「まだら認知症」のかげに脳梗塞あり

脳卒中・脳梗塞 病名・疾患解説

まだら認知症とは

「まだら認知症」という、ちょっと変わった名前の認知症をご存知でしょうか。一般的には、「記憶力の低下が目立つのに、理解力や判断力はしっかりしている状態」とされています。
それだけでは少しわかりにくいかもしれませんが、記憶力の低下の仕方にも特徴があります。あるときから急に記憶力の低下が始まったり、ストンと階段を下りるように悪化したり、日によって良かったり悪かったりする、といった傾向がみられるのです。
また、からだの機能などに、変化が起こることもあります。たとえば、初期には頭痛やめまい、耳鳴り、手足のしびれ。さらに、人によって、歩行障害(つまずく)、言語障害(言葉が出にくい、ろれつが回らない)、嚥下障害(飲み込みにくい)、抑うつ(やる気が出ない)、感情失禁(些細なことで泣く、怒る)、夜間せん妄(夜間に意識レベルが低下し言動がおかしくなる)などの症状がみられます。
記憶力の低下もふくめ、こうした症状はともすれば老化のせいと考えたり、ほかの病気と間違えたりしがちです。ところが、まだら認知症とされる症状は、じつは小さな脳梗塞が原因で起こることが多いのです。さらにその背景には、高血圧による動脈硬化があることもわかってきました。
まだら認知症は、早く気がつけば改善や予防が可能です。症状や予防策について、きちんと知っておきましょう。
vol.106 「まだら認知症」のかげに脳梗塞あり

まだら認知症とラクナ梗塞

中高年になると、頭部のCTやMRI検査で、かなりの方に小さな脳梗塞(または脳出血)がみつかります。その多くは自覚症状がないことから、無症候性脳梗塞あるいは「隠れ脳梗塞」と呼ばれています。
隠れ脳梗塞の大半は、ラクナ梗塞といって、脳深部の細い動脈にできる直径15mm未満の小さな梗塞です(※1)。ラクナ梗塞がみつかっても、なんの症状もなく、治療の必要のないものも少なくありません(※2)。
その一方で、ラクナ梗塞が増えると、梗塞ができた場所の血流が悪化し、脳の活動(記憶、運動、感情など)がダメージを受けることがあります。それが、まだら認知症の症状となって現れますが、原因がラクナ梗塞だと気づかないことが多いのです。
もう1つ重要なのは、ラクナ梗塞を放置していると、重大な脳梗塞を起こすリスクが高くなることです。初めて脳梗塞の発作を起こした人の3分の2以上に、それ以前にラクナ梗塞の経歴があることがわかっています。また、ラクナ梗塞があると、脳卒中(脳梗塞や脳出血など)の発症リスクが10倍以上にもなります(※3)。
予防のためには、ラクナ梗塞を早期発見し、適切な治療や生活指導を受けることが大切ですが、そのきっかけとなるサインの1つが、まだら認知症の症状です。記憶力の低下のほか、頭痛やめまい、手足のしびれ、言葉が出にくい、よくつまずくなどの症状がみられたら、早めに検査を受けるようにしましょう。
また、自分でも食生活など生活全般を見直すことが大切です。

(※1)脳の細い動脈に生じるラクナ梗塞に対して、太い動脈に生じる梗塞をアテローム血栓性脳梗塞(粥状の血栓による梗塞)といいます。隠れ脳梗塞は、ラクナ梗塞が80%以上を占めますが、一部にアテローム血栓性脳梗塞もみられます。

(※2)ラクナ梗塞のような小さな梗塞は、抗血栓薬(抗血小板薬)を使用するとかえって脳出血の可能性を高めることがあります。とくに高血圧がある場合には注意が必要なので、薬物治療については医師とよく相談することが大切です。

(※3)島根医科大学(現・島根大学医学部)グループによる30歳~80歳の男女を対象とした7年間の追跡調査。

高血圧と隠れ脳梗塞

隠れ脳梗塞の大半を占めるラクナ梗塞は、なぜできるのでしょうか。その原因として、もっとも重視されているのが高血圧です。
一般に、血圧(とくに収縮期血圧)が高いほど、脳卒中(脳梗塞や脳出血など)による死亡リスクが高くなります。収縮期血圧が10mmHg上がるごとに、男性で20%、女性で15%、脳卒中のリスクが高くなるとされています。
しかし、血圧がちょっと高めという程度であっても、油断はできません。その状態が長く続くと、脳の細い動脈への負担が積み重なって、動脈硬化が進みます。その結果、血管が狭まったり、詰まったりして、ラクナ梗塞となります。小さな血栓が移動してラクナ梗塞となるものもありますが、ほとんどは動脈硬化(細小動脈硬化)によるものです。
ラクナ梗塞は高齢になるほど増加し、70歳以上では約30%にみられます。しかし、働き盛りの世代でも少ないわけではなく、60歳代で約25%、50歳代で約12%、40歳代でも約5%にみられます。ただし、これは血圧が正常な人をふくむ平均値なので、高血圧グループに限定すると各世代とも約2倍に増えます(※4)。
このことからも、①高血圧であること、②その状態が長く続くことが、隠れ脳梗塞(ラクナ梗塞)の重要なリスク因子であることがわかるでしょう。
さらに、高血圧に加えて糖尿病や高脂血症を併発していると、動脈硬化が進みやすいことから、ラクナ梗塞のリスクがより高くなることも指摘されています。

(※4)脳ドックの受診者を対象とした島根医科大学(現・島根大学医学部)の調査。

日常生活での予防策

隠れ脳梗塞(ラクナ梗塞)は、頭部CT検査などを受けなければ発見できませんが、まだら認知症の症状なら、自分で、あるいは家族などが気づくことができます。とくに血圧が高い方は、サインを見逃さないようにしましょう。
また、予防のために、次のことを心がけましょう。

①血圧をきちんと管理する
日頃から血圧測定をおこない、高血圧の状態を放置しないことが大切です。
②食生活を見直す
食生活では、血圧上昇の原因となる塩分をひかえることが基本です。とくに濃い味付けの外食には要注意。
また、牛乳などの乳製品を積極的にとりましょう。多目的コホート研究(厚生労働省研究班)では、乳製品のカルシウムによる脳卒中予防効果を調査した結果、乳製品をほとんど摂取しない人と比較すると、たくさん摂取する人(乳製品からのカルシウム摂取量が1日当たり116mg)は脳卒中のリスクが30~35%程度低下することが報告されています(※5)。
③水分をしっかりとる
水分が不足すると、ラクナ梗塞を起こしやすくなります。とくに高齢の方は水分不足に気づきにくいので、1時間に一度はお茶を飲むなどの習慣をつけることが大切です。
④禁煙する
タバコは血管を収縮させ、動脈硬化を促進する代表的なリスク因子です。禁煙をしましょう。
⑤適度の運動をする
適度の運動は血圧を下げ、血管への負担を低減する効果があります。定期的に(週に3~4回程度)、ウオーキングや軽めのジョギングなどの運動をしましょう。ただし、高血圧治療を受けている方は、医師に相談してから運動を始めてください。

(※5)乳製品からのカルシウム摂取量の116mgは中央値。ちなみに、牛乳コップ1杯(200ml)に含まれるカルシウムは227mg(吸収率は40%)。なお、乳製品以外の食品のカルシウムには明確な予防効果は認められず、サプリメントによる摂取については検討されていない。

ミニコラム

ラクナ梗塞があるかどうか、2つのチェックを試してみませんか。
①右手の人差し指を立てて、目の前30cmくらいの距離に置きます。目を閉じて、指先を自分の鼻の頭までもってきます。同様のことを左手の人差し指でもおこない、両方とも指先がきちんと鼻の頭にくれば合格です。
②紙と、黒と赤のボールペン(鉛筆)を用意します。まず黒のボールペンで、蚊取り線香のような渦巻を描きます(五重くらい。線と線の幅は5mm程度)。次に赤のボールペンで、黒の線と線のあいだをたどって、線にふれないようにして渦巻を描きます。赤の線と黒の線が2か所以上でふれていたら、要注意です。

※これはあくまでもゲーム感覚のチェックです。もし不合格(要注意)の場合は、まだら認知症の症状に気をつけるきっかけにしましょう。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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