~40%程度いるといわれています。そのため、アディポネクチンだけに期待するのではなく、オスモチンが代わりになってくれれば理想的だからです。

オスモチンは植物に含まれているたんぱく質で、フィトケミカルの一種です。とくにリンゴやキウイフルーツ、サクランボ、ブドウなどの果実やピーマン、唐辛子などに含まれています。アディポネクチンが動物由来なのに対して、オスモチンは植物由来の成分なのです。
ただし、果実類は食べ過ぎると内臓脂肪を蓄積させる原因になることもあります。内臓脂肪が増えるとアディポネクチンの分泌を減らすことになる危険性もありますので、バランスのとれた食事が重要です。

アディポネクチンを増やすためにはどうすればいい?

アディポネクチンの分泌を高めるためには、毎日の食事が重要です。
大豆たんぱくに含まれる「βコングリシニン」は、アディポネクチンを増やすといわれています。木綿豆腐には6.6g、絹ごし豆腐には4.9gのたんぱく質が含まれています(食品100g中。以下同様)。
豆腐を凍らせて乾燥させた高野豆腐は、栄養分が豊富だとよく報道されたりします。例えば「高野豆腐は木綿豆腐の約7倍のたんぱく質を含んでいます」といった記事などをご覧になったこともあるでしょう。実際、高野豆腐には50.5gのたんぱく質が含まれていますが、それは乾燥品100gあたりの数値のこと。市販品の多くは1切れ約16gなので、6切れ以上食べないと100gになりません。それに比べて、約80%の水分が含まれた高野豆腐の水煮に含まれるたんぱく質は10.7g。実際に食べるときにはだし汁でもどすわけですから、水煮の数値を参考にしたほうがよさそうです。 もちろん納豆や豆味噌、湯葉など、ほかの大豆製品もたんぱく質が豊富ですので、積極的に食べるようにしましょう。

青背魚に含まれるEPAもアディポネクチンを増やすといわれています。青背魚とは、アジやイワシ、サバ、サンマなど、私たちにとって身近な食材です。ただし、EPAは脂肪ですので熱を加えると溶け出てしまいます。刺し身やカルパッチョなど生で食べる工夫をするほか、煮魚の場合は煮汁もいっしょに摂るといいでしょう。ただし、薄味に仕上げるなど塩分の過剰摂取には注意が必要です。EPAを摂取したい場合、青背魚の揚げ物はお勧めできません。揚げ油に溶けたEPAは取り戻すことができないからです。ほかに魚介類では、サケやエビ、カニなどに含まれている赤い色素成分「アスタキサンチン」もアディポネクチンの働きを助けるといわれています。「青背魚ばかりでは飽きる」という人は、こういった食材も試してみましょう。

アルコールも適量であれば、アディポネクチンを増やすといわれています。ただし、1日の適量というのはビールで中瓶1本、25度の焼酎で0.7合、ワインでグラス2杯……。酒飲みにとってはなかなか厳しい制限です。しかしアルコールを飲み過ぎてしまうと中性脂肪を増やし、アディポネクチンの分泌を阻害することになってしまいます。「お酒を飲み過ぎることがよくある」という人は、アルコールでアディポネクチンを増やすことはあきらめたほうが得策です。

カルシウムとともに骨や歯を形成するのに欠かせないマグネシウムも、アディポネクチンの分泌を助けるといわれています。塩化マグネシウムを主成分とした「にがり」を使って作られた豆腐には、当然マグネシウムが含まれています。また、豆味噌や油揚げ、納豆といった大豆製品、あおさやわかめ、てんぐさといった海藻類、さらにはゴマやアーモンド、カシューナッツといった木の実類にもマグネシウムが多く含まれていますので、これらの食材を意識して摂取するといいでしょう。
最近注目されているスーパーフードのなかでも、中南米原産の穀類「アマランサス」は特に多くのマグネシウムを含んでいます。マグネシウムだけでなく食物繊維やカルシウム、鉄分も多く含まれていますので、お米を炊くときに少量加えたり、ゆでてからサラダにトッピングするなど、摂り過ぎに気をつけながら毎日の食事に加えるのも一つの方法です。

もちろん食事だけでなく運動も重要です。
内臓脂肪が増えるとアディポネクチンの分泌が減ってしまいますから、内臓脂肪を増やさないためにも有酸素運動は欠かせません。速歩きを加えたウォーキングは、無理なく続けられる点でお勧めです。ラジオ体操、アウトドアアクティビティ、サイクリングといった運動でも構いませんが、いずれにしても継続して行うことがポイントです。
皮下脂肪に比べて、内臓脂肪のほうが落としやすいといわれています。ダイエットを行うと、まず余分な内臓脂肪を減量できるのです。無理なダイエットでなく、バランスのとれた食事と適度な有酸素運動を組み合わせれば、内臓脂肪を落とすことが可能です。そのためには、毎日欠かさず体組成計に乗って体重を測ることも、継続の大きなモチベーションになります。食事だけでなく運動を取り入れて、アディポネクチンを増やす生活を心がけてみましょう。

※ 日本食品標準成分表2015年版(七訂):文部科学省より

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