vol.165 実は危険な口呼吸

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哺乳類である人間は、鼻で呼吸を行うのが本来の姿です。そのため、口で呼吸すると、くちびるがカサカサになったり口の中が乾燥したり、感染症のリスクが高くなったりするなど、さまざまな弊害があると指摘されています。それはどうしてでしょうか。口呼吸と鼻呼吸の違いを含め、お伝えします。

vol.165 実は危険な口呼吸

鼻は加湿器、空気清浄器、エアコンの3つの役割を持つ

くちびるがカサカサになる原因の一つが、口呼吸にあるといわれています。その理由は乾燥です。
鼻水は1日に約1ℓも分泌されています。そのうち約7割は、鼻を通る空気を加湿するのに利用されます。鼻水が取り込んだ空気に湿り気を与えることで、体内に入る空気の湿度は90%以上に高められます。しかし口呼吸では、これほど湿度を上げることができません。鼻呼吸の場合より口呼吸のほうが口腔内を乾燥させてしまい、その影響でくちびるもカサカサになってしまうという専門家もいます。くちびるが荒れて気になる人は、口呼吸になってしまっていないかを、確認してみましょう。
もちろん、ほかの原因でくちびるが乾燥してしまうこともあります。リップクリームの塗り過ぎが原因とする専門家もいます。また、リップクリームを横に塗ることで、かえってくちびるの状態を悪化させていると指摘する人もいます。これらの場合、リップクリームを塗るのは1日数回までに抑え、塗るときは縦に動かせば、くちびるのシワにクリームを塗布できるため、トラブルを解消できるケースが多いといいます。

鼻は、空気をきれいにする働きも持っています。
まず、ホコリなどが体内に侵入するのを防ぐのが鼻毛です。そして鼻粘膜に生えている微細な線毛と粘液層が、細菌やウイルスなどを捕獲します。つまり、鼻から入った空気はこれら異物の多くが除去され、いわば空気清浄器から放出された空気のような状態になっているのです。
また、粘液には抗体があるため、細菌やウイルスが粘膜の細胞に付着したり侵入するのを防ぎます。風邪やインフルエンザは、病原体が細胞内や粘膜で増殖することで発症しますので、鼻から入った空気は、口から入る空気より、感染症にかかるリスクが少なくなるのです。

また、鼻から呼吸することで、空気が温められます。その温度は35~37度にもなります。口呼吸ではここまで温められることがなく、冷たいまま肺に届けられてしまいます。すると、肺の免疫力が低下するリスクにつながったり、肺にかかる負担が大きくなってしまいます。
このように、鼻は加湿器、空気清浄器、エアコンの3台を合わせた機能を持っています。だから、健康のためには鼻呼吸が重要なのです。

口呼吸には感染症の危険も

口呼吸では、鼻呼吸ほど異物を取り除けないほか、温度や湿度も高められません。喉の奥にはリンパ組織があり、通常であれば免疫がはたらくのですが、鼻で排除されるべき異物まで喉に入ってくると、除去しきれなくなってしまう場合があります。すると気道が細菌やウイルスに感染する危険性が高まり、風邪やインフルエンザにかかりやすくなってしまいます。
また、てのひらや足の裏にアトピーのような湿疹ができるのも、口呼吸が原因の一つだという専門家がいます。口呼吸で扁桃が炎症を起こしやすくなるため、免疫が低下するからというのです。さらには口呼吸の場合、歯肉炎などを起こしたり、虫歯になりやすくなるといったことも指摘されています。これは口の中の乾燥が影響するからです。
ほかにも花粉症や喘息などさまざまな病気を、鼻呼吸に戻すことで治そうという試みも行われています。

鼻がつまっていないのに口呼吸になっている場合は、鼻呼吸に戻すように意識すればいいのですが、鼻がつまってしまっている場合はどうしたらいいのでしょうか。
慢性的に鼻がつまっているのでなければ、鼻を温めることで解消できることもあります。お風呂の温度より少し高いぐらいのお湯にタオルを浸し、絞ってから鼻に当ててみましょう。
また、脇の下を刺激するという方法もあります。鼻がつまるのは、鼻の中の粘膜が炎症を起こしてうっ血している場合が多く、交感神経を刺激して血管を収縮させ、うっ血を解消するというものです。握りこぶしを反対側の脇の下に挟む、500mlのペットボトルを挟む、などいくつかの方法がありますが、どちらの場合もつまっている鼻と反対側の脇の下に挟むことがポイントです。交感神経は、右の鼻は左の脇の下、左の鼻は右の脇の下、というようにクロスしてつながっているためです。
ただ、脇の下には太い血管が通っています。脇の下に握りこぶしやペットボトルをはさむ場合には、血流をあまり遮断しないよう、10~20秒程度にとどめるほうがいいという専門家もいますので、心得ておきましょう。
横向きで寝ているときに、上側になっている鼻のつまりが解消されることがあります。これも、右肩を下にして寝ていると、右脇の下が刺激され、左の鼻のつまりが解消されるからだといわれています。

しかし、慢性的に鼻づまりを起こしている場合は、ポリープのようなものができていたり、副鼻腔炎などほかの病気が原因であることも考えられます。その場合には根本を治療する必要がありますので、専門医を受診しましょう。

子どもの口呼吸のリスク

子どものころから口呼吸が当たり前になってしまっていると、さまざまな心配ごとが出てきます。
起きているときに口呼吸が癖になっていると、睡眠中にも口呼吸をしがちになります。空気が乾燥する冬の時期には、睡眠中の口呼吸によって咽頭内が乾燥し、朝起きてからのどの痛みを訴える子どもが増え、病院を受診することが多いといいます。こういった症状の場合は、普段の呼吸を鼻呼吸に戻すだけで、再び通院する必要のないケースもあるようです。普段行っている呼吸が、口呼吸と鼻呼吸のどちらがいいか、明らかでしょう。

口呼吸の場合、歯列や咬合が正常でなくなることがあります。口呼吸で口を開けている時間が長くなるために、口輪筋による前歯の舌側への作用が弱くなり、歯がくちびる側へ傾斜するようになります。これは乳歯だけでなく、永久歯でも起こります※1。
また、口呼吸をしていると咀嚼機能が低下します。そのため嚥下障害や消化障害も引き起こしかねません。また、咀嚼しているときにくちびるが開いているため、音を立てて食事をするというマナー上の問題もあります※2。給食中にクチャクチャ音を立てて食べていると、同級生からの視線がどんなものか、親でなくても心配になってしまいます。

口呼吸が当たり前になってしまうと、常にくちびるが開き気味になってしまいます。すると、周囲の人から集中力が欠けているように見られたり、やる気がなさそうな印象を持たれてしまうという危険性もあります。
子どものころから口呼吸が習慣化してしまうと、必要性のない病院通いをしなければならない場合があります。また、学校生活にも悪影響を与えます。さまざまな弊害から子どもを守るため、いち早く鼻呼吸の習慣を取り戻させてあげましょう。

※1 「口呼吸が及ぼす口腔への影響」佐藤秀夫 DH style 2015年9月号より

※2 「口呼吸と鼻呼吸の問題」 酒井あや 鈴木雅明 睡眠医療 8 : 319-323, 2014より

口呼吸と花粉症や睡眠時無呼吸症候群との関係

最近では花粉症の低年齢化が指摘されており、子どものころから花粉症にかかってしまう人口が増えています。
子どもに花粉症が増えている原因は明らかにされていませんが、

  • 花粉の飛散量が増えている。
  • 食生活の変化で高カロリー、高たんぱくの食事が増えた。
  • 乳酸菌飲料などの摂取が減った。
  • 子どもの免疫力自体が低下している。
  • 除菌剤などの使い過ぎで清潔にし過ぎている。
  • ほかの動物と触れ合う機会が少ない。
  • 共働き世帯の増加などで室内の掃除の頻度が減っている。

などが原因ではないかと考えられています。

花粉症の時期は、鼻水や鼻づまりの影響で口呼吸になってしまう要素が増えてしまいます。前にも述べたように、口呼吸で吸い込んだ空気は扁桃を刺激してしまいます。子どものころは、扁桃腺が口から入った異物に対して防御反応を行う免疫の役割を担っています。そのため、花粉も異物と認識されて扁桃腺が炎症を起こしてしまう場合があります。つまり、口呼吸だと花粉症の症状が増えてしまうリスクもあるわけです。

花粉症に限らず鼻がつまっている場合には、根本となる病気を治療しないと簡単に鼻呼吸には戻せません。そういう場合に口呼吸の弊害をやわらげるため、マスクの着用をお勧めします。
もちろんマスクは、くしゃみの飛散を防いだり、くちびるが開き気味になっている表情を隠すためだけではありません。鼻には「空気清浄器」「加湿器」「エアコン」の3つの役割があると冒頭で述べましたが、マスクによってそれらを多少なりとも補うことができます。
マスクはある程度、異物の侵入を防ぎます。花粉症用のマスクより、「ウイルス対策用」のマスクのほうが、病原体の侵入を防ぐ効果が高いと考えられます。また、自分の呼気でマスク内の湿度が上がるため、直接空気を吸うより湿度が高くなります。夜寝ている間にマスクをするだけで、のどの痛みが軽減したという例もあります。当然マスクをしている方が空気を温めることができます。
もちろん鼻呼吸に戻す方を優先すべきですが、すぐにできない場合にはマスクを活用しましょう。

睡眠時無呼吸症候群に口呼吸が関係する場合もあります。口呼吸の場合、鼻呼吸に比べて鼻から喉頭までの上気道が閉塞しやすくなるとされています。また、口呼吸ではいびきをかきやすくなります。そのため、口呼吸のほうが睡眠時無呼吸症候群になるリスクが高くなってしまうのです。
睡眠時無呼吸症候群の原因は、肥満などほかの要素が大きいのはもちろんですが、普段から鼻呼吸を心がけるほうが、リスクを減らすことができる可能性があるのです。
これらのように、口呼吸にメリットはありません。普段から鼻呼吸をしているかどうか、確認してみましょう。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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