vol.192 気をつけたい女性の飲酒と「アルコール依存症」

健康・医療トピックス

若者のお酒離れが話題になっていますが、女性の飲酒率は上がっています。2017年に日本酒造組合中央会が実施した『日本人の飲酒動向調査』によると、女性の飲酒率は30年前に比べて約20%増加しています。社会進出や経済的な自立などで特に若い女性の飲酒が増えていますが、アルコールは女性の体にさまざまなリスクがあり、そのことはあまり知られていません。お酒だけがストレス解消や気分転換という人は、注意したいもの。節度あるお酒とのつき合い方が大切です。

vol.192 気をつけたい女性の飲酒と「アルコール依存症」

女性はお酒に弱くできている

お酒を飲むと体内でアルコールが分解されますが、その速度は男女で違いがあります。女性のアルコール問題に詳しい国立病院機構 久里浜医療センターの岩原千絵医師は、「そもそも女性は、お酒に弱くできている」と話します。アルコール1時間当たりの分解速度は、男性が8g。これに対して女性の平均は6gですが、分解が遅いことを考慮して4gが安全と考えられています。 また、お酒を飲むとアルコールは体内の水分で薄められます。ところが、女性は男性より筋肉量が少ないため、体内でアルコールが薄まりにくいといいます。「男性と同じ量では女性の方が多くアルコールを飲んだのと同じになります。そのため、酩酊(めいてい)しやすいなどアルコールの影響が起きやすいのです」。

飲酒で乳がんのリスクが上がる

お酒の飲み過ぎは、病気にも関係します。WHO(世界保健機関)は、2007年に飲酒に関連する7つのがんを発表していますが、女性の飲酒は、乳がんのリスクを高めることが分かっています。「女性は、1日に純アルコールが10g(ワイングラス1杯分)増えるごとに乳がんのリスクが7.1%増えます。また、アルコールは骨密度を低下させます。女性は、多量飲酒と閉経の2つの要素で骨粗しょう症になりやすいわけです」。

おなかの赤ちゃんにも影響する

また、飲酒は赤ちゃんにも影響します。胎児性アルコール症候群(FAS)は、妊娠中の母親の飲酒が原因です。FASの診断基準の一つは妊娠期の母親の飲酒ですが、赤ちゃんの特徴的な顔立ちなども診断基準になっています。また、FASではなくても出生後にアルコールの影響が出ることがあり、それは胎児性アルコール・スペクトラム(FASD)という病名で呼ばれています。「小学生になったらじっと座っていられないなど、広範囲に影響が残るといわれています。日本では、こうした研究がされていないので、きちんと調査することが大切だと思います」(岩原医師)。

女性のアルコール依存症が増えている

久里浜医療センターの調査によると、アルコール依存症の有病率の推移は、2013年の男女の合計が107万人。女性のアルコール依存症は13万人で10年前の1.6倍に増えています。アルコール依存症は、お酒のコントロールが利かなくなる病気で、離脱症状が表れると気分が落ち込んだり、落ち着かなくなったりします。自分で精神を安定させようとしてお酒を飲み始め、それが止められなくなり、「飲酒量が守れない」「体に良くないと分かっていても飲む」「離婚すると言われているのに飲んでしまう」などの症状が出ます。女性は「キッチンで飲酒が止められない」という場合もあり、これらは依存症の疑いがあります。

飲酒の問題は相談しよう

一般的にアルコール依存症は、お酒にだらしなく、自堕落な人生を送っている人のイメージがありますが、アメリカの統計によると、仕事をしている人が50%と多く、社会的な身分や地位はいわゆる普通の人と同じと言われています。日本では、女性の入院患者の最多は30歳代で、仕事や子育てをしているごく普通の女性の中にアルコール依存症がいるのではないか、と岩原医師はみています。「男性と飲んでいるうちにお酒に強くなる女性もいますが、女性のアルコール依存症は、夫の多量飲酒やDV(ドメスティック・バイオレンス)など環境要因の影響が大きいといわれています。メンタルの不調を合併しやすいことも女性の特徴です」。
アルコール依存症は、受診先が分からなかったり、病気と思わずに暮らしていたりして、診療を受けていない人が多いとみられています。自分や家族の依存症が気になったら、まずは都道府県の精神保健福祉センターに問い合わせ、アルコールの診療に詳しい医療機関などに相談してみましょう。

お酒との上手なつき合い方

厚生労働省の『健康日本21』では、「節度ある適度な飲酒」を1日平均約20g(純アルコール)としています。しかし、女性は男性の飲酒量の半分で肝障害をきたし、短期間で脂肪肝や肝硬変になりやすいことから、女性の節度ある飲酒量は、1日10~13g(純アルコール)程度と岩原医師は強調します。ビールや発泡酒(5%)は、ロング缶の半量(250ml)、ワイン(12%)はグラス1杯(100ml)が目安です。週2日は休肝日にしましょう。
また、妊娠中、授乳中は赤ちゃんに影響するので飲酒は止めることが大事です。「20歳未満の飲酒が禁止されているのは、若いうちからお酒を飲むとアルコール依存症になるリスクが高まるからです。法律的に飲める年齢になっても、女性はお酒に弱いことやお酒のリスクを知った上で自分を傷つけない飲み方を実践してほしいと思います」

監修 国立病院機構 久里浜医療センター 精神科専門医・認知症専門医 岩原 千絵先生
取材・文 阿部 あつか

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