vol.201 変形性膝関節症の新たな治療

健康・医療トピックス

変形性膝関節症は、一定以上の年代にはとてもありふれた疾患です。日本で変形性膝関節症による膝の痛みを抱えている患者さんは約1,000万人、レントゲンで異常が認められる推定有病者数を含めると、その数は約3,000万人に達します*1。また、年代別の有病率は、60歳以上の男性で45%、女性は70%だと言われています*2。患者さんの中には「年だから仕方ない」と改善を諦める方も少なくありません。現在では、「再生医療」と言って手術を受けずとも痛みを解決する新しい治療が実用化されています。そこで、今回は膝痛における新しい治療を紹介します。

vol.201 変形性膝関節症の新たな治療

変形性膝関節症で行われている新たな治療

近年、変形性膝関節症に対して新しい3つの治療が行われています。患者さん自身の脂肪幹細胞を使った治療法「幹細胞治療」、患者さんの血液から抽出した成分を使った治療法「PRP治療」という再生医療に加えて、再生医療ではありませんがPRP治療の技術を応用した「PRP-FD治療」です。いずれも手術・入院は不要で日帰り治療で受けられます。また、患者さんの自己組織を使うので、副作用の心配も少ないのが特徴です。ヒアルロン酸注射や服薬で改善が難しい痛みにも効果が期待できます。

1. 幹細胞治療

患者さん自身の皮下脂肪に含まれる「幹細胞」という細胞を抽出し、これを膝関節に注入する治療法です。幹細胞とは、将来様々な細胞に変化することができる「細胞の赤ちゃん」のようなもので、細胞の新陳代謝において重要な役割を担っています。この幹細胞が、損傷を受けた組織や、経年的に変形をきたした膝関節に刺激を与え、関節内の炎症を抑えるとともに、組織の修復・再生を促す効果が期待できます。


2. PRP治療(多血小板血漿治療)

血液中には血小板という成分があり、傷を修復する役割を担っています。PRP治療は、この血小板の作用を活かした治療法です。
血液から多血小板血漿(=PRP)という血小板を多く含む液体成分を抽出し、それを膝の患部に注射する治療法です。この治療では、血小板から分泌される成長因子という物質の働きを利用します。成長因子には、組織の修復を促す働きがあります。これによって組織の自己修復作用や抗炎症作用を高め、痛みの低減や患部の早期治癒を後押しする効果が期待できます。


3. PRP-FD治療(血小板由来因子濃縮物 - フリーズドライ治療)

PRP-FD治療は再生医療ではありませんが、再生医療のPRP治療を応用した治療法です。PRPに含まれる成長因子だけを取り出して濃縮し、活性化させたものを利用します。
PRP同様、まず血液を遠心分離し、血小板を濃縮させた液体を作成します。これに成長因子を活性化させる処置を施し、フリーズドライ(FD)加工したものがPRP-FDです。投与する際は、これを生理食塩水に溶かして使用します。フリーズドライ加工するので長期間保存できますが、血液の加工に3週間ほど時間がかかります。PRP治療同様、炎症の抑制とそれに伴う痛みの改善が期待できます。


再生医療はどんな人に向いている?注意点は?

再生医療は、一般的な保存療法(薬物療法やヒアルロン酸注射)を受けているものの、痛みの改善が得られないという方は検討してみても良いかもしれません。
効果については、人によって多少ばらつきがあることや、再生医療は自由診療なので、一般的な治療に比べて自己負担が高額となるため、専門の医師に相談してみましょう。治療前にはMRI検査を行い、専門の医師の見立てに基づいて効果が期待できるかどうかを事前に確認されることをお勧めします。

再生医療が向いている人

  • 一般的な保存療法(薬物療法やヒアルロン酸注射)で十分な効果が感じられない
  • 手術を勧められているが、できれば避けたいと思っている

再生医療の注意点

  • 効果には個人差がある
  • 自由診療なので高額
  • すでに人工関節の人は受けられない

ご相談は専門の医療機関へ

再生医療と聞くと「自費診療の高い治療」というイメージを持たれるかもしれませんが、費用対効果が見合う確かな治療を行う医療機関も多数存在します。日本では2014年以降に法整備も進み、多くの医療機関で治療に関する知見が得られています。再生医療に関心がある方は、再生医療を専門に扱う医療機関にご相談ください。

出典:

監修:
ひざ関節症クリニック
尾辻 正樹(横浜院 院長)

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