vol.139 治る認知症「慢性硬膜下血腫」の最新治療

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Vol.139 治る認知症「慢性硬膜下血腫」の最新治療

認知症の中に、治る認知症があることをご存じですか。その代表的な病気として注目されているのが「慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)」です。これは、脳を覆っている硬い膜と脳の間に血液が溜まってしまう病気で、転倒などで頭を打った後、2~3か月後に起こります。血腫によって脳が圧迫されて物忘れや歩行障害、トイレの失敗(尿失禁)など、認知症とよく似た症状が現れるのが特徴です。認知症の症状がある80~90歳代にも慢性硬膜下血腫が多く見られるといわれています。高齢だから認知症とすぐに決めつけず、転倒やなにかに頭をぶつけたことがあったら脳神経外科で診察を受けてみましょう。慢性硬膜下血腫であれば、脳に溜まった血腫を除去すれば脳は正常な状態に戻ります。

手術しないで治る「慢性硬膜下血腫」がある

慢性硬膜下血腫の治療法は、手術が一般的で2つの方法があります。1つは頭蓋骨に親指ほどの穴をあけ、血腫に細い管を挿入して血腫を除去する「ドレナージ術」。命にかかわる緊急時は、頭蓋骨を大きく開いて血腫を摘出する「開頭術」が選択されます。ただし、血腫の量が少なく、緊急性がない場合は、手術をしないで経過観察ということもあります。脳神経外科では、最近、このようなケースに漢方薬が用いられています。手術をしないで治る例があるのでご紹介しましょう。
Aさんは92歳の女性。物忘れや歩行障害、トイレの失敗が多くなり、何度も同じことを聞いたり、夜間の家族への電話の回数が非常に多くなったりして、対応に疲れ果てた家族が認知症を疑って受診しました。トイレに行くたび転倒し、頭に瘤をつくっているという家族の話からAさんの脳を検査したところ、慢性硬膜下血腫であることがわかりました。治療法の選択は、高齢で手術を受けるには身体的なリスクもあることから、漢方薬の「五苓散(ごれいさん)」を朝昼晩の1日3回服用してもらい、経過を診ることにしたところ、2か月後に脳を覆っている硬い膜と脳の間に溜まっていた血腫が消失。手術をしないで回復したとのことです。
脳神経外科と認知症の専門医で、Aさんを診療した、くどうちあき脳神経外科クリニックの工藤千秋院長は、「高齢者では、肝臓や腎臓が悪くて麻酔に耐えられないなどで手術が受けられないことがあります。このような場合は、漢方薬を服用しながら経過を観察する方がいいことがわかっています」と話します。

バランスを崩した水の流れを改善する「五苓散」

では、脳の中に溜まった血腫(血液)が、どうして消失したのでしょうか。五苓散が効く仕組みも明らかになっています。
体内の水は細胞の内と外を出たり入ったりしていますが、細胞の浸透圧が乱れると水の流れが変化し、一方的に流れるルートができます。これが脳で起きると脳浮腫になります。細胞の内外の水の透過性は、アクアポリン(AQP)というたんぱく質が調整しています。AQPは13種類あり、臓器によってその種類の分布が異なり、脳のケガや病気になるとアクアポリン4(AQP4)が増えることが動物実験からわかっています。工藤院長は、「五苓散には、体の中に溜まった水を排出する作用があります。AQP4に対して強い阻害作用を示すのはマンガンです。五苓散に含まれる蒼朮(そうじゅつ)という生薬にはマンガンが非常に多く、AQP4の働きを阻害して水の流れを改善します」と説明します。

脳の三大病に共通する「水の異常」

手術を得意とする脳神経外科で漢方薬というと意外な取り合わせのようですが、工藤院長によると、脳神経外科で治療する病気と漢方の基本概念である「気血水」には、深い関わりがあります。それが「脳浮腫」。漢方では浮腫を水の異常と診ます。たとえば、慢性硬膜下血腫は、頭蓋骨に余分な血液が溜まってしまいます。脳梗塞では血管が詰まって血液が流れなくなるため、周囲の脳がダメージを受けて脳浮腫を起こします。また脳腫瘍は、腫瘍が正常な脳を圧迫することで脳浮腫が起きます。「これらの脳の病気はまったく違う病気ですが、すべてに脳浮腫が起こるという共通点があります。漢方薬は西洋薬より副作用が少ないことから、脳神経外科で治療に用いられるようになりました。慢性硬膜下血腫は治る認知症の代表といえます。手術以外に漢方薬で治すことができるのが特長です」(工藤院長)。

リハビリにも用いられる漢方薬

脳の病気で退院後は、自宅でリハビリを開始することになりますが、病院で寝ている時間が長かった人は、おなかがパンパンに張っていると工藤院長。「リハビリをやりましょうといっても力が出ない。そんな患者さんのおなかを触ってみると、お通じが溜まっています。そこで、リハビリの前に宿便を取り除く大切さも理解されはじめています。宿便の解消には、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、通導散(つうどうさん)が非常にいいです」。おなかがすっきりすると食事がおいしく食べられ、元気になってリハビリに取り組めます。リハビリのよい循環をつくるためにも、漢方薬は役に立つのです。

監修 くどうちあき脳神経外科クリニック 院長 工藤 千秋先生

  • このコラムは、掲載日現在の内容となります。
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