血管の老化を防ぐ物質「NO」って何?

不整脈・心房細動 予防・対策・生活改善

脳卒中や心筋梗塞を防ぐために、やわらかくしなやかな血管を保つこと、すなわち血管老化を防ぐ方法はいくつかありますが、NO(エヌオー:一酸化窒素)の産生を増やすこともその1つです。血管内で発生するこのNOという物質は、血管を柔らかくすることが分かっています1)。運動不足が気になり、運動能力に自信がなくなる中高年でも、簡単な日常動作でNOを産生させることができます。さらに、NOの産生を増やす食事をとることで効果が高まります。極寒の時期や真夏の暑い時期でも、家の中でできることから積極的に行い、血管の老化を防いでいきましょう。

NOは血管を若々しく保つための鍵

血管は加齢とともに硬くなり、しなやかさを失っていきます。これは血圧が高くなる大きな原因の一つとして考えられています。血管は外膜、中膜、内膜の3つの層で構成されており2)、中膜は平滑筋という筋肉でできているため、他の筋肉と同じように加齢ととともに硬くなっていきます。そこで、血管の老化を食い止めることが重要となりますが、血管は腹筋や背筋などどの骨格筋と違い、マッサージやストレッチで伸ばして鍛えることが困難です。 そこで、血管老化の鍵となるのが、「NO」です。

ところで、NOとは何でしょうか?
窒素(N)と酸素(O)が結合した窒素酸化物は、古くから大気汚染の原因物質として知られているため、印象が悪いかもしれません。ところが、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部薬理学教授のルイス・J・イグナロ博士らの研究で、NOは血管の筋肉をゆるめて血管を拡張する物質であること、そして体内でさまざまな生理機能を担っていることが分かったのです1)3)。ルイス博士らは、1998年にこの研究でノーベル医学・生理学賞を受賞しました。それほどまでにNOの発見は画期的だったといえます。

vol.188 血管の老化を防ぐ物質「NO」って何?

筋肉を動かすことでNOの産生が増大

NOは血管の内皮細胞から産生されます。どのようなタイミングで産生が増えるかというと、血流が加速されるときです。血流がよくなると、NO産生に重要な酵素が働き、NOの合成を促します1)。血流をよくするには運動が効果的ですが、極寒の季節や真夏の炎天下で激しい運動をがんばることはオススメできません。
しかし、NOの産生は簡単な運動でも可能です。

NOは、筋肉を硬直させることで一度血流を悪くしてから一気にゆるめると、血流が加速されてNOの分泌が増えます。そのため、ストレッチを行う時には、キツイと感じる体勢で10秒ほどキープし、その後ゆるめるという動きが効果的です。また、激しいストレッチでなくても、手のひらを合わせて力を入れて押し合って急に緩める、お腹や脚に力を入れてふっと緩めるなどでも、1日に数回行うことでNO産生を増加することができます。力を入れる時間は5秒くらいから始めて徐々に長くしていきましょう3)

日常生活の中でも、NOを増やす機会は多々あります。寒い季節であっても座ってばかりいないで積極的に歩きましょう。屋外に出る必要はなく、部屋の中でかまいません。下半身の筋肉を動かし、座らない生活をすることがNOの産生を増やすことにつながります4)。研究によると、座っている時間が長いほど死亡リスクが上昇することがわかっています(J-MICC STUDY)5)

ふくらはぎは、「第二の心臓」といわれ、脚の血液を循環させ心臓に戻すポンプのような役割があります。歩くことでふくらはぎを使い、NOの分泌を促します。歩く時間のない方や、足腰が痛くて歩くのがつらい方には、より手軽にできる方法もあります。平らな床でデスクなどつかまるところがある安全な場所で、膝を曲げずにかかとを上げて、つま先立ちになります。かかとを下ろしたら、今度はつま先の方を上げてかかとで立つ、これを2分程度繰り返します。これを1日3回ほど(朝・昼・夜)行うと効果的です4)。家事や仕事の間などでも簡単にできますので是非実践してみてください。

タンパク質と抗酸化物質が豊富な食事をとり、NO産生を助けよう

NOの産生を増やすためには、食事も重要です。NOは、L-アルギニンというアミノ酸から作られ、同じくアミノ酸のL-シトルリンも密接に関連していることがわかっています。アミノ酸はタンパク質の構成要素です。タンパク質が豊富な食品をとることが重要で、L-アルギニンが含有される食品として、赤肉、魚、鶏肉、豆、大豆、ナッツがおすすめです1)

また抗酸化物質はNOを保護することが分かっています1)。抗酸化作用として働く栄養素は、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどで、タンパク質が豊富な食品と同様に、意識してとるようにしましょう。

さらに葉酸とαリポ酸もNOを増やすことに役立ちます。タンパク質、抗酸化物質、葉酸やαリポ酸は、食品から十分な量がとれない時は、サプリメントなどをうまく活用しながら補っていきましょう1)

暑さ寒さの厳しい時期は、家の中に閉じこもりがちになりますが、動かないでじっとしていると血管の老化がどんどん進んでしまいます。家でもできることから始めて、NO産生を増やし、強くしなやかな血管を保っていきましょう。

<参考資料>

  1. ルイス・J・イグナロ「NOでアンチエイジング」日経BP出版センター(2007)
  2. 平島正則. 日門亢会誌, 2020(26):9-12
  3. 加藤雅俊「1日1分で血圧は下がる!」講談社(2018)
  4. 池谷敏郎「図解 『血管を鍛える』と超健康になる!」三笠書房(2018)
  5. Koyama, et al. J Am Heart Assoc. 2021 Jul 6;10(13):e018293. doi: 10.1161/JAHA.120.018293. Epub 2021 Jun 14.

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

関連コラム

商品を見る