vol.28 糖尿病腎症を腎不全に進行させない方法

健康・医療トピックス
日本の糖尿病患者は740万人といわれています。痛くも痒くもないとあって放置している人が多くみられますが、糖尿病の本当の怖さは合併症にあります。3 大合併症としては網膜症、神経障害、腎症がありますが、今回取り上げる糖尿病腎症が進行すると、腎不全から人工透析を受けることになってしまいます。現在、透析を受けている患者は25万人を超え、大きな社会問題となっています。
人工透析は、QOL(生活の質)を低下させるので、いかにして腎不全に進まないように抑えることができるか――ここに糖尿病腎症の人のQOLをよくする"カギ"があるのです。
そのカギとなる光明が、アメリカの糖尿病腎症治療にみられ始めました。アメリカでは日本と違って糖尿病から腎症に移行する患者が減少し始めています。その現象に結びついたのが、「微量アルブミン尿の検査の一般化」だったのです。つまり、タンパクのひとつである「アルブミン」がごくごくわずか尿に出るときこそ、早期発見による腎症治療のターニングポイントだったのです。

糖尿病腎症は病気の進行度合いによってI期~V期に分けられています。

vol.28 糖尿病腎症を腎不全に進行させない方法

I期(腎症前期)

尿は正常。

II期(早期腎症)

微量アルブミン尿。

III期(顕性腎症)

タンパク尿が続く。

IV期(腎不全期)

タンパク尿が続き、血液検査でも腎機能異常が認められる。

V期(透析導入期)

さらに、III期はAとBの2段階に分けられ、IIIB期以降になると平均7年で約70%の人が透析に移行してしまうのが実情です。しかし、微量アルブミン尿のII期で徹底した治療を行うと、腎不全への道はかなり抑えることができます。

徹底した治療には以下の2点が挙げられます。

1. 血糖値を徹底して管理する。
2. 微量アルブミン尿と血圧を下げる。

1. については患者と糖尿病の主治医とで二人三脚で行い、2.については腎臓病の主治医との二人三脚で行います。もちろん、糖尿病と腎臓病のそれぞれの主治医も連携がとれていなければなりません。
そして、2. の治療として、低タンパク食を継続して実行するのは患者や食事を作る家族にも負担がかかるので薬物療法が行われます。降圧薬としては「ACE阻害薬」「アンジオテンシンII拮抗薬(ARB)」を用います。これらは降圧効果と共に腎障害の抑制効果が高く、タンパク尿が出なくなる人もいます。
降圧薬を使う場合、高血圧の患者であれば問題はありません。しかし、正常血圧の人に対しても腎症進行抑制のために少量の降圧薬を投与しますが保険診療の適用にはなりません。欧米では正常血圧の人にも使用して大いに効果を上げています。「透析への進行を減少させるためにも、タンパク尿減少薬として認めてほしい!」と、専門医は声をあげていますが患者も一緒に声を上げることが大切なのでは――。

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執筆者プロフィール

松井 宏夫

松井 宏夫

医学ジャーナリスト
略歴
1951年生まれ。
医療最前線の社会的問題に取り組み、高い評価を受けている。
名医本のパイオニアであるとともに、分かりやすい医療解説でも定評がある。
テレビは出演すると共に、『最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学』(テレビ朝日)に協力、『ブロードキャスター』(TBS)医療企画担当・出演、『これが世界のスーパードクター』(TBS)監修など。
ラジオは『笑顔でおは天!!』のコーナー『松井宏夫の健康百科』(文化放送)に出演のほか、新聞、週刊誌など幅広く活躍し、NPO日本医学ジャーナリスト協会副理事長を務めている。
主な著書は『全国名医・病院徹底ガイド』『この病気にこの名医PART1・2・3』『ガンにならない人の法則』(主婦と生活社)、『高くても受けたい最新の検査ガイド-最先端の検査ができる病院・クリニック47』(楽書ブックス)など著書は35冊を超える。

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