vol.169 骨折しない体づくりのコツと「骨粗鬆症」

健康・医療トピックス

日本人の平均寿命は、女性86.99歳、男性80.75歳。厚生労働省が5年ごとに公表している「完全生命表」で明らかになったもので、前回の2010年の調査より女性は0.69歳、男性は1.20歳延びています。日本人女性の平均寿命は、今後も延びて90代になると予測されています。ただ、元気な60代、70代、80代以上が増えている一方で、90代になって骨折する人が増えています。高齢者の骨折は回復に時間がかかり、寝たきりや介護を招く原因にもなります。長生きしても骨折しない、生涯にわたってよく動く体を維持するには、どのようなことが大切なのでしょうか。

vol.169 骨折しない体づくりのコツと「骨粗鬆症」

運動機能を維持して転倒を予防

高齢期のロコモティブシンドロームの予防には、運動による運動機能の維持が推奨されています。高齢になると骨密度が低下して、骨粗鬆症になりやすくなります。また、その骨折の多くは、転倒によって起きています。そこで、全身の運動機能の維持と骨粗鬆症の予防と治療が重要です。骨粗鬆症に詳しい伊奈病院 整形外科の石橋英明部長は、転倒による骨折予防には、「筋肉」「バランス」「柔軟性」「俊敏性」の4つのポイントがあると話します。まずは、運動機能の維持に欠かせない要点について紹介しましょう。

  • 筋肉
    筋肉は下半身がとくに大事です。運動をすることは、筋力の強化につながります。スクワットやダンベル、マシンを使ったトレーニングなどがいいでしょう。
  • バランス
    1分間の片足立ちや片足立ちが入った運動、上り下りするステップ運動が効果的です。
  • 柔軟性
    背中が丸くなって前かがみになると、つまずいたときに倒れやすくなります。高齢になると背筋が大事です。お腹をひっこめて胸を張るような姿勢をしましょう。うつ伏せになって上体をそらす運動を行うと背筋が柔軟になり、よい姿勢が維持できます。
  • 俊敏性
    速い動きが入った運動をしましょう。30秒間で椅子の立ち座りが何回できるか。回数が多いほど瞬発力があります。可能ならば、エアロビクスのような運動がおすすめです。

骨を強くする運動をしよう

また、骨折を防ぐには、骨の強度を上げる運動が大事です。そのためには、骨に負荷や衝撃のかかる運動がよいということです。たとえば、ゆっくりしたウォーキングより速歩き、速歩きよりジョギングの方が骨には負荷がかかります。衝撃のかかる運動とは、飛び跳ねたり、踵を上げてポンと落としたりする踵落とし(ヒールドロップ)などです。
骨量は、女性では18歳、男性は20歳くらいまでにピークになり、中高年になると減っていきます。若いうちから自分の骨量を知って、運動機能を維持しましょう。また、ふだん運動をしていない人が、60代になっていきなり始めるのは大変です。負荷や衝撃のかかる運動は、50代までに運動習慣をつけましょう。それが元気な60~90代につながります。

若い人にも発症する「骨粗鬆症」

女性の場合、女性ホルモンのエストロゲンが減少すると骨量も減りやすいため、骨粗鬆症は、閉経後の女性に多く発症します。しかし、中高年だけに限った病気ではありません。妊娠中と授乳中はカルシウムが消費されるため、骨が弱くなって圧迫骨折を起こすことがあります。このような骨折を「妊娠骨粗鬆症」といいます。20~30代の人では、健診で骨密度を知る機会がなく、骨が弱っていても症状がないことから、骨密度の低下は気づきにくいものです。20代のうちから骨の健康を意識しましょう。
骨の総合的な健康管理は、「運動」「栄養」「薬」の3つが基本です。骨の栄養は、たんぱく質、カルシウム、ビタミンD、ビタミンK、ビタミンB12、葉酸が十分に足りていることが重要です。ただし、必要以上に栄養を取ったからといって、骨がさらに強くなるわけではありません。遺伝的に骨が弱いという人もいます。検査で骨密度が低いと分かったときは、治療することが大切です。

知っておきたい治療薬の注意点

骨粗鬆症の治療薬は、ビスホスホネート、デノスマブ、副甲状腺ホルモン薬、骨に栄養素を補うためのカルシウム薬、活性型ビタミンD3薬、ビタミンK2薬などがあります。ビスホスホネートやデノスマブは、骨を壊す破骨細胞の働きを抑制して、骨量を増やす効果があります。骨粗鬆症の治療によく用いられる薬ですが、長期間服用した患者に顎骨壊死の副作用が起きることが報告されています。これは、歯科治療などで細菌感染した場合に治りが悪く、骨髄炎になった状態のことです。「顎骨壊死が起きる発生率は、患者1万人に対して1人。薬の副作用としては、非常に頻度が少ないといえます。ビスホスホネートは3年未満の服用では、まず心配はないと思います。骨粗鬆症の人では、顎の骨も弱くなり、歯周病になっている可能性もあります。骨粗鬆症と診断された時点で、積極的に歯科医の診察を受けた方がいいでしょう」(石橋部長)。
顎骨壊死を心配するあまり、骨粗鬆症の治療をやめてしまう人もいるようです。治療を受けるときは、副作用を正しく理解して注意しましょう。そして、過剰に怖がるのではなく、歯の状態をよく知って、口腔内を清潔に保つようにしましょう。
監修 伊奈病院 整形外科部長 石橋 英明先生

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