vol.1 食道がんにも結びつく胸やけ

健康・医療トピックス
油物を食べたり、食べすぎたりしたときに起きる、みぞおちから喉にかけての焼けつくような不快症状、胸やけ。一過性と思われているので、普段私たちはあまり気にとめません。しかし、これが長びいたり、回数が増えると、食道粘膜に炎症や潰瘍を起こす逆流性食道炎に――。さらに続くと、何と手術が難しい食道がんにも結びつくのです。
最近、胸やけを主症状とする逆流性食道炎で受診する人が増え、注目されています。発生頻度は、30年前は上部消化管内視鏡検査を受けた人の約5%程度だったのが、今では約30%弱に伸びています。その原因として「食事や食べ方の変化」「肥満者の増加」「高齢化時代」「ヘリコバクター・ピロリの除菌が進んだ」といった4点が挙げられ、とりわけ、4番目が注目されています。
日本人の50歳以上の人でみると、胃潰瘍の原因のひとつであるピロリ菌感染者が80%を超えています。その除菌に対して保険が適用されたことで、除菌者が増え、綺麗な胃粘膜がもどってきたのです。それが、胸やけを起こしやすくしました。
この逆流性食道炎の頻度が増えると、食道炎のみならず、潰瘍に進行。炎症や潰瘍を繰り返していると、その部分がバレット上皮といわれる異常粘膜に変化し、食道がんの発生率はバレット上皮のない人に比べて40倍も高くなってしまいます。
また、逆流した胃液を呼吸時に気管支に吸い込み、喘息の原因になっているという報告も、ごく最近、アメリカで行われました。何と喘息の60%に胃液が関係していたといいます。
さて、胸やけを週に3回以上起こすようなら、消化器科での治療と生活改善が必要。治療には胃酸分泌を抑える「H2ブロッカー」や「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」が使われます。

生活改善としては、以下の事項に気をつけましょう。

  • 過食はさけ、酒やタバコも控え目に
  • 脂肪のほか、自分自身が胸やけを起しやすい食材を知って上手に対応する
  • 肥満や便秘を解消する
  • ベルトやコルセットは強くしめない
  • 前かがみの姿勢を長く続けない

食生活、姿勢、腹圧の3点がこの生活改善のポイントです。 これでも改善しないでQOL(生活の質)が悪いようであれば、手術も行われます。 “たかが胸やけ、されど胸やけ”・・・食道がんのリスクも考え、早期に対応しましょう。

vol.1 食道がんにも結びつく胸やけ

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執筆者プロフィール

松井 宏夫

松井 宏夫

医学ジャーナリスト
略歴
1951年生まれ。
医療最前線の社会的問題に取り組み、高い評価を受けている。
名医本のパイオニアであるとともに、分かりやすい医療解説でも定評がある。
テレビは出演すると共に、『最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学』(テレビ朝日)に協力、『ブロードキャスター』(TBS)医療企画担当・出演、『これが世界のスーパードクター』(TBS)監修など。
ラジオは『笑顔でおは天!!』のコーナー『松井宏夫の健康百科』(文化放送)に出演のほか、新聞、週刊誌など幅広く活躍し、NPO日本医学ジャーナリスト協会副理事長を務めている。
主な著書は『全国名医・病院徹底ガイド』『この病気にこの名医PART1・2・3』『ガンにならない人の法則』(主婦と生活社)、『高くても受けたい最新の検査ガイド-最先端の検査ができる病院・クリニック47』(楽書ブックス)など著書は35冊を超える。

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