カルシウム不足を解消して高血圧や動脈硬化を予防する

高血圧 予防・対策・生活改善

日本人は慢性的なカルシウム不足

食生活の豊かな日本で、数十年にわたりずっと不足している栄養素があります。それはカルシウムです。日本人のカルシウム推奨量は、尿中排泄を考慮して、1日あたり18~29歳男性で789㎎、30~49歳男性で738㎎、50?64歳以上の男性で737㎎、18?64歳の女性で661?667㎎とされています。(*1)

ところが「国民栄養調査」ではいつもこの数値に達せず、平成30年(2018年)の調査でも平均摂取量は505mg(男性514mg、女性497mg)にすぎません(グラフ参照)。20代は417mg、30代は439mg、40代は437mg、50代は479mgと、若い世代ほど不足傾向にあります。20代の女性に至っては、わずか384 mgです。

諸外国では摂取目標量を1,000mg以上に設定している国も多く、日本ではそれよりもはるかに低い目標量でさえ満たしていないわけですから、かなり深刻なカルシウム不足だといえるでしょう。

カルシウムが不足すると、骨の健康障害(骨折や骨粗しょう症)の原因となることはよく知られています。その半面、カルシウム不足が高血圧や動脈硬化などの原因となっていることは、あまり知られていません。カルシウムの働きは骨をつくることだけでなく、血管などの細胞の活動にも大きな影響を与えています。そのためカルシウムが不足すると、血圧の上昇や血管の老化を招きやすいのです(*2)

(*1)「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書より。近年では、それまでの目安量ではなく、推定平均必要量、推奨量が示されるようになりました。

(*2)カルシウム不足は高血圧や動脈硬化のほか、脳の神経細胞の働きを低下させて痴呆症を引き起こすことや、細胞の免疫力を低下させ、がん細胞の発生に影響を与えることなども指摘されています。

●国民栄養調査によるカルシウム摂取量の推移

日本人の食生活が安定し、エネルギー摂取量がピークに達した1970年度のカルシウム平均摂取量は536mgです。その後もずっと推奨量を下回っています。ちなみに現在ほど食糧事情がよくなかった1950年度は276mg、1960年度は389mgときわめて低い数値になっています。

vol.15 カルシウム不足を解消して高血圧や動脈硬化を予防する

カルシウム・パラドックスが血圧を上昇させる

カルシウム・パラドックス(逆説)という言葉を聞いたことがありますか。カルシウムが不足すると、血液中のカルシウムが増えるという不思議な現象のことです。なぜ、そんなことが起こるのでしょうか。

体内のカルシウムの大半は、骨に貯蔵されています。残りのわずか約1%が、血管などの細胞で使われます。骨以外の細胞で使われるカルシウムは微量ですが、心臓の筋肉や脳の神経細胞の働きをコントロールするなど、生命にかかわる非常に重要な役割をしています。そのためカルシウム摂取量が不足すると、身体が危機感をおぼえ、副甲状腺ホルモンを分泌させて骨からカルシウムを取り出し、体内(細胞)に補給します。カルシウム不足が続くと骨からの補給量がどんどん増加し、その結果、血液中のカルシウム濃度が高くなってしまうのです。

つまり、カルシウム・パラドックスは生命維持に欠かせない現象なのですが、注目されるのはそのあとで生じるマイナス要因です。血液中のカルシウム濃度が高くなると、カルシウムは血管壁に取り込まれ、壁を収縮させます。すると血液の流れが悪くなるので、心臓はより強い力で血液を送り出そうとします。その結果、血圧が上昇し、高血圧になりやすいのです。

カルシウム不足は血管系疾患の引き金

高血圧は、塩分(ナトリウム)のとり過ぎが主な原因とされています。塩分過多になると、ノドの渇きなどから水分をたくさんとるため、血液量が増えます。その結果、血管壁にかかる圧力が上昇し、高血圧になるわけです。

ところがそれだけでなく、塩分を多くとるとカルシウムが体外へ排出され、カルシウム不足におちいりやすくなります。その結果、先ほどのカルシウム・パラドックスが起こり、さらなる血圧の上昇を招くことになります(*3)。そのため高血圧の予防や改善には、塩分のとり過ぎに加え、カルシウム不足にも注意する必要があるのです。

カルシウム不足はさらに、動脈硬化を招く原因ともなります。血液中のカルシウムが増えると血管壁が硬くなり、血管の内側が傷つきやすくなります。傷ができると、そこにコレステロールなどが付着するため血液の流れが悪化し、また血管そのものももろくなってしまう(動脈硬化の状態)からです。したがって、カルシウム不足は、高血圧や動脈硬化といった血管系疾患の引きがねともいえるでしょう。

(*3)高血圧の要因にはそのほか、自律神経やホルモンの異常、肥満、ストレス、遺伝などがあります。塩分過多とカルシウム不足は、血圧上昇の直接的な要因とされています。

カルシウム不足と自覚症状

カルシウムが不足すると、身体にちょっとした異変がみられます。次のような症状があったら、カルシウム不足を疑ってみましょう。

(1) まぶたがピクピクとけいれんする
(2) 運動もしていないのに、足がつる
(3) もの忘れをよくする
(4) イライラする

(1)~(2)は、カルシウム不足による筋肉活動の低下が原因です。(3)~(4)は、脳の神経細胞の働きが低下することによります。

この場合にも、カルシウム・パラドックスが関係しています。「イライラする」を例にとると、カルシウム不足は脳の血液中のカルシウム濃度も高めます。すると脳の神経細胞の働きがうまくコントロールできなくなり、イライラ症状が起こるのです。脳の血液中のカルシウム濃度がさらに高くなると、痴呆症状を起こすこともあります。また脳血管の動脈硬化から、脳卒中を引き起こす原因ともなります。

カルシウムを上手にとるには

日本人がカルシウム不足になりやすい理由のひとつが、自然環境にあります。日本の国土の多くは火山灰地で、カルシウム含有量が多くありません。世界的にみても、飲み水や野菜に含まれるカルシウムが少ないので、食生活ではカルシウムを含む食品を意識的に多めにとる必要があります。

カルシウムをとりやすい食品として、牛乳と乳製品(チーズ、ヨーグルトなど)、小魚類(イワシ、シシャモなど)、豆類と豆製品(納豆、木綿豆腐など)、それに緑色野菜(小松菜、ブロッコリーなど)があります。

ちなみに、カルシウムは体内での吸収率がよくありません。例えばコップ1杯(200ml)の牛乳には、カルシウムが200mg(200cc)含まれていますが、もっとも吸収がよい牛乳でも50%程度、ほかの食品では20~30%程度です。しかも年齢とともに吸収率が悪くなるので、中高年の場合には摂取量の目標を1000mg程度にし、カルシウムを含む食品を多めにとるようにしましょう。

カルシウムの吸収を高めるには、ビタミンDの働きが必要です。ビタミンDは、イワシなどの青魚類やきのこ類に多く含まれています。また、紫外線からもビタミンD生成が可能です。紫外線は浴びすぎるとシミやシワの原因にもなりますが、全く浴びないのも健康によくありません。せっかくカルシウムをたくさんとっても、ビタミンDが不足すると吸収率が低下するので、散歩やウォーキングなどで、紫外線を適度に浴びることが大切です。

マグネシウムも一緒にとると効果的

適切なカルシウム摂取に努めるだけでなく、カルシウムの吸収や働きを妨げる要因にも、注意する必要があります。先ほど紹介した塩分のとり過ぎもそのひとつですが、ほかにリンやアルコールもマイナス作用をもっています。

リンは、骨へのカルシウムの沈着を助ける役割をする一方で、とり過ぎるとカルシウムを体外へ排出する作用もあります。リンは食品添加物として、インスタント食品や清涼飲料水などに多く含まれています。またアルコールも、腸でのカルシウムの吸収を妨げます。これらの食べ過ぎ、飲み過ぎには気をつけましょう。

ところで、カルシウムそのものには、とり過ぎの心配はないのでしょうか。厚生労働省が定めるカルシウム摂取量の上限は、1日あたり2500mgです。カルシウム製剤などを大量に飲まない限り、ふつうの食生活ではこの量を超えることはまずないでしょう。それゆえ、カルシウムのとり過ぎを心配する必要はあまりないのですが(*4)、単にたくさん摂取すればいいわけでもありません。

マグネシウムが足りないと、体内でカルシウムがうまく働かないことがあります。マグネシウムは骨、筋肉、神経などで、カルシウムの出入りを調整する役割をしているからです。そのためマグネシウムが不足すると、カルシウム不足と似た症状(足がつる、イライラするなど)がみられます。
マグネシウムの推奨量は1日あたり300mgで、カルシウムの半分です。緑黄色野菜のほか豆類、海藻類、ナッツ類などに多く含まれているので、バランスを考えて一緒にとることが大切です。

(*4)ミネラルバランスを考えずにカルシウムだけをとり過ぎると、人によっては便秘や貧血症状を起こすことがあります。また従来、カルシウムをとり過ぎると、腎臓や尿管で結石を生じやすいといわれてきました。しかし、実際にはその逆で、カルシウムが不足するとカルシウム・パラドックスにより腎臓などでもカルシウム量が増え、それが結石をつくる原因となります。つまり、カルシウム不足の人のほうが、結石になりやすいのです。

参照URL
『「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html
『平成30年国民健康・栄養調査報告』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/h30-houkoku_00001.html

更新日:2021.06.25

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