2016.01.08

vol.151 放っておくと恐ろしい貧血

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Vol.151 放っておくと恐ろしい貧血

体がだるく、疲れやすい。動悸や息切れがする。あまり食欲がない……。ちょっとした体の不調が、実は貧血のせいだったというのはよくある話です。しかし、貧血を引き起こすもととなっている原因を突き止めずに放っておくと、危険な病気が隠れているのに気がつかない場合もあります。決して侮ってはいけない貧血。気をつけるべきポイントをお伝えします。

栄養が不足することで起きる貧血とは?

貧血は、栄養が不足することで起きることがあります。なかでも一番多くみられるタイプが「鉄欠乏性貧血」です。貧血の70~80%が、鉄分が欠乏するために起きる貧血だといわれています。
血液の赤血球に含まれているヘモグロビンは、鉄を含むヘムという赤い色素とたんぱく質が結合してできており、このヘモグロビンが酸素を全身に運んでいます。また、代謝で産生された二酸化炭素を肺まで運んでいるのもヘモグロビンです。しかし鉄分が不足するとヘモグロビンの生成が減少し、体のすみずみまで酸素を届けることができなくなってしまいます。こうして貧血が起こると、全身倦怠感や動悸、息切れ、食欲不振などの症状が現れます。心臓は大量の血液を流して酸素不足を解消しようと、鼓動を早くします。呼吸が激しくなるのも、酸素を体に取り入れようとするためです。このように、肺や心臓に負担がかかるだけでなく、心臓肥大につながってしまうこともあるのです。
鉄欠乏性貧血は、鉄分不足の偏った食事や過度なダイエットで引き起こされることがあるほか、病気などによる出血でも起こります。また、胃腸での鉄分の吸収に問題があるときに起こる場合もあります。

赤血球は骨髄で生成されますが、最初に赤芽球という赤血球のもとになる母細胞が作られ、それが細胞分裂することで作られていきます。このときに必要となるのが、葉酸やビタミンB12といったビタミンです。葉酸やビタミンB12が不足すると赤芽球の細胞分裂がうまくいきません。その代わりに巨赤芽球という大型の赤芽球ができてしまい、赤血球が増えずに貧血となってしまうのです。これを「巨赤芽球性貧血」といいます。
バランスのとれた食事をしていないことが大きな原因と考えられるほか、大量の飲酒でもこのタイプの貧血を引き起こします。また、胃腸の障害で食事からビタミン類を十分に吸収できない場合にも、このタイプの貧血が起こります。なお、現在ではこのタイプの貧血に対しては、葉酸やビタミンB12を投与するなどの治療法が確立されていますので、過剰な心配をする必要はなさそうです。

病気などによる出血の場合は別ですが、貧血気味という程度の状態なら、毎日の食生活の改善などで解消できる場合がほとんどです。
鉄分は、食事で摂ったもののうち10%程度しか体内に取り込まれないといわれるほど、吸収されにくい栄養素です。そのうえ、ほかの栄養素が不足すると吸収率は上がりません。そのため、鉄分を多く含む食品以外にも、バランスのとれた食事を考える必要があります。
また、鉄分にはヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があります。ヘム鉄を多く含む食品はレバーや肉、魚類です。一方、非ヘム鉄は野菜や豆類、海藻、卵などに含まれています。ヘム鉄は非ヘム鉄より体の吸収率が高く、牛肉の鉄分の吸収率は約20%です。それに対して非ヘム鉄の吸収率は10%以下のものが多いのですが、動物性食品やビタミンCなどと組み合わせることで、吸収率が向上するといわれています。
葉酸は、緑黄色野菜やかんきつ類などの果物に多く含まれています。また、ビタミンB12は肉や魚類、卵、乳製品など動物性食品に含まれています。つまり、「貧血気味だから鉄分を補給しよう」とレバーや魚ばかりを食べるのではなく、野菜や果物を含め、食品の種類を増やすことがポイントといえそうです。

女性に貧血の人が多くみられるのはなぜ?

血液中の赤血球数の基準範囲は、男性が400万~539万/μℓ、女性が360万~489万/μℓで、ヘモグロビンは男性が13.1~16.6/㎗、女性が12.1~14.6/㎗とされています。そして赤血球に関しては男性359万/μℓ以下、女性329万/以下、ヘモグロビンに関しては男性11.9/㎗以下、女性10.9/㎗以下が異常とされています※1。
ヘモグロビンに関して異常とされる割合は、男性が約3.4%、女性が約5.8%ですが、基準範囲未満で要注意とされるグレーゾーンまでを含めると、男性は約10%なのに対して女性は16%を超えており※2、女性の方が貧血になる危険性が高いことがわかります。
血液の中の赤血球は、健康な人でも約120日たつと脾臓で分解されます。赤血球の割合を正常に保つためには、毎日一定の量がつくられなければなりません。しかし女性の場合は毎月月経で血を失うため、貧血につながりやすいと考えられます。

女性は初経から閉経までの期間のうち、約10%程度が鉄欠乏性貧血状態にあるといわれています。また、妊娠や授乳によっても、体内の鉄分が減少しがちになります。さらに過多月経の場合には、その割合はもっと増えてしまいます。過多月経の主な原因は子宮筋腫や子宮内膜ポリープ、子宮腺筋症、子宮体がん、子宮頸がんなどですが、なかでも一番多くみられるのは子宮筋腫です。

子宮筋腫は良性潰瘍によるもので、一般的に20~35%程度の女性にみられるといわれています。子宮筋腫には女性ホルモンの一つであるエストロゲンが関係しているということはわかっていますが、発生する原因はまだ解明されていません。ちなみに初経前の年齢にはほとんど見られず、閉経後の年齢でもあまり多くはありません。
子宮内膜ポリープは、エストロゲンが過剰に分泌されることによって子宮内膜が異常に増殖して発生すると考えられています。子宮腺筋症は、子宮内膜に似た組織が子宮筋層にできてしまったものです。これも女性ホルモンが関係している可能性があるとされる病気で、30~40歳代の女性に多くみられます。
過多月経の原因を明らかにすることは、その後の健康に大きくかかわってきます。だから過多月経の場合はもちろん、月経痛がある、おりものが見られるなどといった症状がある場合には、婦人科を受診しましょう。「妊娠していないのに婦人科を受診していいの?」という疑問を感じる必要はありません。これらの不安を解消するために、専門医がいるのですから。

ちなみに鉄分が不足していると、肌や髪の状態にも影響が出ます。紫外線を浴びると体内に活性酸素が発生して肌にシミができることがありますが、活性酸素を消去する酵素「カタラーゼ」の生成には鉄分が必要です。つまり鉄分が不足すると、肌にシミができやすくなってしまうのです。また、目の下にクマができるのも、鉄分不足が原因の一つです。鉄分が不足して、血液が酸素を十分に補給できないため血行不良が起きてしまうからです。さらに、髪のツヤがなくなったり抜け毛が増えるのも、鉄分不足が原因ともいわれています。貧血気味という程度であっても、鉄分を十分に補給する必要があるのです。

3015人の日本人女性を調べたある研究では、鉄欠乏性貧血の人が8.5%、貧血のない鉄欠乏の人が41.8%、健康な人が43.6%、その他が6.5%という結果が出ています。つまり、約半数の女性に何らかの鉄欠乏が見られたというのです※3。貧血の症状に至っていなくても、体にさまざまな不調をきたすことは十分に考えられますから、いかに日ごろの食生活が重要なのかがわかるでしょう。

※1 日本人間ドック学会「検査表の見かた」より

※2 平成25年国民健康・栄養調査(貧血治療薬使用者を除いた割合)より

※3 日本鉄バイオサイエンス学会HPより

がんも貧血を引き起こす

貧血を侮ってはいけない理由は、その裏に別の病気が潜んでいる場合があるからです。病気による出血が原因となっている場合は、もととなっている病気の治療を行わなければなりません。
実は、がんによっても貧血が引き起こされます。その主ながんは大腸がん、胃がん、食道がんといった消化器系のがんです。がんの潰瘍部分は非常に弱い組織です。例えば大腸がんでは、便が潰瘍の部分を通過するときに表面をこすってしまって出血する場合があります。つまりがんが原因で血が失われてしまい、貧血の症状が出やすくなるのです。ほかにも、がんによって免疫にかかわる組織が活発になることで鉄分が組織に取り込まれてしまい、鉄欠乏の状態になるなど、いくつかの原因が考えられています。
2015年11月、日本相撲協会北の湖理事長が逝去されました。このとき最初の報道では、貧血の症状で入院したと伝えられました。死因は直腸がんによる多臓器不全といわれていますが、がんによって貧血の症状が現れたことも考えられます。

血液のがんである白血病も、貧血を伴う場合がほとんどです。貧血の症状以外に熱が続くなどの症状を訴えて精密検査をしたところ、急性白血病が見つかったというケースが少なくないといわれています。
白血球を作る骨髄内の細胞ががんになると、異常な白血球ばかりが作られるようになってしまいます。これが白血病です。その結果、赤血球などが作られなくなってしまうため、体中に酸素を届けることができなくなります。だから白血病の場合、貧血の症状を伴うのです。

多発性骨髄腫は、血液細胞の一つである「形質細胞」が“がん化”してしまう病気です。このがん化によって作られた異常細胞「骨髄腫細胞」が体内に増殖するため、正常な血液細胞を作り出すことができなくなってしまいます。そのため、骨の痛みや骨折、強い疲労感、免疫機能の低下に加えて貧血などといった症状が起こります。免疫機能が低下することで感染症にかかりやすくなったりするほか、全身の臓器の機能低下を引き起こすなど、深刻な症状を引き起こしてしまいます。
貧血にはこれらのがんが隠れている場合があるため、専門医をいち早く受診する必要があります。早期発見こそ、がんに負けないための定石です。

貧血に対する注意

貧血には鉄欠乏性貧血、巨赤芽球性貧血のほかにも、代表的なものとして溶血性貧血、再生不良性貧血などがあります。

溶血性貧血は、赤血球の寿命(通常は約120日)が短くなっていってしまい、赤血球が次第に溶けて(溶血)しまうものです。新しい赤血球が作られるより、溶ける量の方が多いために起こる貧血で、通常の貧血の症状に加えて、黄疸が現れるケースが多いのが特徴です。遺伝によって起こる先天性のタイプのほか、自分の赤血球を異物として免疫細胞が攻撃してしまうなど後天性のものもあります。先天性の場合は脾臓の手術で対応し、免疫によるものは免疫抑制剤などで治療するのが一般的です。

再生不良性貧血は、骨髄の機能が低下することにより、血球のもとになる細胞に障害が起こることが原因です。この場合は、赤血球だけでなく白血球や血小板なども不足してしまいます。白血球が不足すると免疫機能が低下するため、感染症にかかりやすくなることがあり、血小板が減ってしまうと血液が凝固しにくくなるため、出血が止まりにくくなったりします。原因ははっきりとわからないケースが多いのですが、化学物質などの影響が指摘されているほか、肝炎ウイルスによる感染症も考えられています。重症になると輸血が必要となったり、骨髄移植が行われる場合もあります。

このほかに、続発性貧血というものがあります。
これは、いろいろな他の病気が原因となって起こる二次性貧血で、前述の「がん」が原因となって起こる貧血のほか、腎臓病、肝臓病、感染症、膠原病、慢性関節リウマチなどが原因となります。例えば腎臓では赤血球の生成を促すホルモンが分泌されますが、腎臓病が悪化するとそのホルモンが十分に作られなくなって赤血球が不足してしまいます。これらの病気に対しては、原因となる疾患の治療を行うことが優先されます。

出血を伴う病気で貧血につながるものとして、見過ごしてはいけないのは痔です。「痔の兆候はあるけれど、たいしたことはない」と放っておいて、出血してしまうほどになると貧血を伴うケースさえあるのです。ほかの病気と同様、貧血の原因となる病気を野放しにしておいてはいけません。

鉄分やビタミンB群が血液にとって重要なことは前述のとおりですが、糖質や脂肪分を摂らないダイエットも貧血の原因となってしまうことがあります。
糖質や脂肪は人間の体にとって重要なエネルギーとなります。その糖質や脂肪が不足すると、体はたんぱく質をエネルギーとしてしまいます。つまり、血液を作るのに重要なたんぱく質がほかに使われてしまうのです。
貧血にならないようにするには、最低限の糖質や脂肪は必要です。そして植物性たんぱく質と動物性たんぱく質を組み合わせた食事を摂るようにしましょう。どうしても1日1食は糖質をオフにしたいと考えるなら、豆腐などたんぱく質を含む食品を主食代わりに食べるなどの工夫が必要です。

余談ですが、学校の朝礼で「貧血で倒れた」という例をご存じの方も多いでしょう。しかしこれは「脳貧血」といい、貧血とは異なります。脳貧血は脳に回る血液が一時的に減ってしまうために起こる低血圧の症状の一つ。急に起き上がったりしたときに起こる「立ちくらみ」も同様で、貧血の人でも貧血でない人でも起こるのです。

  • このコラムは、掲載日現在の内容となります。
    掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

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