vol.58 股関節(こかんせつ)を鍛えてスムーズな歩きを
ヘルシーライフ
動きの基本は股関節から
股(また)という言葉から、いわゆる股間のあたりを連想する人が多いようです。実際にはもう少し奥のお尻に近いあたりで、太ももの骨が骨盤と接する部分の関節が、股関節です(※1)。
そのため股関節に障害が起こると、お尻や太もも、腰のあたりに痛みが生じやすくなります。また、歩き方にも影響が出て、ひざにも負担がかかります。坐骨神経痛や腰痛、あるいはひざ痛などと間違えやすいのですが、実はおおもとの原因が股関節にあることも少なくありません。
股関節は、日常のすべての動作に影響する大切な部分です。例えば歩いたり、階段を上ったり、いすから立ったりといった動作は、股関節がうまく動くことで初めてスムーズな動きをすることができます。
ゴルフや野球などのスイングをする場合も、ほとんどの人は腰の動きと思っていますが、基本となるのは股関節です。股関節がうまく動かないと、腰もスムーズに回転しません。
ところが加齢とともに、だれでも股関節の動きが悪くなります。その理由に次の2つが挙げられます。
(1) 股関節や周囲の筋肉などが硬くなる。
(2) 股関節を支える筋肉が弱る。
その結果、股関節にかかる負担が大きくなり、日常の動作や歩行に支障をきたすようになります。痛みが出てから股関節の障害に気付くことが多いのですが、もし次のようなサインがみられたら注意しましょう。
- 歩幅が狭くなった(大また歩きがしにくい)。
- 平らなところでつまずく。
- いすから立つとき、机やひざなどに手をつく。
- 階段が上りづらい(なめらかに足が上がらない)。
(※1)股関節とは、医学的に正確にいうと、骨盤寛骨臼(こつばんかんこくきゅう)と大腿骨頭(だいたいこっとう)からなる関節のことです。
増えている股関節症
原因の多くは、先天性のものです。もともと日本人には股関節の脱臼や発育不全などを起こしている人が多いからです(※2)。
若いときには骨や筋肉が股関節をサポートしてくれているので、あまり影響は出ません。ところが中高年になって太ったり、骨密度が低下したり、筋肉量が減少するにつれ、股関節への負担が大きくなります。その結果、日常のちょっとした動きで痛みを生じるようになります。
変形性股関節症の初期には、坐骨神経痛や腰痛、ひざ痛などがよくみられます。運動をするたびに、同じところが痛くなるケースもみられます。
放置していると、股関節の周囲の筋肉などが硬くなり、動かせる範囲が狭くなります。靴下を履く、足の爪を切るといった動作がしにくくなったり、痛い足を無意識にかばって歩き方が不安定になり、左右にふらついたりもします。
さらに悪化すると痛みで歩けなくなり、手術が必要となりかねません。できれば坐骨神経痛やひざ痛などを繰り返す早い段階で受診し、エックス線検査などで股関節の状態を調べておくことが大切です(※3)。
(※2)幼児期からの股関節の障害として、先天性股関節脱臼(せんてんせいこかんせつだっきゅう)や臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)などがあります。前者は骨盤と大腿骨がずれているもの、後者は大腿骨とつながる骨盤部分に問題があるケースで、どちらも女性に多くみられます。
(※3)病院で変形性股関節症と診断された場合、治療法には進行の程度に応じて「運動療法」「温熱療法」「薬物療法」「手術療法」などがあります。手術にもいろいろな方法があるので、医師とよく相談して決めましょう。
股関節の運動を続けましょう
ここでは初期段階の人…歩いたり階段を上るときに股関節にちょっと違和感をおぼえたり、坐骨神経痛などを繰り返す人のための、予防運動を紹介します(※4)。
運動の基本は、ストレッチと筋肉運動の2つです。
<ストレッチ編>
加齢や運動不足などが原因で、股関節は硬くなり、動きにくくなります。ストレッチをすることで、股関節の柔軟性が高まります。
股関節ストレッチ
(1) 床に座って、両足を大きく広げます(無理をしない程度に)。
(2) 足の親指側を内側に倒すようにしながら、足を内回転させます(1、2、3、4と数えながら、親指を床に近づけます)。
(3) 反対に足の小指側を外側に倒しながら、足を外回転させます(1、2、3、4と数えながら、小指を床に近づけます)。
(4) 上記の運動を、1度に5~6回繰り返します(1日2~3度)。運動中は息を止めず、ゆっくり呼吸しましょう。
この運動をしてみると、股関節が硬くなっていることに驚く人も多いはずです。やりすぎないように、毎日少しずつ続けましょう。
この運動に慣れてきたら、(1)の状態からからだを少しずつ前へ倒す運動を取り入れます。いきなり強く前に倒すと、お尻の筋肉や腰に負担をかけるので、ゆっくり動かしましょう。
(※4)すでに股関節に強い痛みがある人や、股関節部分に熱をもった感じがする人の場合、運動によって悪化させることもあります。医師の指導を受けてから運動をはじめてください。
<筋肉運動編>
股関節周辺の筋肉を鍛えてサポート力を高めると、股関節への負担を軽くすることができます。代表的な運動がスクワットです。
ひざを曲げるスクワット
ひざなどに強い痛みがない場合の運動です。
(1) 立った姿勢で足を肩幅くらいに広げ、足先を少し外側に開きます。
(2) 両手を頭の後ろで組み、正面を見たまま、ひざをゆっくり曲げていきます(息を止めないこと)。
(3) ひざを曲げた姿勢を1秒間ほどキープし、ゆっくり伸ばします(最初のうちはキープせず、曲げて伸ばすだけでもかまいません)。
(4) この動作を20~50回程度繰り返します(回数は年齢や体力などによって異なります。少しずつ増やしてください)。
ひざを曲げるとき、姿勢が前かがみになると、腰やひざに余分な負担がかかります。これを防ぐには、壁の30cmほど前に立ち、手を前に出して壁に沿わせながらひざを曲げると、姿勢が安定します。
ひざを曲げる角度が大きく、またキープする時間が長いほど、運動はきつくなります。最初は無理をせず、ひざは軽く曲げ、すぐに伸ばすやり方でもかまいません。
痛みがある場合は水中運動で
股関節や腰、ひざなどにすでに痛みがある場合、いきなりスクワットをすると悪化させることもあります。股関節などに負担がかかりにくい、プールでの水中歩行運動からはじめるといいでしょう。
ただし、平泳ぎをしたり、水の流れに逆らって歩いたりすると、かえって股関節に負担をかけてしまいます。自己流でなく、かならず指導スタッフのいるプールで行ってください。また、水中運動は心臓に負担をかけることもあるので、心臓疾患や高血圧の人は、事前に医師に相談をしましょう(プールでの運動については、「はじめよう!ヘルシーライフ Vol.11」もご参照ください)。
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痛みのワンポイント・ケア
股関節痛の改善には、生活上の注意も大切です。
洋式の生活(ベッド、洋式トイレ、いす)に切り替える……洋式生活のほうが、股関節への負担が少なく、痛みの軽減に役立ちます。
温める……お風呂などで温めると、股関節周辺の血流がよくなり、痛みもやわらぎます。ただし、腫れや熱っぽい感じがあるときは、温めると炎症が悪化しやすいので、シャワー程度にしておきましょう。
薬を上手に使う……鎮痛薬(飲み薬)を長期間使うと、胃腸障害などを起こしやすくなります。坐薬と併用するなどの方法を、医師と相談しましょう。
※このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。