脳が元気になると、脳卒中や認知症も予防できる(ライフスタイル編)

脳卒中・脳梗塞 予防・対策・生活改善

指先と脳の密接な関係

「指先を動かすとボケ予防になる」という話を聞いたことはありませんか。私たちは毎日の生活のなかで、指先を使って細かい作業をしています。パソコンや携帯電話の小さなキーを押すのも、洋服のボタンをとめるのも、小銭入れから1円玉や5円玉をえり分けて出すのも、紐を結ぶのも、本のページをめくるのも、すべて指先の仕事です。
ふだん私たちは何気なくこうした作業をこなしていますが、じつは指先の微妙な動きは、非常に多くの脳の神経細胞によってコントロールされ、初めて可能になるのです。
中高年になるにつれ、だれでも細かい作業がやりにくくなります。それは年齢とともに神経細胞の働きが衰え、指先の感覚がにぶくなってくるためなのです。
しかし、私たちの体はうまくできていて、仕事や遊びで指先をよく動かしていると、脳を刺激し、にぶくなった神経細胞の働きを改善することができます。その結果、記憶力や判断力に関係するアセチルコリン、積極性に関係するノルアドレナリンなど、脳内の神経伝達物質が活性化され、認知症の予防だけでなく、物事に対する「やる気」もわいてくるようになります。
vol.4 脳が元気になると、脳卒中や認知症も予防できる(ライフスタイル編)

歩くと脳が元気になる

体を動かすことが脳を元気にする例は、ほかにもあります。たとえば歩くこと(ウォーキング)もそのひとつ。歩くと、足の筋肉(とくにバランスに関係する遅筋)の動きが脳を刺激し、神経細胞の働きが活発になります。
最近の研究では、歩くことで体内のカルシウム代謝がよくなり、脳にカルシウムが供給され、神経伝達物質のドーパミンが増えることもわかっています。ドーパミンには、体の動きをコントロールする働きがあるので、体全体の動きがスムーズになり、パーキンソン病の予防にもなります(*1)。
歩くことのもうひとつの効用は、「頭の働きがよくなり、認知症の予防ができる」ことです。歩くことによって神経細胞の働きがよくなり、記憶力や理解力、集中力などが向上するのです。
このことはいくつかのテストによって実証されていますが、たとえば『脳の健康』(生田哲著、講談社)には、日本体育大学の円田善英教授のデータが紹介されています。そのテストでは、覚醒効果(脳のすっきり感)、情報処理能力(情報に対する記憶と理解)、意図的行為機能(集中力や意欲など)のいずれにおいても、ウォーキングの前よりもウォーキング中やその後のほうが良い結果になっています(*2)。
歩くことは脳の働きを全般に向上させ、それが認知症の予防にもつながるのです。
  • *1筑波大学医学系の須藤伝悦博士らの動物試験によるものです。人間の場合も、ウォーキングなどの歩く運動を続けることで、パーキンソン病や認知症が改善される例が報告されています。パーキンソン病は、手足のふるえや筋肉硬直が起こる病気で、アメリカでは元プロボクサーのモハメド・アリや俳優のマイケル・J・フォックスが、この病気と闘っていることでも知られています。
  • *2このテストによれば、歩く速度が速いほど脳の働きも向上しますが、散歩程度の速さでもかなりの効果が認められています。

脳が元気になることは体にもいい

指先を動かしたり、歩いたりすることには、また別の意味もあります。それは指や足を動かすと末梢部の血液の流れがよくなり、それが脳だけでなく、体全体の血流の改善にもなることです。
とくに足は「第2の心臓」ともいわれ、筋肉を動かすことによってポンプのように末梢部(足先)の血液を循環させてくれます。それによって循環器系全体の働きがよくなり、高血圧の改善やコレステロールの減少、さらには脳卒中や心筋梗塞といった生活習慣病の予防にもつながります。
指先を動かすことは日常生活でもできますが、たとえば陶芸や編み物、麻雀などの趣味をもつことで、脳への刺激が増え、神経細胞の働きも向上します。趣味を通じて人にも会うようになり、それもまた脳への刺激となります。
ウォーキングや散歩では景色や空気が目や肌を刺激し、それがさらに脳への刺激となって神経細胞を活性化してくれます。
脳を元気にし、生活習慣病を予防するために、指先を動かし、歩くといった習慣を、毎日の生活に意識的に取り入れましょう。

アルコールは量次第で薬にも害にもなる

一方、生活のなかには、脳が元気になるのをさまたげる要因もあります。その代表ともいえるのが、アルコール、タバコ、ストレスの3つです。
アルコールを飲むと、なんとなくいい気持ちになります。それはアルコールの成分が脳に作用し、ドーパミンを増やすからです。ドーパミンには、さきほど述べた体の動きをコントロールする働きのほかにもうひとつ、楽しさや心地よさといった感情を生み出す働きがあります。私たちはこちらのドーパミン効果を求めて、アルコールを飲んでいるともいえるでしょう。
ドーパミンは体に重要な神経伝達物質ですから、その点ではアルコールは健康にいいともいえます。実際、少量のアルコールを飲む人は、飲まない人より長寿だという報告もあるほどです(*3)。
ところがアルコールは、肝臓で分解されるときにアセトアルデヒドという有害物質を発生します。これが脳の神経細胞にダメージを与えるのです。通常、成人の脳では1日10万個程度の神経細胞が消滅していきます。しかし、二日酔いになるほどアルコールを飲むと、その3倍もの神経細胞が消滅するといわれています。
とくに日本人には、体質的にアセトアルデヒドを分解する酵素量の少ない人が多く(全体の4割程度)、それだけアルコールに弱く、ダメージを受けやすいともいえます。さらに中高年になると、神経細胞の受けるダメージは加速度的に大きくなります。脳の健康のためにも、「アルコールはほどほどにする」ことが大切です。
  • *3健康に害がないとされるアルコール量は、1日当たり日本酒なら1合、ビールなら中瓶1本、ワインならグラス2杯程度までです。この程度だと血行をよくする効果もあります。

脳に悪いことは体にも悪い

タバコとストレスは、どちらも血管を収縮させ、血流を悪化させる要因です。また、活性酸素を発生させ、体の酸化を促進させる要因でもあります。
じつは脳の神経細胞は、血流の悪化による酸素不足と、活性酸素による酸化障害によるダメージを受けやすいのです。
脳が活動するには、大量の酸素が必要です。体全体で消費される酸素の約20%を、脳が消費しているほどです。もし脳への血流が止まり、酸素の供給が1分間停止すると、神経細胞の破壊が急速に進みます。
その一方で脳は、大量の酸素を消費するため、つねに活性酸素による酸化の影響にさらされています。脳の酸化とは、つまり脳の老化を意味しています。タバコとストレスは、日常生活においてこうした脳へのマイナス要因となる典型的なものなのです。
血管の収縮による血流の悪化や活性酸素の増加は、動脈硬化を起こす原因でもあり、高血圧や心筋梗塞、脳梗塞などの引き金となることもあります。
脳にとって悪いことは、体にもよくありません。脳を元気にし、生活習慣病を予防するために、「アルコールは控えめにする、タバコはできるだけやめる、ストレスは早めの気分転換で解消する」といったライフスタイルを心がけましょう。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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