vol.163 乳がんの「早期発見」と、がん「予防」対策

健康・医療トピックス

2016年12月9日、がん患者が安心して生活できる社会の構築を目標にした「改正がん対策基本法」が成立しました。「がん対策基本法」の成立から10年。治療後も生存する期間が長くなり、通院しながら仕事を続ける人が増えてきたことで、就労などが新たな課題になっていました。改正法では、がん患者の雇用継続に配慮を求めたほか、小児がんの患者が学業と治療を両立できる社会環境の整備や、早期発見が難しい難治性がんや希少がんの研究を促進することなどが盛り込まれました。

vol.163 乳がんの「早期発見」と、がん「予防」対策

女性のがんで最も多い、乳がん

がんは日本人の死因の第1位。日本人の3.5人に1人ががんで亡くなり、一生のうちに2人に1人は、がんと診断される時代になっています。国立がん研究センターのがんの罹患予測(2016年)によると、男性で最も多いのは、前立腺がんで9万2600人。女性は乳がんで9万人と予測されています。
がんは早期発見・早期治療ができれば、90%は治るといわれています。そのため、がん検診が推奨されていますが、乳がんの場合、国が推奨する検診は40歳以上の女性が対象で、若い世代は対象外です。有名人の病気公表などで、最近は20~30代の女性にも不安が広がっています。任意で検診を受けたいときは、どのようなことに留意したらよいのでしょうか。

若年者が検診を受けるときの注意点

腫瘍内科の草分けで、乳がんに詳しい三井病院乳腺センター(元 埼玉県立がんセンター病院長)の田部井 敏夫センター長は、「20~30代の女性は、乳腺が発達した高密度乳房が多いため、マンモグラフィーをしても見つかりにくく、検査をしてもあまり意味がありません。かえって放射線の影響を受けることになることがよくないということで、検査する場合は、超音波検査になります。若い世代を対象にした乳がんの検診システムは、まだ整っていません。医療機関によっては、40歳以上と同じ扱いでマンモグラフィーをすることがありますが、受けたから必ず見つかるわけではなく、必要でない場合もあります」。
一般的に乳がんの検診では、視触診とマンモグラフィーの検査が行われます。まずは異常があるかを調べ、疑わしいと「要精査」と判定され、その後、二次検診(精密検診)に進み、さらに詳しく調べるために超音波検査や、再度マンモグラフィーなどを受けて診断されます。ただし、乳腺密度の高い若い世代においては、マンモグラフィーは利益より不利益が上回る過剰診断のリスクが伴うわけです。
また、触診については、医師の診療経験によってかなり差があります。「しこりがはっきりしない乳がんを触診で見つけるのは、難しいです。きちんと技術を持った医師が触診するのはいいですが、検診は乳がんを専門としない医師もしていることがあります。受診する前に情報を集めて、乳がんを専門にしている医師がいる医療機関で検診を受けた方がいいでしょう」(田部井センター長)。

乳がんの自己触診のこつ

乳がんは、検診以外では自己発見率が高く、早期発見のためには「自己触診」も重要と田部井センター長は強調します。閉経前の人では、月経が終わって1週間後、閉経後は月1回程度とよくいわれますが、調べる時期についてこだわる必要はないということです。「入浴中に石けんをつけながら触ったり、就寝時に寝ころんだときでもいいです。自分の乳房にいつも触り慣れていれば、異常があったとき、すぐに気づきます。必ず反対の手指の腹を広く使って、やさしくなでるように触ってください。ぎゅっと押しつけないことが大事です」。乳房の中央から上の、脇の下に近いところは、乳がんの発見率が最も高い部位です。覚えておきましょう。

再発を予防する対策とは

ところで、がんの治療後、長く生きられるようになると、再発しないためにはどうしたらよいのか気になります。対策は、何かあるのでしょうか。田部井センター長は、「がんは生活習慣病です。再発予防も一次予防と同じように考えて、まずは健康でいること。それには、禁煙、節酒、食事(バランスがよく、塩分は少ない)、適度な運動、体形(適正な体重)の5つの生活習慣が大事です」とアドバイスします。
5つの生活習慣ががんのリスク低下にどのように関連しているか調べた研究(Sasazuki S,et al Prev Med.2012;54(2):112-116)では、実践した生活習慣改善の数が増えるほどがんになるリスクが下がり、5つ実践した男性では43%、女性は37%も低下することが明らかになっています。がんは予防の研究も蓄積されており、国立がん研究センターでは、この5つを「日本人のためのがん予防法」として提示しています。
再発予防を含めたがん予防は、決して特別なことではありません。身近な生活習慣を健康な習慣に切り替えて、できることから実践し、新たな年をスタートさせてみませんか。

監修 三井病院 乳腺センター長 田部井 敏夫先生
元 埼玉県立がんセンター 病院長

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