歩くと脚が痛い...閉塞性動脈硬化症に要注意
脚の病気? いえ、血管の病気です
普段と同じように歩いていたら、ももやふくらはぎが痛くなって歩けなくなった。しばらく休むと歩けるが、また痛くなった。そんな症状がみられたら、閉塞性(へいそくせい)動脈硬化症(ASO)の疑いがあります。少し難しい病名ですが、「脚の血管にあらわれた動脈硬化」のことです。
はじめに紹介した症状は、「間歇性跛行(かんけつせいはこう)」といって、この病気の典型的な症状の一つ。最初のうちは痛みも強くなく、少し休むと治まるので、一時的なものだろうと思いがちです。脚にシップをしたり、マッサージしたりして対処する人も多いのですが、この病気は動脈硬化による血管の詰まりが原因なので、そうした方法ではなかなか改善されません。動脈硬化を起こしやすい場所は、脚の付け根の近くと太もも、すねなどの血管です。同時に数カ所というケースもあります。
放置していると、歩く→痛む→休む→歩く→痛む→休む…を繰り返すようになり、次第に歩ける距離が短くなります。やがて、歩いていないときでも痛みが出るようになります。さらに、脚に潰瘍(かいよう)ができて治らない状態になり、決して脅かすわけではありませんが、脚を切断しなければならない場合もあるのです(※1)。特に、中高年の男性に多くみられるので、40代半ばになったら注意が必要です。
(※1)初期症状を放置していると、その後の5年間で2~5%の人が脚の切断に至る可能性があります。
初期症状に注意を
歩く→痛む→休む…の繰り返しは、病気に気づく重要なサインですが、実は、その段階では動脈硬化がかなり進んでいます。
では、もっと初期の症状は何なのでしょうか。それは冷えです。冷えというと女性の病気と思うかもしれませんが、中高年の男性でも動脈硬化による冷えが起こります。血管が詰まると血液の流れが悪くなり、温まりにくくなるのが原因です。
特に冬場は、暖房をしていても足元がなんとなく寒く感じるので、冷えを自覚しやすい季節です。反対に夏は、冷房に当たるとすぐに足元が冷たくなり、冷房が苦手になります。今まで冷えを経験したことのない人が、こうした症状を感じたら要注意です。また、歩いているときに、脚に軽いしびれを感じるケースもあり、この場合にも注意が必要です。
こうした症状がみられたら、一度受診することをお勧めします。病院では、閉塞性動脈硬化症の診断には血圧比検査(ABI)が行われます。これは、脚(足首)と腕(上腕)の収縮期血圧(最高血圧)を比較する検査です(※2)。
健康な人では、腕よりも脚の血圧のほうが高いのが普通です。「足首の血圧÷上腕の血圧」が0.9未満だと、疑いがありとされ、さらに詳しい検査(造影剤検査など)が行われます(※3)。
なお、間違えやすい病気として、腰部の脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)や糖尿病による神経障害があります。歩いているときの痛みなど似た症状がみられますが、血圧比検査で区別できるので、自己診断せず医師に相談することが大切です。
(※2)血圧比検査は、足首と上腕の収縮期血圧を同時に測る検査で、病院にもよりますが15分程度ですみます。自覚症状がほとんどない場合でも血圧比検査によって診断できるので、おかしいと思ったら早めに受診してください。
(※3)「足首の血圧÷上腕の血圧」が0.9未満になると、動脈硬化が起こっている血管の太さ(内径)は、通常の2~3割程度になっています。つまり、血管がかなり詰まっている状態だといえます。
脳卒中や心筋梗塞のリスクも高い
閉塞性動脈硬化症にはもう一つ、とても怖い面があります。それはこの病気と診断された段階で、脚だけでなく、脳や心臓などの血管にも動脈硬化が及んでいることです。つまり、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高い状態になっているのです。
閉塞性動脈硬化症の5年相対生存率は約70%で、大腸がんとほとんど変わりません(※4)。その割に病名があまり知られていないのは、閉塞性動脈硬化症そのものよりも、脳卒中や心筋梗塞などが原因で亡くなることが多いからです。脚が痛いだけだと放置している間に、受診が遅れ、動脈硬化が進んでしまうのです。
できれば冷えの段階で変化に気づき、受診してしかるべき対処をすることが望まれます。遅くとも、歩く→痛む→休む…の繰り返しが起こった場合には、すぐに受診することが大切です。そのときに全身の動脈硬化についても、検査を受けておくほうが安心といえます。
また、閉塞性動脈硬化症と診断された人には、高血圧や糖尿病を併発している人が少なくありません。いずれも動脈硬化の要因となる病気です。それだけに血圧や血糖値が高めの人は、閉塞性動脈硬化症にも充分に気をつけることが大切です。
(※4)TASCII Working Group / 日本脈管学会訳:下肢閉塞性動脈硬化症の診断・治療指針II (日本脈管学会編)、P1-109(メディカルトリビューン社、2007)より
予防は日ごろの運動から
動脈硬化は血管の老化ともいわれ、誰にでも起こることです。ただし、老化の速度は、人によってかなり違います。日ごろから生活に気をつけ、動脈硬化になりにくくすることが、閉塞性動脈硬化症の予防につながります。
特に、この病気は脚に症状が出るため、脚の運動によって血液循環をよくすることが大切です。病院では症状に応じて、血流を改善する薬などを用いた薬物治療のほか、運動療法として、医師の指導でウォーキングや自転車こぎなどが取り入れられます。
症状の改善や予防のためには、週に3回以上、30分~1時間程度のウォーキングが推奨されています。歩くことは、高血圧や糖尿病の改善にもつながるので、ぜひ毎日の習慣にしましょう。ただし、すでに歩くと痛む症状が出ている場合には、まず検査を受け、医師の指導を受けてください。
病気が重症化している場合には、カテーテルで患部の血管を広げる手術や、人工血管に替える手術などが行われます。最近では、一部の医療機関において、細胞移植による血管再生治療も実施されており、有効性が認められていますが、いくつかの制約がありすべての患者には適応できません。
いずれの場合にも退院後は、ウォーキングなどの運動によって再発を防ぐことが重要です(退院後の運動については、医師の指導をきちんと守ってください)。また、喫煙やストレスも、動脈硬化を促進する要因になります。タバコを控え、積極的に気分転換するなど、生活を見直すようにしましょう。
参照URL
『先進医療の現場から』先進医療.net
https://www.senshiniryo.net/repo/27/index.html
更新日:2021.05.28
※このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。
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