vol.152 体内時計に影響する「ブルーライト」

健康・医療トピックス

先進国の中で睡眠時間が最も少ないのは、日本人といわれています。IT機器の普及によっていつでも、どこでも情報にアクセスできるようになり、人とのコミュニケーションもバーチャルになっているようです。日常生活が便利になるほど起きている時間が長くなり、睡眠時間が短くなってしまうという方も多いのではないでしょうか。
スマートフォンやLED照明には、「ブルーライト」という青色光が入っています。ブルーライトは目に見える光の中で最も波長が短く、エネルギーが強いといわれています。拡散して目が疲れやすいため、眼科医が注目し、眼精疲労や網膜の黄斑変性の可能性などを指摘していましたが、最近は体内時計への影響が注目されています。ブルーライトと睡眠について研究している杏林大学医学部 精神神経科学教室の古賀良彦教授は、「空が青いのは、まさにブルーライトが散乱して見えるからですが、スマートフォンの普及によって夜にブルーライトを浴びる機会が増えてきました。そのために眠れない人が増えています」と話します。

vol.152 体内時計に影響する「ブルーライト」

ブルーライトが睡眠のリズムを乱す

ブルーライトは、睡眠にどのくらい影響するのでしょうか。古賀教授が20代の女性を対象に、ブルーライトを約50%カットするメガネをかけた場合と素通しのメガネをかけた場合で、平日の就寝1時間前にスマートフォンを見てもらって比較検証したところ、2日目と3日目までは差はなく、4日目以降になると素通しのメガネでは総睡眠時間が減り、目覚めないで寝ている最長睡眠時間も短くなりました。さらに、昼間の元気度を調べたところ、ブルーライトが素通しのメガネでは、午前中の活動度が低いことがわかりました。「寝る前にブルーライトが目に入ると途中で目が覚めて、長時間は寝られず、午前中も元気がない。つまり、体内時計の睡眠と覚醒のリズムが乱れるわけです」(古賀教授)。

※1 「ブルーライトと生体リズム」杏林大学医学部 精神神経科学教室 古賀良彦、ブルーライト研究会

ブルーライトを見ると、なぜ、眠れなくなるの?

ブルーライトを見ることで、なぜ、体内時計のリズムが乱れるのでしょうか。目からブルーライトが入るとガングリオンセルという視細胞が光を感知して、脳の視床下部にある視交叉上核に情報が伝わります。ここは体内時計の重要な中枢といわれています。ブルーライトの刺激は、さらにメラトニンというホルモンが作られる松果体に伝えられます。昼間、ブルーライトを浴びるとメラトニンの分泌が抑えられて活動が高まりますが、夜に浴びるとブルーライトを含む明るい光を昼と判断し、体内時計に作用して睡眠を促すメラトニンの分泌が抑制されて眠れなくなると考えられています。古賀教授は、「夜にスマートフォンを見ているのは、若い人たちが多いです。子どもたちがブルーライトの影響を知らずにIT機器にのめり込んでいくと体内時計のリズムが乱れて、朝、起きられなくなり、不登校に陥っていくことが一番心配です」と危惧します。
ブルーライトは、パソコンや電子書籍、LED照明などからも出ています。昼夜を問わず、屋外屋内のどこにいても、ブルーライトを浴びる生活環境になってきたともいえます。体内時計の睡眠と覚醒のリズムが乱れて、メラトニンの分泌が減ると肥満や生活習慣病、がんなどの発症に影響するという報告もあります。就寝前はできるだけブルーライトを見ないようにするなど、節度をもった使い方や工夫が必要になっています。

スマホ以外の楽しみを見つけよう

人生の3分の1は睡眠。だからこそ睡眠が大事です。とはいえ、仕事や通勤中、趣味や自宅でくつろぐときもスマートフォンが手放せないという人は、気持ちがゆったり落ち着くアナログの世界に楽しみを見つけてみませんか。「ストレスの対処には、レスト、リラクゼーション、レクリエーションの3つのRという言葉があります。いまは、楽しみであるレクリエーションにスマートフォンが用いられ、それが眠れないマイナスの要因になっています」と古賀教授。就寝前は、スマートフォン以外でストレスを解消してほしいとアドバイスします。
たとえば、アロマテラピーで香りを楽しむ。お気に入りの筆記用具で塗り絵をする。楽器を弾くこともよいそうです。「多忙で食事はコンビニのお弁当、家では寝るだけという人には、なにか一品は自分で料理をしてほしいと指導しています。何にしようかと考えるだけで仕事を忘れます。そういう時間があった方がいい。子どもたちにも、そういうアナログの楽しみがなにかあるはずです」。

監修 杏林大学医学部 精神神経科学教室教授 古賀良彦先生

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