脳動脈瘤治療でコイル塞栓術(血管内治療)を選択できる時代に

脳卒中・脳梗塞 治療・リハビリ
突然死の最大原因のひとつとされているのが脳卒中の中の『くも膜下出血』。これは脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)の破裂によるものがほとんどで、その症状は何時何分に起き始めたと特定できるほどの激しい頭痛を伴います。 日本人の三大死因は、がん、虚血性心疾患に次いで脳卒中が年間死亡者数約13万人で、第3位。脳卒中の中では脳梗塞が増えて、脳内出血はグンと減少し、多少増加の傾向にあるのがくも膜下出血です。くも膜下出血であっても、適切な対応や適切な治療によって、今日では救命率が約70%まで上昇してきました。

そのくも膜下出血、そして破裂前に行う脳動脈瘤治療では出血の予防が極めて重要となり、予防治療の中心となっているのが『クリッピング法』です。これは開頭して破裂した、あるいは破裂が予測される脳動脈瘤の根元を、チタン製のクリップで留める方法です。ただし、クリッピング法では開頭するため、患者さんのからだへの負担は大きくなります。

そこで、ここへきてジワジワと注目を集めてきているのが『コイル塞栓術(血管内治療)』で、開頭手術を必要とせず、周辺の脳組織に影響を及ぼさずに治療が可能なため、患者さんへの負担が少ない治療法です。カテーテルといわれる細い管を血管に入れ、脳動脈瘤に白金製のコイルを丸めて詰めることで血液が流れ込まないようにして破裂を防ぎます。

日本では、くも膜下出血や脳動脈瘤の治療に対するクリッピング法とコイル塞栓術の比率は85%対15%。諸外国でみると、コイル塞栓術が米国では30%、ヨーロッパでは60%です。
ちなみに、欧米、オーストラリアの医療機関44施設で行った両治療法の1年後の死亡・重度障害率の調査結果が2002年10月に英国の医学誌『ランセット』に報告されました。それによると、死亡・重度障害率はクリッピング法の30.6%に対し、コイル塞栓術は23.7%とクリッピング法より少ない結果となっています。

日本でからだにやさしいコイル塞栓術がまだ普及しないのは「コイル塞栓術のできる医師が少ない」ということからです。今、日本脳神経血管内治療学会では、専門医の育成に力を入れています。日本でも技量のあるコイル塞栓術の専門医がより多く育ち、一日も早くどこの医療機関でも2つの療法を選択できるようになってほしいものです。
vol.19 脳動脈瘤治療でコイル塞栓術(血管内治療)を選択できる時代に

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執筆者プロフィール

松井 宏夫

松井 宏夫

医学ジャーナリスト
略歴
1951年生まれ。
医療最前線の社会的問題に取り組み、高い評価を受けている。
名医本のパイオニアであるとともに、分かりやすい医療解説でも定評がある。
テレビは出演すると共に、『最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学』(テレビ朝日)に協力、『ブロードキャスター』(TBS)医療企画担当・出演、『これが世界のスーパードクター』(TBS)監修など。
ラジオは『笑顔でおは天!!』のコーナー『松井宏夫の健康百科』(文化放送)に出演のほか、新聞、週刊誌など幅広く活躍し、NPO日本医学ジャーナリスト協会副理事長を務めている。
主な著書は『全国名医・病院徹底ガイド』『この病気にこの名医PART1・2・3』『ガンにならない人の法則』(主婦と生活社)、『高くても受けたい最新の検査ガイド-最先端の検査ができる病院・クリニック47』(楽書ブックス)など著書は35冊を超える。

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