vol.166 「異所性脂肪」っていったい何?

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皮下脂肪、内臓脂肪に続く“第三の脂肪”として、「異所性脂肪」が話題になっています。皮下脂肪も内臓脂肪も、その名前からどこに蓄積されるかわかりやすいでしょう。それに対して異所性脂肪は、同じ中性脂肪でも本来たまるはずのない場所に蓄積されます。そして異所性脂肪を放っておくと、生活習慣病につながってしまう危険性が指摘されているのです。そんな異所性脂肪の正体とは?

「太る」だけではすまない異所性脂肪の影響

近年、脂肪のなかでも注目されているのが「異所性脂肪」です。皮下脂肪、内臓脂肪と同じ中性脂肪ですが、この二つに続く“第三の脂肪”で、テレビ番組などでは“場違い脂肪”と呼ばれることもあります。
皮下脂肪はその名のとおり、皮膚の下にある皮下組織につく脂肪のこと。体温を維持したり、エネルギーを貯蔵したり、外からの衝撃に対するクッションの役割を果たします。また、内臓脂肪は主に腸のまわりについた脂肪です。内臓脂肪がたまるとお腹がぽっこり出てきますが、その腹囲がメタボリックシンドロームの診断基準の一つになっています。

それに対して異所性脂肪は、皮下脂肪や内臓脂肪の脂肪組織に入りきらなくなった脂肪が“本来たまるはずのない場所”に蓄積されたものです。その場所とは、心臓や肝臓、膵臓といった臓器自体やその周囲、さらには筋肉(骨格筋)などです1)2)。最初に皮下脂肪、次に内臓脂肪、そして最後に異所性脂肪という順番で蓄積されていくとされていますが、一方では内臓脂肪と並行して異所性脂肪が蓄積されていくという見解もあります。いずれにせよ、皮下脂肪組織に入りきらなくなった脂肪が、内臓脂肪だけでなく異所性脂肪となって蓄積されることになります1)

日本人は欧米人に比べて、皮下脂肪がたまりにくいといわれています。言い換えると、皮下脂肪組織に脂肪を蓄積する能力が低いということです3)。それは、皮下脂肪があまり増えず太りにくい代わりに、内臓脂肪や異所性脂肪が蓄積しやすいことを意味しているのかもしれません1)
内臓脂肪が蓄積されると、さまざまな生活習慣病につながってしまう危険性が問題視されていますが、異所性脂肪についても同様のリスクが指摘されています。そして、異所性脂肪が危険視されているのは、臓器に蓄積した場合に、その臓器が持つ本来の機能を悪化させると考えられているからなのです。

Check! 痩せている人でも異所性脂肪にご注意を!

「私は痩せているから大丈夫」と安心してはいけません。皮下脂肪や内臓脂肪が少なく、健診などで肥満とは診断されなかったとしても、第三の脂肪はついている可能性があります。見た目で太っていれば自覚も対処もできますが、見た目で簡単にわからないのが異所性脂肪です。 ちなみに、異所性脂肪が蓄積しやすいのは女性より男性で、年代としては、男性で30〜50歳代、女性で50歳代後半以降と考えられています1)

vol.166 「異所性脂肪」っていったい何?

内臓に異所性脂肪がたまるとどうなるの?

異所性脂肪の代表的なものが脂肪肝です。お酒を飲まない人でも脂肪肝になる場合があり、それが非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)です。NAFLDの多くは肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などを基盤に発症することから、メタボリックシンドロームの肝病変としてとらえられています。NAFLDは組織学的に大滴性の肝脂肪変性を基盤に発症し、病態がほとんど進行しないと考えられる非アルコール性脂肪肝(NAFL)と、進行性で肝硬変や肝がんの元にもなる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に分類されます4)。そしてNAFLDの脂肪蓄積の程度は、内臓脂肪の蓄積と比例していることがわかっています1)。つまり、内臓脂肪が蓄積されるのと並行して肝臓にも脂肪がたまり、それがのちに肝硬変や肝がんの原因にもなりかねない、ということなのです。

また、異所性脂肪は心臓の周辺、心筋細胞内・外、心外膜周囲にも付着します。すると心臓に酸素や栄養を運ぶ血管自体や血液循環に悪影響を与えることがあり、最悪の場合、狭心症や心筋梗塞などを引き起こす原因になるとも考えられています1)2)。そのほか、異所性脂肪は糖尿病との関連も指摘されているなど1)3)、生活習慣病の新たな原因の一つとして注目されています。

筋肉にも脂肪がつくってどういうこと?

臓器以外で異所性脂肪が蓄積されるのが骨格筋です。骨格筋とは、関節につながる骨について運動をしたり体幹を支えたりする筋肉です。心臓は心筋と呼ばれる筋肉でできていますし、血管などにも平滑筋という筋肉があります。これらは自律神経に支配されており、意識的に動かせるものではありません。それに対して骨格筋は、意識的に動かせる“随意筋”です。
では骨格筋に異所性脂肪がたまると、どうなるのでしょうか。骨格筋は食事で摂取した糖質を吸収し、エネルギーとして蓄えています。しかし、骨格筋に異所性脂肪がたまるとその働きが低下して、インスリンの働きが悪くなってしまいます1)。つまり、臓器ではなく骨格筋に脂肪がたまることでも、糖尿病のリスクが高くなってしまうことです。持久力トレーニングを継続的に行っているアスリートは、骨格筋に異所性脂肪が蓄積されている人でもインスリンの働きが良いという例外もあります。これは「アスリートパラドックス5)」として知られています。また、運動習慣のある人で、日常身体活動量が多い人ほど、骨格筋細胞内脂質の増加が多かったといいます1)。なぜ骨格筋に脂肪が蓄積されるのか、まだすべてが明らかになっているわけではありません。しかし現在、さまざまな研究が進められていますので、今後に期待しましょう。

異所性脂肪を減らすことはできるのか?

脂肪が蓄積される順番から、皮下脂肪より内臓脂肪や異所性脂肪のほうが落としやすいと考えられています3)。ただ残念ながら現時点では、異所性脂肪をどのように減らしていくかについての定説はありません。しかし、代表的な異所性脂肪といえる脂肪肝は、食事、運動療法による減量で早期に改善できることから、内臓脂肪の減少などとの関係の解明が治療に有効ではないかと期待されています1)。つまり、内臓脂肪が増えてしまうような食事習慣や運動不足を改善することです。
運動習慣としては、有酸素運動が有効だとされています。有酸素運動を行えば行うほど内臓脂肪は減少するとされており、週10メッツ・時※以上の運動量を目標にすると良いと考えられています6)。ちなみに、厚生労働省では、生活習慣病の予防と改善のためには、今の身体活動量を少しでも増やすこと(例えば、今より毎日10分ずつ長く歩くなど)、運動習慣として30分以上の運動を週2日以上行うことをすすめています7)

メッツ(METs):身体活動の強さと量を表す単位のこと。詳細は、以下をご参照ください。

日本人は見た目や体重で太っていなくても、異所性脂肪をため込んでしまっている人が少なくないと考えられます。現時点、異所性脂肪についてはまだ明らかになっていないことも多く、減らす方法などを含めて研究が進められています。今後の研究結果でさまざまなことがわかり、私たちの健康生活に役立つことを期待しましょう。

<参考資料>

  1. 小川佳宏 編「異所性脂肪<メタボリックシンドロームの新常識>」日本医事新報社, 2010
  2. 秋津壽男「本当に怖いのは、第三の脂肪」幻冬社, 2019
  3. 奥田昌子「内臓脂肪を最速で落とす 日本人最大の体質的弱点とその克服法」幻冬社, 2018
  4. 日本消化器学会・日本肝臓学会「NAFLD/NASH診療ガイドライン 2020」(改訂第2版)
  5. B H Goodpaster, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2001 Dec; 86(12): 5755-61.
  6. Ohkawara K et al. Int J Obes. 2007(31): 1786-97.
  7. 厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple-att/2r9852000002xpqt.pdf

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