vol.154 「成長スパート」を知って、身長を伸ばそう

健康・医療トピックス

身長がもっと高かったら…。大人になってこのように考えた人も多いと思いますが、さまざまなスポーツで身長の高いアスリートの活躍が目立っています。2020年の東京オリンピックに向けて盛り上がりが高まるなか、研究者の間では身長の高い女性アスリートをどう育てるかが課題の一つになっています。2016年2月に開催された「女性アスリートヘルスサポートセミナー2016」では、成長期に身長を伸ばすにはどうしたらいいか、研究に基づいた留意点などが発表されました。

vol.154 「成長スパート」を知って、身長を伸ばそう

成長スパートとは

身長は、急激に伸びる時期が2回あることをご存知でしょうか。赤ちゃんの頃の第一次性徴と思春期の第二次性徴です。思春期の急激な身長の伸びは、「成長スパート」と呼ばれています。成長スパートの開始年齢は、個人差がありますが女子では11歳、男子は13歳頃にピークになります。この時期は身長が8~9cmも伸び、子どもから大人へと体が大きく成長します。この成長スパートに気づかずに過ごしている人が多いため、学校の部活動などでスポーツをしている女子や、大会で活躍する女性アスリート(競技者)を目指している人は、早いうちから成長スパートを知ってほしいと研究者たちが呼びかけています。

身長を伸ばすには、どうしたらいいか

身長は、両親から受け継いだ遺伝的な素因で9割以上が決まるといわれています。しかし、姉妹で身長が違うことはよくあること。その差はどこからくるのでしょうか。婦人科医で日本を代表する女子サッカーチームのスポーツドクターも務める西別府病院 スポーツ医学センター長の松田貴雄さんは、身長の伸びには、素因を動かす環境要因が関わっていると話します。「予測身長は両親の身長から求められます。予測身長よりも身長を伸ばすには、成長ピークの前に運動や遊びで体を動かすことが大切です。高く跳ぶには、ジャンプした方が高く跳べます。これと同じように体にも準備があって、身長を高く伸ばすことができます。身長が急激に伸びるときには、体重増加がちょっと停滞する時期があります」。つまり、小学3年生、4年生の頃は、大人しく読書やゲームをしているより活発なおてんば娘で過ごした方が、身長を高く伸ばせるようです。
ちなみに男子は、成長スパートが女子より2年遅れます。スポーツをする子どもは、小学校の高学年頃から始めることが多く、男子では成長スパートの時期と重なるため、男子に対しては成長スパートを意識するように、とはあえて言わなくてもよいそうです。むしろ、身長が伸びるときに激しい運動をするとケガをしやすいので、気をつけましょう。

身長を記録して成長スパートを見逃さない

現在、日本人の成人女性の平均身長は158cmといわれています。松田さんによると169cm以上の女性は1000人中23人、174cm以上は1000人に1人。スポーツで活躍する女性の身長を高くするには、長期的な展望が必要と見られています。
成長スパートは、定期的に身長を測定することで簡単に知ることができます。横軸に年齢、縦軸に成長率(cm/年)のグラフを作成し、成長の変化を表す成長曲線が大きく上昇したときが、成長スパートに突入したということ。骨は成長する時期が限られるため、身長は大人になるともう伸びません。予測身長より高く伸ばしたいなら、自分の成長スパートを見逃さないようにしましょう。
なお、順天堂大学と西別府病院では、両親の身長と、本人の身長と体重を入力することで、身長、体重、成長率の変化がグラフになる「スラリちゃん、Height!」というソフトウエアを共同開発で考案。成長の状況がひと目で観察できるほか、成長スパートが始まったときや体重減少がみられたときは、メッセージが届くしくみになっています。

筋肉の増加で起こるエネルギー不足

女子アスリートは、「エネルギー不足」、「無月経」、「疲労骨折」の三主徴が多いと指摘されています。とくにエネルギー不足は、成長や不調の根本に関わります。エネルギーが不足すると体は自らのたんぱく質を使ってエネルギーを作り出しますが、このような状態は、せっかく建てた家を壊して、燃やしているのと同じ。エネルギーを十分に摂ることは、スポーツをする女性にとって非常に大切だと、松田さんは強調します。
また、最近の研究では、身長が高いと筋肉量が多いことや、筋肉量が多い人ほど肝臓の貯蔵鉄が下がり、貧血になりやすいことがわかっているということです。松田さんによると鉄6mgの摂取は1000kcalの食事と相関し、女子アスリートに必要な12mgの鉄を摂るためには、2000kcalを摂取しないとエネルギー不足を起こすとのことです。「無月経はエネルギー不足のサイン。例えるなら、ウルトラマンのカラータイマーが鳴っている状況です。身長が160cmと170cmの人では、筋肉量は片脚だけで1kgも違います。身長が高いと筋肉量が多くなり、基礎代謝も増えます。運動をするとエネルギー消費はさらに増えます。身長が高い女子は、筋肉の増加からエネルギー不足が起こり、貧血や無月経になることがあるので、自分の体を把握しておくことが大事です」。

監修 独立行政法人 国立病院機構 西別府病院
スポーツ医学センター長 松田 貴雄先生

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