vol.156 拒食症を救え!動き始めた「摂食障害」のサポート

健康・医療トピックス

やせて美しくなりたい。多くの女性がそう願っていることでしょう。しかし、やせてもやせても自分では太っているように感じて、拒食という食行動が止められなかったら「摂食障害」という病気に進展しているかもしれません。
摂食障害の全国疫学調査によると2014年10月~2015年9月までの1年間に医療機関を受診した神経性やせ症の患者は、1万2207人。別の全国調査によると、女子高校生の有病率は0.17~0.56%と報告され、潜在的な患者が多いとみられています。こうした中、2015年に東北大学、浜松医科大学、九州大学に摂食障害治療支援センターが開設され、2016年3月には一般社団法人日本摂食障害協会が発足。摂食障害の診療と理解に向けた取り組みが徐々に始まっています。同協会の理事で、政策研究大学院大学保健管理センターの鈴木眞理教授は、「欧米では、摂食障害だけを診療する内科、婦人科、小児科、精神科などがチームになったセンターが数多くありますが、これまで日本にはありませんでした。3カ所といえども、日本で初めて摂食障害治療支援センターが開設され、今度は当事者・家族側に立った支援活動をしようと協会を設立しました」と経緯を話します。

vol.156 拒食症を救え!動き始めた「摂食障害」のサポート

拒食症は食べない病気。なりやすい人とは?

摂食障害は心理的な要因があって食の異常をきたす病気で、やせを主な症状とする「神経性やせ症(拒食症)」、過食を繰り返す「神経性過食症」などがあります。心理的な要因が絡んだ拒食は、本人の現実逃避の程度が大きいほどやせの程度は重症となります。「少食ややせをめぐって母親と大ゲンカになり、親子関係が悪くなるケースも多くみられます。本来は言葉で『助けて』と言うべき状況なのに、やせるだけなので周囲の者は本人の窮状に気づきません。自分では自分が病気だと認めないのも拒食症の特徴です。救急車で運ばれて初めて受診する人もいます」。
鈴木教授によると、拒食症は、本人の完璧主義や高い理想がむしろ重荷になって無理をしている女性に多いとのことです。本人が快適だと感じる生き方や本音と乖離がある人が陥りやすいと指摘します。「たとえば、有名大学に入りたい、一流企業に就職したいと周囲に語っていたとしても、本当の夢は、結婚して家庭に入って趣味を楽しみたいという人もいます。やせは辛さに鈍感になれるという異常な心理をもたらし、体重増加は反対に嫌な現実に近づく恐怖を感じさせるので、拒食症患者は無意識に体重増加を拒みます。『やせていると自分にとって不利だ』と自ら気づくことが回復の一歩なので、日本摂食障害協会では、受診していない方々に対しても体や心に関する情報提供をしたいと思っています」(鈴木教授)。

体組成の測定で「健康な体脂肪率」を維持しよう

太らないためには、脂肪や炭水化物(糖質)の多い食べ物を制限した方がいいという風潮があります。とくに脂肪は悪者にされがちです。しかし、脂肪にはホルモンを分泌する重要な役割があることを知っているでしょうか。「脂肪からレプチンというホルモンが分泌されることによって、食欲を抑えて肥満を防ぎ、月経周期がつくられることがわかっています。もし、脂肪のない体になったら、食欲は増すばかりで月経は止まります」(鈴木教授)。体脂肪率は低いほどよいと思っている人も多いかもしれませんが、女性の場合、20%以下になるとレプチンは分泌されなくなり、月経に異常をきたします。そのため、健康な体重と体脂肪を維持するバロメーターとして体重だけではなく体脂肪などを測定することができる体重体組成計を活用してほしいと鈴木教授はアドバイスします。

太っていることにもメリットがある

経済発展に伴って肥満が増加する世界的な潮流の中で、日本の20~40歳代の女性でやせすぎが増えています。今後は50代の女性でやせが増えるでしょう。また、不妊治療の医師の間では、20~30歳代の不妊の約半数は栄養失調による低体重が原因だといわれています。鈴木教授は「太っていることは、悪いことばかりではありません。体重が重い女性のメリットの一つは骨が強いこと。無重力では骨が溶け出すので、それを防ぐため宇宙飛行士は毎日運動をしていました。でも、運動だけではダメで重さも必要なのです」。また、体内の臓器がぶつかり合わず、一定の位置に収まって正常に機能しているのは、脂肪というクッションがあるおかげといいます。脂肪という緩衝材があるから、衝撃をうけても臓器がつぶれたり、破裂したりすることがないわけです。
死亡リスクが最も低い体重の目安は、標準体重プラス10%。つまり、ちょっと小太りの方が長生きといわれているのです。脂肪や炭水化物は、体にとって必須の栄養素です。最近は、炭水化物(糖質)を制限する人が増えていますが、脳のエネルギー源になるのはブドウ糖のみ。脳を動かすだけで1日500kcalが消費されるため、1日1000kcalは炭水化物から摂ることが勧められています。必要のない人まで制限して、無理なダイエットでやせを招かないようにしたいものです。

監修 政策研究大学院大学 保健管理センター 鈴木 眞理先生
一般社団法人 日本摂食障害協会 理事(関東支部長)

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