vol.155 「多汗症」治療でよくなる、わきの汗

健康・医療トピックス

汗ばむ季節になってきました。汗の量が多くて衣服に汗じみができる。わきの汗がしみ出して洋服や制服がすぐに濡れる。1日に何回も着替えが必要……。汗のこのような悩みで困っていませんか。日本人の7人に1人は、汗が多いことが原因で日常生活になんらかの支障があることがわかっています。多汗症は本人が困っていれば診療の対象になる病気です。しかし、このことを知らずに治療を受けていない人がとても多いといわれています。

vol.155 「多汗症」治療でよくなる、わきの汗

保険適用になった重症のわきの汗

多汗症(原発性局所多汗症)は、2010年に診断の基準や治療が示されたガイドラインが作成されて、治療が行われるようになっています。また、2012年11月には、重症のわきの多汗症(重度原発性腋窩多汗症)に対して、ボツリヌス療法(ボツリヌス毒素局所注射)が保険適用になり、2015年に改訂された診療ガイドラインでは、推奨される治療として記載されています。ボツリヌス療法とは、ボツリヌス菌が作り出したたんぱく質を精製し、薬にしたものをわきの下に注射する治療法。交感神経から汗腺へと伝わる刺激を遮断して発汗を抑えます。多汗症の診療に詳しい東京都立大塚病院 皮膚科の藤本智子医長は、「わきの多汗症は、最初に塗り薬(塩化アルミニウム含有)で治療し、これで7割の人がよくなります。重症の場合は、ボツリヌス療法で9割以上が改善します。効果は平均すると約半年続くので、夏の前に年1回注射する患者さんが多いです。重症でも治療によって悩みが解消できるようになっています」と話します。

多汗は、脳の発達と関連がある

汗は体温を調節するための生理現象です。でも、そもそも体の限られた場所から、なぜ多量に汗が出てくるのでしょうか。多汗は人間が進化する過程で、緊張や集中といった高度な精神活動をするようになって、脳を発達させてきたことと関連があるようです。「多汗症の人とそうでない人の脳を比べると、多汗症の人は精神的な負荷がかかると発汗を起こす脳の中枢が過敏に反応することがわかっています。汗腺の数や密度はどちらも変わりません。ところが、脳の信号が交感神経を通って汗腺に伝えられると多汗症でない人は1~2個しか働かないのに、多汗症の人は半分以上も働いて、その結果、汗の量が多くなってしまいます」(藤本医長)。

わきより深刻な「手のひらの多汗症」

体の一部に多量の発汗が起きる局所性多汗症は、わきの汗ばかりではありません。手のひらや足の裏、頭部や顔面にも起こります。わきの汗以上に深刻なのは、実は手のひらの汗だと藤本医長は指摘します。「手の汗が多いと仕事に就けないことがあります。美容師やマッサージ師、接客業や営業職など人と接する職業では、相手に不快感を与えるというのがその理由のようです。また、学生さんではページをめくるだけで教科書が濡れる、試験中も用紙が濡れるので力を発揮できない。手の汗で携帯電話が水没したようになる人もいて、とても困っています」。
手の多汗症については、塩化アルミニウムの塗り薬とイオントフォレーシスという治療法などがあります。イオントフォレーシスとは、水に微弱な電流を流して汗が出る部位を浸す治療法です。週1回通院して治療を行います。

多汗症は、ネット社会を映し出す現代病

汗をかくことは、ごくあたり前のことです。しかし、衣服にしみ出したわきの汗がテレビやインターネットで話題になり、清潔感や見た目がより求められるようになって、汗を気にする人が増えています。多汗症の増加は、ある意味においては現代病と藤本医長は話します。「わきの汗は精神的な要素が大きく、汗で嫌な思いをすると余計出てしまう。人と接して社会で活動することに憶病になります。だからといって、精神論だけでよくするのは無理があります。困っていたら一度受診してみましょう。汗が少なくなることを実感すると前向きになる患者さんが多いです。治療がそのきっかけになることを知ってほしいと思います」。
汗のために人とうまくかかわれない。職場や学校で困っていたら、それが日常生活の支障です。汗の悩みは、まずは皮膚科を受診しましょう。塩化アルミニウムの治療を取り扱っているかどうかを確認してから受診することが大事なポイントです。皮膚科で改善しない場合は、多汗症に詳しい医師を紹介してもらうことをお勧めします。

監修 東京都立大塚病院 皮膚科医長 藤本 智子先生

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