vol.126 ガイドラインの登場で大きく前進する「がんのリハビリ」

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Vol.126 ガイドラインの登場で大きく前進する「がんのリハビリ」 体力の低下、倦怠感、むくみ、しびれ、麻痺、疼痛……。がん患者の多くは、体になんらかの問題を抱えているといわれています。がんの治療は、手術や放射線、化学療法が代表的な治療法。これまで日本では、がん治療は治すことに主軸が置かれ、がんや治療によって患者の体に生じるさまざまな障害や後遺症には、ほとんど目が向けられてきませんでした。しかし、がんの早期発見や治療の進歩によって死亡する人は減少傾向にあり、治癒する人や、治療を受けながら仕事を続けたり、家庭でふつうに生活を送ったりする人が増えています。2015年には、がんとともに生きる患者は、500万人を超えると予測されています。がんになっても、「がんとともに生きる」時代になっているというわけです。

欧米では、がん医療におけるリハビリテーション(以下、リハビリ)の取り組みは1970年代頃から開始されてきました。日本では、これまで置き去りになっていたがん患者の生活の質にようやく注目が集まりつつあります。2013年4月には、日本で初めて科学的な根拠に基づいた「がんのリハビリテーションガイドライン」(※)が発行されました。がんのリハビリに関する診療指針が示されたことで、治療から生活の質の向上まで支援する体制ができ上がり、日本のがん医療は大きく前進し始めています。

「予防」も視野に入れ、早期から開始するがんのリハビリ

がんのリハビリは、がんや治療によって生じる障害などを改善することを目的にしています。がんの治療過程や進行状況によって、リハビリは4つの段階に分けられています(表参照)。
脳卒中などを発症した際のリハビリは、治療後に体の機能を回復させるために行いますが、がんのリハビリでは、「予防的」という段階があります。これは診断後、早期から介入し、治療後に起こりうる合併症や後遺症を予防しようというものです。がんのリハビリだけの大きな特徴といえます。
「治療を受けたら、体はいったいどうなるのか」。がん患者は、治療を受ける際にこのような強い不安を感じています。治療の前にリハビリの必要性や内容、計画を説明することで治療後の不安が減り、回復にむけた意欲も高まります。肺がんや食道がん、胃がんなどで開胸や開腹の手術を予定されている場合には、手術前に痰を出しやすくするリハビリや腹式呼吸の練習が行われます。治療前からリハビリをすることで合併症や後遺症を予防することができます。

表 がんのリハビリテーションの分類

リハビリテーションの分類 開始時期(実施時期)と目的
予防的 リハビリテーション がんと診断後、手術や治療前からリハビリを開始。後遺症や合併症を予防するのが目的。
回復的 リハビリテーション 治療後、機能障害などが起きた患者に対してリハビリで機能回復を図る。
維持的 リハビリテーション 再発や転移がある場合。リハビリで運動能力を維持し、筋力低下による廃用症候群を防ぐ。
緩和的 リハビリテーション がんの末期。患者の希望や要望を尊重しながら症状を緩和、生活の質が保たれるように援助する。

がん治療中は、安静より適度な運動が有効

抗がん剤や放射線による治療を受けている時には、リハビリはどうしたらよいのでしょう。治療中は、正常な細胞まで影響が及び副作用も強いからできるだけ安静に過ごした方がいいと考える人が多いのではないでしょうか。答えは、「適度に運動した方がいい」です。がんだから、治療中だからといって体を動かさなかったり、寝たきりで過ごしたりすると、ふらついて立てないなど日常生活に支障をきたす「廃(はい)用(よう)症候群」を引き起こします。それによって体力や筋力が低下すると、がんの治療も続けられなくなります。リハビリで体力や筋力の低下を防ぎ、体の機能を維持することは悪循環を断ち切り、よりよく長く生きるために重要なのです。また、体力の低下が防げるだけでなく、全身の倦怠感が軽減するという報告もたくさんあります。
「がんのリハビリテーションガイドライン」でも、このような患者に対して、治療中からの運動療法が勧められています。とくに白血病や悪性リンパ腫など血液のがんでは、造血幹細胞移植をした患者はベッドの上で安静に過ごすことが多く、体力や筋力が低下して廃用症候群になりやすいため、やはりリハビリは重要です。

がん診療連携拠点病院の相談窓口で聞いてみよう

がんのリハビリは、対象となるがん患者をリハビリ科の医師が診察し、治療計画を立て、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などのセラピストが関わって行われます。在宅で家族ががん患者のケアをしている場合は、日常生活での介助のしかたやマッサージ、ストレッチ、骨に転移して痛みがあるときは、痛みがでない動作や安全に起き上がる方法を、がんの末期で飲み込む力が弱くなり、むせやすいときは誤嚥を防ぐ姿勢などについて、家族が指導を受けられます。
現在、全国のがん診療連携拠点病院の約6割の医師や看護師、セラピストが「がんのリハビリの研修」を受け、がんのリハビリを実施する医療機関が増えつつあります。しかし、医師の認識不足などからリハビリを受けていない患者もまだ多くいるとみられています。乳がんや婦人科系のがんでは、手術後に腕や脚にリンパ浮腫が起こりやすく、むくみの兆候が現れたら早めの対処が肝心です。日常生活で困っている障害や後遺症があったり、適切な運動指導を受けたいときは、がん診療連携拠点病院の相談窓口でリハビリについて聞いてみましょう。

※公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
 がんのリハビリテーションガイドライン策定委員会 編 金原出版 発行

監修
慶應義塾大学医学部
リハビリテーション医学教室 准教授
腫瘍センターリハビリテーション部門 部門長 辻 哲也 先生

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