血管の老化にストップをかけよう
「何歳になっても若く健康でいたい」とは誰もが思いますよね。健康のためには、血管を意識した生活を送ることが大切です。血管をしなやかに保つことは、体全体の健康につながります。血管の老化というと、動脈硬化を思い浮かべる人も多いでしょう。もちろん動脈の健康を保つことは重要ですが、毛細血管が健康であるかどうかも大きなポイントだとされています。毛細血管に問題があると、シミやしわの原因になるだけでなく、冷え症になりやすかったり免疫力が低下したり、そのほかの病気につながりかねないからです。では、どんなことに気をつければいいのでしょうか。そのヒントをお伝えします。
動脈硬化はさまざまな疾患を引き起こす
医学教育に大きな貢献をしたウィリアム・オスラー博士の有名な言葉に「人は血管とともに老いる」があります。加齢とともに血管の老化が動脈から起きるということで、動脈硬化を意味しています。
動脈硬化の原因はさまざまですが、血圧が常に高い状態であることも原因の一つです1)。血圧が高い状態では動脈に圧力がかかり続けているため、血管の細胞や弾性繊維が発達してしまいます。そのため血管壁が厚くなり、内腔が狭くなってしまうので血液が流れにくくなるのです。また、動脈にかかった圧力によって血管内皮細胞が傷つくと、その部分にコレステロールなどが入り込み、粥状動脈硬化(アテローム動脈硬化)を起こすリスクも増えます2)。また、これらが原因で血管の内腔が狭くなるとさらに高血圧が進行するため、動脈硬化と高血圧は“表裏一体”の関係にあるといえます。
高血糖や脂質異常(LDLコレステロールなどが多い状態)も血液をドロドロにするため、血管内皮細胞を傷めます。そこに活性酸素による酸化ストレスが加わると、さらに動脈硬化が進行します。そしてこれらひとつだけでなく、複数の要因が重なるとことで動脈硬化をさらに進行させてしまうのです。
動脈硬化は、高血圧だけでなくさまざまな疾患の原因となります。ほかにも心筋梗塞や狭心症、脳卒中、末梢動脈疾患(PAD)、大動脈瘤や大動脈解離も、動脈硬化が原因となって起こる疾患です3)4)。
血管の老化を防ぐためには、生活習慣の改善が基本です。
たばこを吸っている人は、まず禁煙からスタート。そして食事の面では、総摂取エネルギー量や飽和脂肪酸摂取量を抑えるなどの見直しを行うことです。また、運動量を増やして太りにくい体をつくり、メタボリックシンドロームにならないようにすることも重要です。
日本動脈硬化学会では、血管の老化(動脈硬化)を予防する食事のポイントとして、「伝統的な日本食」を意識すると良いとしています。肉の脂身や動物脂(牛脂、ラード、バター)を控えて、大豆、魚、野菜、海藻、きのこ、果物、未精製穀類を取り合わせて食べるようにしましょう。また、減塩を心掛けることも大切です。塩分を摂りすぎると、血管の内皮細胞が傷つき動脈硬化が進行しやすくなるからです。さらに、過食を避け、飲酒はほどほどにし、トランス脂肪酸(マーガリンやショートニングを使った揚げ物やお菓子)の摂取を控えて、適正体重を維持することも血管の老化を防ぐためには効果的です5)。
毛細血管の重要性
近年、動脈と同様に健康度が重要視されているのが毛細血管です。
血管の総延長は約10万㎞といわれ、地球2周半の長さです。約100億本あるといわれる毛細血管は、血管の99%以上を占めています。動脈と静脈の間に位置し、細胞に必要な酸素や栄養を届け、不要となった二酸化炭素や老廃物を回収するのが毛細血管の役割です。そのため、毛細血管はあらゆる細胞と0.03mm以内にあるとされています。逆にいえば、約37兆個といわれるすべての細胞の至近距離にまで、毛細血管が張り巡らされているのです6)。
Check! 毛細血管のゴースト化って?
毛細血管には小さな穴が開いており、適度に滲み出すことで周囲の細胞に酸素や栄養を届けることができます。しかし、加齢などが原因で毛細血管壁の穴が広がり、過度に血液が漏れやすくなったりすると、その先に血液が届かなくなってしまうことがあり、その状態が続くと、その先の血管が消滅してしまうのです。これが「ゴースト血管」といわれる状態です。毛細血管が減ってしまう原因の一つは加齢。毛細血管は40歳代から減りやすいといわれており、20歳代に比べると、60歳代では4割前後減ってしまうという報告もあります7)。そして、高血圧や高血糖、脂質異常などが重なると、ゴースト血管化をさらに加速させてしまいます。
毛細血管が減るとどうなる?
毛細血管が少なくなってしまうと、その先にある細胞に酸素や栄養が届きません。それが皮膚に近い場所で起こると肌のシミやしわの原因に、頭皮近辺で起こると薄毛や白髪の原因になるといわれています。また、酸素や栄養が届かないと、心臓は「もっと強い力で血液を送り出さないと」と判断してしまうため、高血圧になりやすくなり、動脈硬化を進行させることにつながり、心筋梗塞や脳卒中のリスクも増えてしまうのです。
血液は酸素や栄養だけでなく、白血球も運びます。体のすみずみまで白血球を届けることで免疫に寄与しているのです。ゴースト血管によって白血球が行き届かなくなる場所があると免疫力が落ち、風邪をひきやすくなるなど感染症のリスクが高まります。さらに、一定の温度の血液を運ぶことで、体温を維持するのも毛細血管の役目です。そのため血流が途絶える場所があると、その先に冷え症が起こることもあります。また、脳の毛細血管がゴースト化すれば、小さな脳梗塞(ラクナ梗塞)が起こり、アルツハイマー型認知症のリスクも増します。そのほか、腎臓のトラブルや糖尿病の悪化も心配しなければいけません。
毛細血管の減少を抑制するには?
毛細血管のゴースト化を防ぐには、血流が不足しないようにすることが一つのポイント。血管の中を流れる血液を“流れやすい状態にする”ことは、その第一歩です。
例えば脂質異常にならないよう、食事のバランスに気を付けることです。また、食後高血糖にならないよう、野菜から食べ、よく噛み、大食いを避けるなどのことを実行しましょう。抗酸化成分が多く含まれている食品を積極的に取ることも、LDLコレステロールの酸化を防ぐ意味でも重要です。
また、副交感神経を優位にすることで、末梢の毛細血管まで開かせて血流をよくすることが効果的だという見解もあります8)。交感神経が優位な状態では、毛細血管が収縮して血圧が上昇してしまいます。その状態ばかりが続くことは、毛細血管にとってよくありません。規則正しい生活や質の高い睡眠、リラックスタイムをきっちり取ることなどで、副交感神経が優位になる時間帯をつくるようにしましょう。
Check! 毛細血管を強くする鍵、Tie2(タイツー)
血管の内皮細胞にあるTie2という受容体は、血管のゴースト化に深くかかわっています。毛細血管の老化を防いで健康を保つためには、このTie2の働きを活性化することが重要です。Tie2を活性化する物質が含まれている食材としては、シナモン、ヒハツ(コショウ科の植物でスパイスとして使用される)、ルイボスティーなどが挙げられます。これらの食材には、Tie2の活性を促して血管内皮を強化する働きがあるといわれています8)。
<参考資料>
- 厚生労働省「e-ヘルスネット」メタボリックシンドローム(メタボ)とは?
(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-01-001.html) - 厚生労働省「e-ヘルスネット」生活習慣病予防―動脈硬化
(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionaries/metabolic) - 一般社団法人 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患とは?」
(https://www.j-athero.org/jp/general/2_atherosclerosis/) - 生体医工学ウェブ辞典「動脈硬化」
(https://cyclopedia.jsmbe.org/%E5%8B%95%E8%84%88%E7%A1%AC%E5%8C%96) - 一般社団法人 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患の発症を予防するためには」
(https://www.j-athero.org/jp/general/4_atherosclerosis_yobou/) - 日本赤十字社医療センター情報誌「Tea Time vol.68」
(https://www.med.jrc.or.jp/Portals/0/resources/information/Tea%20Time68.pdf) - Kelly RI, et al. J Am Acad Dermatol. 1995; 33: 749-56.
- 根来秀行「大丈夫!何とかなります 毛細血管は若返る」主婦の友社. 2020
※このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。
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