vol.158 健康保険で受けられる!「リンパ浮腫」の複合的治療

健康・医療トピックス

水分の摂り過ぎや冷房による冷えなどによって、夏はむくみやすい季節です。むくみには、一時的に生じるものと内臓の機能低下によるもの以外に、「リンパ浮腫」という疾患があることをご存知でしょうか。
リンパ浮腫は、血管とは別に全身に張り巡らされたリンパ管が圧迫されたり、狭くなったり、閉塞したりすることによって、中を通るリンパ液の流れが阻害されて生じます。その多くはがんの術後に後遺症として発生します。腕や脚に起こりやすく、左右差があるむくみが特徴です。がんの治療で手術や放射線治療を受けたことがある人は、気をつけてほしいむくみです。

vol.158 健康保険で受けられる!「リンパ浮腫」の複合的治療

リンパ浮腫の治療ができる専門家が増加中

リンパ浮腫は「どこで治療したらよいのかわからない」というのが患者に多い悩みですが、治療の環境は一歩前進しています。2016年度の診療報酬改定でリンパ浮腫に対する保険適用の範囲が拡大し、複合的治療が健康保険で受けられるようになりました。これに伴って、治療を行う医療者が増え始めています。
リンパ浮腫の診療や研究をしてきた5つの学会(日本脈管学会、日本血管外科学会、日本リンパ学会、日本静脈学会、日本フットケア学会)では、2012年にリンパ浮腫療法士認定機構を設立し、すでに専門の知識や技術のある800人以上が活躍しています。リンパ浮腫療法士に認定されているのは、国家資格を持ち、さらに一定の研修を受けて試験に合格した医師、看護師、理学療法士、作業療法士、あん摩マッサージ指圧師などです。資格制度を創設した経緯について、同機構の理事長で山王メディカルセンター血管外科統括部長の重松 宏さんは、「リンパ浮腫は、乳がん、婦人科のがん、前立腺がん、大腸がんの手術後に発生し、年間1万人の患者が生まれています。しかし、がん治療後の慢性疾患は対象外というがん診療連携拠点病院が多く、リンパ浮腫を発症すると患者は行き場がなくなっていました。巷でもリンパマッサージという言葉はよく使われ、医学的ではないものも多い。リンパ浮腫に対して医学的に正しい知識や技術をもった医療者がいて、治療できることを明らかにする必要がありました」と話します。

リンパ浮腫の複合的治療とは

今回の改定で保険適用になった複合的治療とは、弾性着衣や包帯による圧迫、圧迫した状態での運動、皮膚をやさしくさすってリンパ液の流れを助けるリンパドレナージ、スキンケア、セルフケアを組み合わせた治療です。リンパ浮腫を早めに改善して悪化させないことを目的としています。
リンパ浮腫の最新の治療では、リンパ管を静脈につないで静脈からリンパ液を流す外科治療も行われています。ただし、高度な外科治療は医療機関が限られ、その効果は一定ではないといいます。「手術をしてもそれで完治とはなりません。また、ほとんどの患者さんは手術の対象にはならないので、リンパ浮腫において複合的治療は非常に重要です」と重松さんは強調します。

小さな傷から始まる感染に注意

がんの手術については、リンパ節の切除範囲の縮小など患者にとって負担の少ない術式が行われるようになってきました。それでもリンパ浮腫は、なかなか防ぐことができない後遺症といわれています。術後、早期になる人もいますが、10年後、さらにもっと経過してから発症することもあります。現在発症していなくても、長期的に注意しましょう。
リンパ浮腫を悪化させる大きな原因は、感染です。皮膚から体内に細菌が侵入すると、リンパ管に取り込まれて炎症を起こします。すると微細なリンパ管が線維化してつぶれ、リンパ液が溜まりやすくなります。このような感染を繰り返すと憎悪して悪循環になるため、注意が必要です。「指先のささくれやひび割れ、足の水虫など、手足のちょっとした傷から感染は起こります。つまずいたり、ぶつけたりして皮膚を傷つけるケガにも注意です」(重松さん)。

スキンケアで感染を予防しよう

そして、感染を防ぐためにはスキンケアがとても重要です。夏は食欲不振や不眠などで抵抗力が落ちやすく、水虫など皮膚の感染症にかかりやすい時期です。虫さされも注意です。汗をかいたらシャワーや入浴をして皮膚を清潔に保ち、保湿をして乾燥を防ぎましょう。日頃のスキンケアがリンパ浮腫の予防につながります。また、腕や脚の患肢が赤くなり、熱っぽいときは感染の兆候です。放っておかないで早めに治療を受けてください。
リンパ浮腫は、適切な治療にたどりつくまで数年かかる人もいます。医療機関がわからないときは、血管外科やリンパ浮腫の外来に相談するか、リンパ浮腫療法士認定機構のホームページを見て検索するとよいでしょう。

監修 山王メディカルセンター 血管外科統括部長
国際医療福祉大学臨床医学研究センター 教授
一般社団法人 リンパ浮腫療法士認定機構 理事長  重松 宏先生

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

関連コラム

商品を見る