vol.26 海外旅行...「持病」の備えは大丈夫ですか

はじめよう!
ヘルシーライフ

意外に多い海外での病気

夏休みなどを利用して、海外へ出かける中高年の人が増えています。高血圧や糖尿病、あるいはアレルギー疾患などの持病があっても、最近は海外旅行をする人が少なくありません。事前の準備をきちんとしておけば、ストレス解消などのメリットもあるので、健康面でのプラス効果も期待できるからです。 しかしその一方で、海外旅行中に病気にかかる中高年の人も増えています。外務省発表の「海外での日本人の死亡原因」をみますと、毎年500人前後が海外で亡くなっていて、原因別では病気が55%を占めトップとなっています(※1)。
海外旅行中の病気というと、腸チフスやコレラ、マラリアなどの感染症がまず連想されます。ところが実際には、死亡原因の大半が脳卒中や心筋梗塞なのです。中高年が旅行中に病気を発症する例が目立ってきたことから、大手の旅行会社では注意事項をまとめたパンフレットを作成したり、ホームページで注意を呼びかけるところも出てきています。
脳卒中や心筋梗塞の背景には、高血圧や糖尿病、動脈硬化などさまざまな病気があります。血圧や血糖値が少し高いという程度の人(いわゆる予備軍)でも、海外旅行中は環境の変化から思わぬ発作を起こすこともあるので、十分な注意が必要です。
持病のある方は、海外旅行に出かける前にしておくべきこと、現地で注意したいことなどをよく知った上で、万が一のときにもあわてずに対処できるように心がけておきましょう。

(※1)外務省統計(2004年度)によると、日本人の海外での死亡原因は病気(55%)、事故・災害(30%)、犯罪被害(4%)、その他(11%)となっています。

vol.26 海外旅行...「持病」の備えは大丈夫ですか

出かける前に気をつけたいこと

1.体調管理をする

血圧や血糖値が高い、あるいは不整脈やアレルギーがある人などの場合、海外旅行に出かける前にきちんと体調を管理しておくことが大切です。海外旅行中は時差や気候の変化、疲労、睡眠不足などが重なり、ちょっとしたことで血圧や血糖値、脈拍などが乱れやすくなるからです。ストレスや食事の違いなどから、アレルギーや下痢などを起こすこともあります。
持病がなくても、こうした旅行時の体調の変化に備え、出かける前はふだん以上に体調の管理をしっかりするようにしましょう。
出発前の数日は、仕事で無理をしたり、忙しく過ごさないようにすることも大切です。疲労した状態のままで海外へ行くと、環境の変化が加わって心臓や血管、肺などに負担がかかり、旅行者血栓症(エコノミークラス症候群)をはじめとした血管系の病気を起こしやすくなるからです(※2)。

2.病院での受診と保険

旅行前に病院を受診して自分のからだの状態を知り、医師からのアドバイスを受けておくことも必要です。
そのときに英文の診断書や、いつも飲んでいる薬の内容などを記した証明書(治療証明書)を書いてもらい、常に携帯しておくと安心です(※3)。カバンを紛失して薬が無くなったような場合、日本での薬の名称(商品名)や記号などを知っていても、海外では通用しません。
ぜんそくやアレルギー疾患がある場合も、その旨書いておいてもらいましょう。ぜんそくの発作のように、心臓発作と間違えやすい症状もあるので、診断書を持っていると適切な治療を受けやすくなります。
糖尿病の場合には、インスリン携帯証明書などのほか、医師に「糖尿病カード」を作成してもらいます(※4)。また低血糖を起こしたときの備えに、“自分は糖尿病であり、砂糖が必要であること”を各国語で示したカードを持参すると便利です(日本糖尿病協会が発行しています)。ほとんどの航空会社では糖尿病用の機内食が用意されているので、旅行会社に確認し事前に申し込んでおくようにしましょう。
海外で病院にかかる場合に備え、海外旅行保険にも入っておくほうが安心です。保険にはいろいろな種類があり、サービス内容にも違いがあるので、必ず自分の病気が対象となっているかどうか確認しておくことが大切です。

(※2)旅行者血栓症については、「はじめよう!ヘルシーライフ」のバックナンバー(vol.14「夏季旅行で気をつけたい「旅行者血栓症」」)をご参照ください。

(※3)英文の診断書には、氏名・住所・連絡先・パスポート番号などのほか、病名と簡単な治療歴、状態、使用している薬の名称(商品名でなく一般名)と内容、アレルギーの有無、かかりつけの医療機関名などを記入してもらいます。

(※4)「糖尿病カード」は、インスリンなど薬の種類、投与間隔、量などを英文で書いたもので、海外の病院でも適切な治療を受けるのに役立ちます。

薬などの準備について

持病がある場合には、いつも使っている薬を1週間分多めに持っていくようにします。事故や災害にあって、現地で動けなくなる場合もありえるからです(※5)。カバンを紛失した場合に備え、2つに分けて入れておくといいでしょう。
高血圧の場合には、携帯しやすい小型の血圧計を持参し、できれば毎日自分で測定するようにします。糖尿病の場合には、機内や旅行中の注射の方法や薬の投与間隔などについて、医師に確認しておいてください。
ぜんそくやアレルギー疾患がある人も、環境の変化から急に発作を起こすことがあります。しばらく発作がない場合でも、緊急時に備えて薬を持っていくほうが安心できます。

(※5)2001年9月に起きたニューヨークの世界貿易センタービルのテロ事件では、空港が閉鎖され多くの日本人旅行者が足止めされました。その際手持ちの薬が無くなり、また薬の名称もわからず、体調をくずした人が多かったことが伝えられています。

持病がなくても旅行中に注意したいこと

海外旅行のときには、生水や生ものを口にしないほうがいいことはよく知られています。細菌による感染症を防ぐためです。それは大切なことですが、飲み水を怖がるあまり、中高年の人にはあまり水を飲まない人が少なくありません。
旅行中は移動が多く自然に汗もかくので、十分に水分補給をしないと脱水症状を起こしかねません。移動がない旅行でも、ハワイなど南国では日本より日差しが強いため、海岸で寝ているうちに脱水症状を起こすこともあるので注意が必要です。
体内の水分が不足すると、血液もドロドロになり血栓ができやすく、脳卒中や心筋梗塞の原因ともなります。
また、旅行中にはいろいろな原因から下痢を起こす人もたくさんいます。下痢になるとさらに飲み水を避けがちですが、それも脱水症状を起こす原因となります。むしろいつもよりしっかり水分を補給する必要があります。
旅行中はミネラルウォーターを必ず持ち歩き、のどが渇かなくても定期的に飲むようにします。携帯用の湯沸かし器を持っていき、煮沸した水を飲むようにするのもいい方法です。
食事面では生ものに注意するだけでなく、塩分の多い食事や食べすぎ、飲みすぎにも気をつける必要があります。またつい調子にのり、珍しいものなどを食べすぎる傾向があります。
ところが慣れない食事が多いため、知らないうちに塩分や油分のとりすぎ、カロリーオーバーになりがちです。それが体調をくずすきっかけになりかねないので、腹八分目を心がけましょう。

ミニコラム

最近の中高年の海外旅行では、ヨーロッパアルプスなどでの登山やハイキングがちょっとしたブームにもなっています。ところが高地の環境にからだが慣れないまま登山をして、高山病にかかったり、疲労から倒れるケースも目立っています。できれば現地で1~2泊してからだを慣らして様子をみたり、体調が不十分な場合は登山などを取りやめる勇気をもつことも大切です。
一般に、慣れない高地では心臓への負担が大きく、呼吸数も増えるなど、血管系・呼吸器系の病気のリスクが高まります。とくに高齢者は、標高1500m程度の高原でも高山病を起こすことがあります。頭痛、吐き気、疲労感などがあったら、からだからのシグナルととらえ、からだを休めたり、早めに治療を受けるようにしましょう。

倒れたときの対処法

脳卒中や心筋梗塞で倒れた場合には、専門病院で早く治療を受ける必要があります。
旅行ガイドなどには、病院を探すときの基準として、「日本語が通じること、保険がきくこと」などがあげられています。確かに海外で病院にかかると、治療内容などがわからない上、想像を超える費用を請求されることがあります。
しかし脳卒中や心筋梗塞の場合には、条件の揃った病院を探していると手遅れになりかねません。ツアーの添乗員や旅行会社の担当者、ホテルのフロントなどにまず救急車を呼んでもらうようにしましょう。救急車を呼べば、時間を短縮できるだけでなく、症状から判断して適切な専門病院に運んでくれるからです。
患者を救急車で運ぶときには、先ほど紹介した英文の診断書を持参し、病院の医師に見せることも忘れずに。

ミニコラム

海外旅行に出かける中高年の増加に合わせ、旅行会社でも熟年向けのツアープランを企画するところが多くなっています。熟年向けといっても、かつて多かった豪華で費用のかかる旅行という意味ではなく、最近は健康面に重点をおき、日程にゆとりをもたせ、高齢者の体力などに合わせたものがあります。
出発前日は空港近くのホテルに泊まる、定員を少人数にし移動のバスもゆったり座れるようにする、1ヵ所2泊を基本とする、荷物は無料で集配する、ベテランの添乗員やガイドをつけるなど、さまざまな配慮がみられます。
こうしたプランを利用し、無理をせずに旅行をすることも、持病のある人にはいい方法です。

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

商品を見る