vol.119 保険適用になった「慢性胃炎」のピロリ菌除菌

健康・医療トピックス

入学や就職、異動や転勤など、春は新しい生活が始まり、慣れない環境や人の中で緊張が続く季節です。生活が大きく変わることでストレスがかかって、なんとなく胃の調子が気になるという人は多いのではないでしょうか。

胃の粘膜に棲みついて、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんを引き起こす細菌として知られている「ヘリコバクター・ピロリ菌(通称、ピロリ菌)」。日本人の2人に1人がピロリ菌に感染しているといわれています。これまでピロリ菌の除菌治療は、胃・十二指腸潰瘍の患者さんのみに保険が適応されていましたが、2013年2月21日から「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎(いわゆる慢性胃炎)」に対しても保険診療が拡大されました。

vol.119 保険適用になった「慢性胃炎」のピロリ菌除菌

ピロリ菌とは

ピロリ菌は、らせん状の細長い形をした細菌で、体の片側に数本のひげ(べん毛)を持っているのが特徴です。体の免疫機能が完成していない子どもの頃に感染することが多いとされています。酸素や乾燥に弱い菌ですが、いったん胃の粘膜に侵入すると、アンモニアを産出して胃酸を中和。その状態が長くことによって、アンモニアなどの刺激で胃の粘膜が傷つきます。また、ピロリ菌から胃を守ろうとする免疫反応が働くことで炎症も起こり、それが長引くと慢性胃炎になります。

慢性胃炎を放っておくと、胃酸や胃液を分泌する組織が減って、胃粘膜が萎縮して薄くなってしまう「萎縮性胃炎」に進行し、さらには胃がんに発展する恐れがあるともいわれています。慢性胃炎の症状は、近年、身近な病気になってきた逆流性食道炎の症状とよく似ています。胸やけがする、胃の上部がおかしいなどの症状が現れたら、早めに医療機関を受診して、まずはピロリ菌に感染しているかどうか検査を受けるのが望ましいでしょう。

ピロリ菌の検査、治療の流れ

ピロリ菌に感染しているかどうかを調べるには、6つの検査法があります。検査によってピロリ菌陽性の慢性胃炎と診断されると、胃酸の分泌を抑える薬と2種類の抗生物質を7日間服用する除菌治療が行われます。治療終了から8週間後に再度検査をして、除菌されたかどうかを判定。再検査の結果、ピロリ菌陽性の場合は二次除菌が行われることになりますが、ここまで健康保険が適用されます。

●ピロリ菌を調べる6つの検査法

ピロリ菌の検査には、内視鏡を使う方法と使わない方法があります。

  • 内視鏡を使わない検査

    「抗体測定」…ピロリ菌に対する抗体があるか血液や尿の検査から調べる

    「尿素呼気試験」…診断薬を服用する前後の呼気を集めてピロリ菌を見つける

    「糞便中抗原測定」…糞便中からピロリ菌の抗原を見つける

  • 内視鏡を使う検査

    「迅速ウレアーゼ試験」…ピロリ菌が有するウレアーゼ(尿素を分解する酵素)の活性を利用して、ピロリ菌の有無を調べる

    「鏡検法」…採取した胃の粘膜を染色し、顕微鏡でピロリ菌を探す

    「培養法」…採取した胃の粘膜を培養してピロリ菌を見つける

早期発見・治療を目指して進化する内視鏡

前述したとおり、ピロリ菌の検査にはさまざまな方法がありますが、保険適用の対象となっているのは「“内視鏡検査で確定診断された”慢性胃炎」です。内視鏡以外の方法でピロリ菌の検査を受ける場合は、自費扱いになるので注意しましょう。

病気の早期発見や早期治療、患者の負担を軽減するための手段として、内視鏡は高性能に進化しています。最近では、胃に特定の波長をあてると毛細血管などの組織構造が鮮明に見えて、悪性か良性かが肉眼でわかるNBI(狭帯域光観察)機能を備えた内視鏡が普及し、組織を採取しなくても診断がつくようになってきました。また、鼻の中から入れる経鼻内視鏡は口径が約5ミリと細く、口から入れる内視鏡よりも患者の苦痛が少なくなっています。

除菌後も定期的に検査を受けよう

「ピロリ菌を除菌したら、胃がんにはかからない」と思って、胃の検査をやめてしまうのは禁物です。ピロリ菌は消えたとしても、胃がんの発症要因は老化や塩分のとりすぎなど、ほかにも多数あるため、発症リスクがゼロになるわけではありません。

また、ピロリ菌の除菌率は約8割といわれています。つまり残りの20%は除菌ができない状況にあるのです。その理由のひとつとして、治療に用いる抗生物質に対してピロリ菌が耐性をもっているのではないかと考えられています。また、治療で陰性になっても「偽陰性」という微妙な判定を示す人もいます。たとえ除菌に成功しても胃の粘膜が元に戻るまでには時間がかかるため、除菌治療をしても半年から1年後には定期的に内視鏡検査を受け、経過を観察していくことが大事です。

胃がん予防は20歳から意識しよう

ピロリ菌を除菌すると胃の粘膜がきれいになり、胃がんが発見しやすくなります。ただし、70~80代の高齢になって除菌しても胃がんの発症率はあまり変わりません。一方、若い世代が除菌すると、胃がんになる確率が低いことがわかっています。そこで専門家の間では、ピロリ菌検査を受ける最もいいタイミングは成人式のときといわれています。一般的に、がん検診は40歳以上の受診が推奨されますが、胃がんの予防は大人の仲間入りをする20歳から意識した方がいいようです。自治体によっては、成人式を迎える人を対象に無料でピロリ菌検査を実施しているところもあるので、この機会に検査を受けてみてはいかがでしょうか。

監修 公立昭和病院 院長・日本消化器内視鏡学会 理事長 上西紀夫先生

(参考)
『ピロリ菌の検査と除菌治療』大塚製薬
https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/h-pylori/tests-and-eradication/
『「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」除菌治療の取扱い』愛知県保険医協会
https://aichi-hkn.jp/member/150905-093000.html

更新日:2021.02.12

このコラムは、掲載日現在の内容となります。掲載時のものから情報が異なることがありますので、あらかじめご了承ください。

関連コラム

商品を見る